閑話:ジョシュ、芽生える。
本編100話記念。
※本編79話以降にお読み下さい。
たぶん、原因はマリィちゃんだと思う。
気が付いたら僕は権力や利益欲しさにカナタちゃんに取り入った最低な男だ、と噂になっていた。
「お前さぁ、売上げの為に友達選んでんのかよ。マジ最低だわ」
「ジョシュって、優しい振りして裏では悪どい事やってたんだねぇ」
「そんなに売上げとか気になるんならもっとマトモで誠実な仕事しなよ。上位に取り入るしか能が無いの?」
「俺さ、信じてるよ? でも、親が付き合うなって言うんだよ。ごめんな」
色々言われた。
「申し訳ありません! 僕の不注意で店にまで損害を与えました」
噂が巡りだし僕にも届きだした。終礼でじぃ様と父、兄弟子達に謝罪した。今日、注文が何件かキャンセルになり、苦情を言うだけ言って帰る精霊が何体も来た。きっと明日も同じようになるだろう。
「いや、これは予想外だからね。何もかもがジョシュのせいって訳でも無いよ」
「そうじゃな。そもそもカリメアと交流しとったのはワシだしな。嫁御もパトロンとかそんなつもりは無いじゃろ。こういった嫉妬が根底にある噂はすぐに消えるじゃろう。お前達もしばし我慢してくれるか?」
「「はい」」
「ジョシュ、お前が真面目に取り組んでるのも、純粋にあのお嬢様と仲良くなってるのも俺達は知ってるから、安心しろよ?」
兄弟子達が優しい。感謝して仕事に打ち込もう。
ユーリに誘われてカナタちゃんのお見送りに参加した。最初は迷ったけど、大切な友達だから行く事にした。皆は噂を知らなかったようでほっとした。もしかしたらカッパーの中でしか広まって無いのかも。
でも、ユーリは何かに怒っている。この前から妙に当たりがきつい、時々睨んでくる。今も。
――――ユーリも離れてしまうのかな?
それは嫌だ。どうにかしたい。
「ユーリ、時間あるなら公園の池の所を散歩しない?」
「……別にいいけどぉ?」
「うん、決まり。行こう?」
カナタちゃんとバウンティさんが仲直り出来た場所だし、僕らも仲直りしたい。
「ユーリ怒ってるの? この前から……何だろう。視線が痛い? 何となく睨まれてるなって思うんだ」
「っ……怒ってないし!」
「そっか、怒ってるのかぁ。何で? 僕、ユーリに酷い事しちゃったのかな? 教えてくれない?」
「怒ってないって言ってるじゃん!」
駄目だ、可愛いや。頬を膨らませて言っても意味無いのに。
「あはは……あ、ごめん笑って。ユーリは怒ってるとそう言うよね? そういう所、可愛いなぁ。皆、身長と見た目でユーリは大人だって言うけど、やっぱりユーリは可愛い女の子だよね」
そう言うと、ユーリは悲しそうな顔をした。
「カナタちゃんが好きなくせに、他の子に可愛いとか言って気を持たせるの? 最低だよ」
あれ? 何か違う事で怒ってた?
「うん、ごめんね。僕、最低だね。ユーリも僕と友達やめちゃうかい?」
「え……も? って何? 誰かとケンカしたの?」
良かった。ユーリはあの噂は聞いてないんだ。あ、でも、墓穴掘っちゃったなぁ。答えないと駄目かな。
「ねぇ! どうしたの? 答えないともっと嫌いになるから!」
「あはは。それは少し悲しいなぁ。ちょっとね……僕は権力や利益とかで友達になったんじゃ無かったんだけどね。僕はカナタちゃんに取り入った最低な奴らしいからさぁ。そんなヤツと付き合いたくないって友達から言われちゃってね」
悔しい。目頭が熱くなったので、深呼吸して上を向いた。
耐えろ、男だろ。カナタちゃんの前で泣いて、ユーリの前でも泣いたらホント立ち直れない。
「僕との関係って噂を信じてしまう程度の関係だったんだなって――――」
――――チュッ。
「っ……あっ。ごめん! バイバイ!」
「え…………ユーリ?」
初めは頬が温かかった。母さんが撫でてくれる時みたいだった。気付けばユーリの顔がピントが合わないほどの近距離にあって、唇に柔らかくて潤んだ物が当たっていた。
キス、していた。
「何で?」
そう呟いても誰も答えてはくれない。
ユーリは走って行ってしまった。
ユーリからキスされた。この数日のモヤモヤが全て吹き飛んだ。別の事でモヤモヤすることにはなったけど。
――――ユーリは何でキスしてきたんだろう? 僕の事が好きなのかな? じゃあ、何で逃げたの?
