閑話:ユーリの恋路
本編100話記念に。
※本編79話以降にお読み下さい。
ジョシュがマリィから庇ってくれて以来何だか変。ジョシュを見ると何だかそわそわする。
カナタちゃんが体調悪いからってお兄ちゃんに頼まれてケーキを持って行く事になったけど、平静装えるかな?
「ユーリ、いらっしゃい。どうしたの?」
「カナタちゃんからジョシュにお礼のケーキだって。凄いんだよ!」
箱を開けて見せてあげた。
「うわぁ、何コレ。綺麗だね」
「ホールケーキの時はもっと凄かったよ!」
「え、ユーリはそれ見たの?」
「うん。カナタちゃんが昨日作ったんだって。夜一緒に食べたんだぁ。髪の毛も乾かしてあげたんだよ。何かね凄く可愛いの!」
ジョシュがちょっと寂しそうな顔になった。
「ユーリともそうやてすぐ仲良くなっちゃうんだ……」
「どうしたの?」
「……ごめんね。僕さ、カナタちゃんが好きなんだ。脈なんて一ミリも無いんだけどね。ユーリにまで嫉妬しちゃった。あはっ、ごめんね」
ごめんねって言われたけど、何か違う。何だろう。何か凄く嫌。
家に帰ってもモヤモヤが続いてた。
お兄ちゃんがカナタちゃんが王都に出発するから、ゴーゼルさん、カリメアさん、リズさん、ジョシュを呼んで一緒に朝ご飯食べて送り出してあげようと言った。
「ジョシュも呼ぶの? なんで?」
「あれ? お前嫌なの? ケンカした?」
「別にー。ジョシュ、カナタちゃんに失恋中だから呼ばない方が良いんじゃないの?」
――――ゴチン。
「こら! そういうのは勝手に話さない。ジョシュはお前を信頼して話してくれたんじゃないのか?」
「……はぁい」
だって何か嫌なんだもん。
「それになぁ、カナタちゃんがこの世界で初めて友達になったのがジョシュなんだよ。そんな友達が見送りに来てくれなかったら寂しいだろ?」
「そうなの? ……うん。来てくれなかったら寂しいね」
「じゃ、ジョシュにはユーリが伝えて来てね? 五時には必ず集合だからな!」
「わかったー」
ジョシュの所にそっと顔を出す。作業場で真剣に靴を作ってた。
「おや、ユーリちゃん。この前はケーキ届けてくれてありがとうね。カナタさんにも会えたら伝えておいてくれるかい?」
「わかった! おじさん、ジョシュ忙しい?」
「んー、あぁ、あの作業が終わったら中断しても大丈夫だから、ここで待ってなね」
「はぁい」
そっとジョシュの作業を見ていた。
いつもはオリーブ色の髪をサラサラと揺らしながら優しく笑ってるけど、作業してる時は物凄く真剣な顔で――――
「――――カッコイイなぁ」
「お、家に嫁に来るか!?」
――――へ?
「おじーちゃん……今の、聞こえてた?」
「うむ、バッチリじゃ! 早速、ジョ――――」
「だめぇぇ! しー!」
「なんじゃい? 好きなんじゃろい?」
「違うのぉ! ただ真剣に仕事して偉いなぁって思っただけなの」
「……ふぉぉぉん? そうかいのぉ?」
「そうなの!」
おじーちゃんのジト目が痛い。
「何騒いでるの? 作業場までユーリの叫び声が響いてたよ? じぃ様、ユーリ苛めないでよ?」
「なーに、未来の……まぁ何じゃ親睦を深めとっただけじゃ。な?」
「う、うん。ごめんねうるさくして」
「ほんと大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
サラリと髪を揺らして顔を覗き込まれた。ジョシュって男の癖に仕草が綺麗でちょっと可愛い。
「大丈夫っ! 明日ね、カナタちゃんが王都に出発するから、朝ご飯一緒に食べてお見送りしようってお兄ちゃんが言ってるんだけど、ジョシュはどうかな? 朝五時に集合なんだけど大丈夫?」
「明日なんだよね……。うーん、僕が行ってもいいのかなぁ?」
「はぁ? ジョシュはカナタちゃんの初めての友達なんでしょ? 来てくれなかったって知ったらカナタちゃん悲しむよ!」
「そっか、そうだよね。うん、行くよ」
「ちゃんと旅のプレゼントも用意してね!」
「分かった。ユーリは何あげるの?」
「私? ハンカチ。持ってなさそう。洗濯物にも無いし、部屋にも無いし」
「え? カナタちゃんの部屋に入ってるの?」
「バウンティの部屋だし。洗濯物届けたり、掃除したりするから否応なしに見えちゃうもん」
「……二人って、同じ部屋なんだ……」
そこ? まだ引きずってるの?