ぐるぐる考えても纏まらない。仕事をすれば集中出来るけど……ふとした瞬間思い出してしまう。
「どうしたんだい? 顔が真っ赤だよ?」
「父さん、ある娘の事を考えるとドキドキするんだ。でも好きかどうか解らないんだ」
「ユーリちゃんかい?」
「あれ? 僕ってバレバレ?」
「ははは」
父さんが笑いながら頭を撫でてくる。
「この間まではカナタちゃん、カナタちゃんって言ってたのになぁ。恋多きは良い事だよ? でも不誠実は駄目だよ?」
「不誠実?」
「うーん。例えば一度に二人に好きって言ったり、お付き合いしたり。違う人を思いながら他の人と付き合ったり。その人を裏切るような嘘をついたり……だね」
「……うん。あぁ、僕って最低だね」
「どうだろう、お前はまだ恋に恋してるって感じだからなぁ」
相変わらず父さんがニコニコと笑って撫でてくれる。
恋に恋か……そうかもしれない。カナタちゃんとバウンティさんの関係が羨ましかった。カナタちゃんともそうなりたいって思ったけど、それはバウンティさんがいたからだ。
振り向いてもらおうとか、全く考えなかった。せめて友達になりたいって思った。
「好きって難しいね」
「ははっ。そうだね。頑張って見極めなさい」
「うん。ありがとう父さん」
ニコニコしながら「母さんどこかなぁー」と足取り軽く消えて行った。仲良いなぁ……。
僕はまだ考えないといけないことが残ってる。
ユーリだ。ユーリにも恋に恋してるからなのかな? ただキスされてドキドキしてるだけ? 暫くしたら落ち着くのかな……。それまでは会わなければ落ち着く?
――――ズキッ。
なんだか心臓が締め付けられる。
ユーリに会えないのは嫌ってこと? そもそも、もう一週間近く会ってない。
ユーリに会いたい。会いに行こう。
「ジュドさん、こんにちは。ユーリいますか?」
「よー、ユーリ荒れてっけど? 仲直りしろよ?」
あれ? ここでもバレバレ?
「はい。頑張ります」
「若いねぇ。ぬふふふ。待ってな」
ジュドさんが裏の方に行って暫くすると、ギャーギャーと叫び声が聞こえてきた。
「やだってば! 大体、お兄ちゃんのせいなんだよ? チュッチュするから私まで癖になっちゃったじゃん!」
「はぁ? 俺知んねぇし! お前が我慢出来なかっただけだろー。ちゃんと話し合えよ?」
――――ガチャッ。
「おまたー」
ジュドさんがユーリを小脇に抱えて来た。ジュドさんは背が高いからユーリを軽々持てる。僕は……たぶん無理。成長期だけどユーリを越せるか分かんないなぁ。
「ユーリ、ごめんね。少し話ししたいんだ、また散歩しない?」
「……別に……いいよ?」
ふふ。また頬を膨らませてる。可愛いなぁ。
また公園に来た。ゆっくり歩きながら話す。
「ねぇ、ユーリ。僕ね、恋に恋してるって父さんに言われたんだ。そう考えると、カナタちゃんにはそうだったんだろうなって、なんだかスッキリしたんだ」
「恋に恋? 変なの」
「あはは。うん、変だよね。でね、ユーリからキス――――」
「ギャッ! 言わないで!」
ユーリに口を押さえられてしまった。
「私……ごめん! お兄ちゃんのせいでキス魔になってるみたいなの! アレはついしちゃっただけだから! 忘れて!」
――――え?
「つい、なの? 何の感情も無かったの?」
「っ……無いよ! だだ何となくしちゃったの!」
「そっ、か。僕さ……凄くドキドキしたんだ。ユーリは違ったんだね」
辛い。ユーリの目が見れない。
「ごめんね呼び出して。ユーリ、他の人にはあんな風にしちゃ駄目だよ? 勘違いさせちゃうから」
帰ろう。馬鹿みたいに浮かれてたけど、蓋を開けてみればただのスキンシップとかだったみたいだ。僕って……恋愛に向いてなさそうだな。すぐ泣いちゃうし。感情も無いキスにときめいて…………あぁ、僕はユーリが好きになっちゃってたんだな。
「ま、待ってよ……勘違いって?」
「うん、この数日ずっとユーリの事ばっかり考えてたんだ。それでね、会いたくなって来たんだ。キスされたの嬉しかったんだ。馬鹿みたいだけどね……好きになったんだよ。ユーリにはその気は無かったみたいだから、ちょっと……耐えれないや」
「えっ……」
「驚かせてごめんね。ユーリ、好きだよ。頑張って振り向いてもらいたいけど、今日はちょっと……帰るね? 送ってあげられなくてごめん」
早く立ち去ろう。涙が出そうだ。こんな弱い男じゃ振り向いてもらえない。バウンティさんみたいに格好良くて強い男になりたい。
二人の恋路は、あと一話書きます。
100話記念と言いながら話数計上間違えていた……orz