「カナタちゃん、きっとウジウジ系は嫌いだよ!」
「え……ユーリ……」
無視して走って帰った。ムカつく。なんであんなにカナタちゃんしか見てないの? 私と話してたのに!
カナタちゃんのお見送りで皆がハグしだした。
「ジョシュ君、ありがとー。帰って来たらまた色々作ってね?」
「うん。もちろんだよ。気を付けて帰って来てね? 暴走しちゃダメだよ?」
「むー。ジョシュ君はいっつもチビッ子扱いしてくるなぁ」
「あはは。カナタちゃんの方が小さいもん」
ブーブー言うカナタちゃんが凄く可愛かったけど、それを見て頬を染めるジョシュにイライラした。どうせ私は大女だし、可愛くないもん。
「ユーリちゃーん。あーあ、暫く会えないねぇ。せっかくお友達になったのに。帰って来たら遊んでね?」
「っ――――うん! カナタちゃんほんと可愛い!」
――――チュッ。
勢いあまって頬にキスしちゃった。
「ふぉっ、天使! お返ししないとっ! んー!」
カナタちゃんがキャッキャ笑って両頬にキスを返してくれた。背伸びしてるのがすっごく可愛いけど、お姉さんしたいらしいので言ったら駄目なんだろうなぁ。
「あはは。仲良いなぁ」
ジョシュがいつもより更に柔らかい笑顔だった。
――――カナタちゃんにはそんな顔するんだ?
モヤッとした。
カナタちゃん達を送り出して解散になった。
「ユーリ、時間あるなら公園の池の所を散歩しない?」
「……別にいいけどぉ?」
「うん、決まり。行こう?」
ジョシュが散歩しようと言ったのはデートスポットだけど分かってるのかな?
「ユーリ怒ってるの? この前から……何だろう。視線が痛い? 何となく睨まれてるなって思うんだ」
「っ……怒ってないし!」
「そっか、怒ってるのかぁ。何で? 僕、ユーリに酷い事しちゃったのかな? 教えて?」
「怒ってないって言ってるじゃん!」
「あはは……あ、ごめん笑って。ユーリは怒ってるとそう言うよね? そう言う所、可愛いなぁ。皆、身長と見た目でユーリは大人だって言うけど、やっぱりユーリは可愛い女の子だなぁ」
っ……何て事言い出すの? 意味が解んない。
「カナタちゃんが好きなくせに、他の子に可愛いとか言って気を持たせるの? 最低だよ」
「うん、ごめんね。僕、最低だね。ユーリも僕と友達やめちゃうかい?」
「え……も? って何? 誰かとケンカしたの?」
ジョシュが曖昧な笑顔で答えてくれない。
「ねぇ! どうしたの? 答えないともっと嫌いになるから!」
「あはは。それは少し悲しいなぁ。ちょっとね……僕は権力や利益とかで友達になったんじゃ無かったんだけどね。僕はカナタちゃんに取り入った最低な奴らしいからさぁ。そんなヤツと付き合いたくないって友達から言われちゃってね」
少し目を潤ませたジョシュが上を向いて耐えてる。
「僕との関係って噂を信じてしまう程度の関係だったんだなって――――」
――――チュッ。
「っ……あっ。ごめん! バイバイ!」
「え…………ユーリ?」
ヤバい。ヤバいヤバい。やっちゃった! ジョシュの口にキスしちゃった!
気が付いたらジョシュの頬を両手で掴んでキスしていた。
お兄ちゃんが事あるごとにすぐキスして来てた。口には三歳くらいまでだけど。流石に大きくなってからは頬にしかしてないけど。リズさんも事あるごとに頬にキスして来る。キス魔の二人に囲まれていつの間にか私までキス魔になってるじゃん!
ジョシュが何か泣きそうなの我慢してるのが可愛くて……つい。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「ちょ、ユーリ、急に帰って来て叫ばないでくれよ。ビビるじゃん」
「お兄ちゃんの馬鹿! 変態! キス魔!」
「え、急に? しどいっ」
「うるさーい! ばかー!」
変な噂が出てるみたいで気になるのに、もう外に出れない! 痴女だよ私! ジョシュに顔合わせれない!
ほんと、どうしよう。
記念と言っておきながら何の関係も無い話。