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閑話:チビバウンティの一日

※本編19話以降にお読み下さい。




 師匠に弟子入りして二年が経った。


「バウンティ様、朝ですよ」

「イーナ、師匠は?」

「まだお休みされています」


 今までの生活からは考えれないほど贅沢だ。

 ふかふかのベッド、温かい部屋、毎日起こしてくれる家令のイーナ、美味しいご飯、綺麗な服、立派な靴、何より楽しい仕事。


「ゴーゼル様はもう暫く起きそうにございませんので、先に朝食にしましょうか」

「ん」


 朝食を済ませたら師匠に言われている体力作りのトレーニングをする。

 腹筋・背筋二百回、腕立て五十回、ランニング十キロ、を毎朝晩やる。夏はプールで自由な泳ぎ方で五キロが追加される。楽しみだ。早く夏になってほしい。

 その後は、冒険者組合に行って掲示板の確認。


「おはようさん、また一人か? ゴーゼルさんは?」

「寝てる」

「相変わらず朝が弱いな」

「ん」


 何でか解らないけど、ゼペットってヤツはいつも声を掛けてくる。

 賞金稼ぎのセオリーとかいうヤツを覚えろと言う。そして師匠ならどう行動するかを考えろとも言う。師匠はセオリーを予想外の方向からぶち破るから、弟子なら予想付けてついて行けって。


「決めたのか?」

「ん、雪山のどこかで落とした形見の万年筆を探すやつ」

「その依頼、期限無しだぞ? 雪解けまで待てばすぐ見つかるだろ?」

「ん、そしたら競争率高くなる。場所の予想付いたし。金貨四十枚なら頑張る」

「ふっ。ゴーゼルさんも言いそうだな」

「ん、たぶん好きなやつ」

「あの山、冬でも獣が多いから気を付けろよ」

「ん」


 依頼の紙を剥がして一度家に戻る。たぶんそろそろ起きてる。

 モリモリ朝御飯食べてた。もう昼だけど。


「バウンティ様はお昼はどうされますか?」

「食べる」

「ではすぐお持ちいたしますね」

「ん」


 イーナがニコニコして厨房へ行った。


「朝のメニューこなしたか?」

「ん、終わるのちょっと早くなった」

「そうか! 来年には息切れしなくなりそうだな。そしたら新しいトレーニングに変えるか」

「師匠、プールは入れて」

「そういえばお前、楽しそうだったな。好きなのか?」

「ん。浮くの面白い。今度の夏は、どの泳ぎ方が一番疲れないか検証したい」

「なるほど、じゃあプールは絶対だな」 


 やった。楽しみが出来た。寒いの嫌いだけど、夏が来ると思えば我慢できる。


「バウンティ様お待たせしました」

「ん」


 温かいご飯はおいしい。家のシェフのご飯はもっとおいしい。カリメアの作るお菓子は甘くて幸せの味がする。また食べたいな。




「師匠、依頼決めた」

「おう、どれだ?」


 ご飯も終わり、食後の飲み物でマッタリする。

 いつもこのタイミングで、やりたい依頼があったらまず見せる。やりたい依頼が無い時は自由にしていいと言われている。

 今日はやりたいのがあった。依頼の紙を師匠に渡すと師匠はニヤリと笑って聞いてくる。


「なるほどな。で? どこから探す気だ?」

「この依頼人、こないだの俺達と同じ道通ってる。道酷かったの三か所で、馬車から物落としそうなのは麓近くのとこ」

「よっし。じゃあ、行くか!」

「ん」


 防寒着をイーナに沢山着せられて、馬車で雪山の麓近くの道が荒れている場所まで来た。


「をっし、じゃ探すか。お前は右側な」


 師匠はそう言ってシャベルを渡してきた。


「師匠、依頼出てから雪降ってないけど……」

「バウンティ、いいかぁ、町では確かに降ってない。だがなぁ、標高差がある山じゃぁ降ってるんだよ。覚えとけ」

「ん」


 二時間くらい雪を掘り起こしながら探していると、日が差してきて冬なのにとても暑くなった。

 暑くてコートを脱ぎ、帽子、手袋も外した。


「師匠、なんでシャツまで脱いでるの?」

「暑っちぃじゃねぇか」

「ん。暑いけど。風邪ひく」

「ひいたことねぇな。お前は?」

「……無い」

「わはははは! 脱いどけ」

「ん」


 遠くから馬車が来ているのが見えた。あの白い馬……


「師匠、カリメア来た」

「はぁ? ここの事話してねぇよな? 何かあったら精霊来るしなぁ? まぁいいか」


 よく分からないし、到着するまで放置して捜索を再開した。


「ちょっと! 貴方達、裸で何してるのよ? 風邪ひくわよ!」

「ぶはははは。ひいた事無い!」

「そうね、バカはひかないわね」

「おう!」

「はぁ。バウンティわざわざ付き合わなくてもいいのよ?」

「ん、俺も暑いから大丈夫」


 カリメアの気持ちは少し解る。師匠は何を言われても笑って受け流すから、ため息が漏れ出るんだ。


「で、カリメア。何しに来たんだ?」

「そうそう、この先の崖の下に希少な薬草が群生していたの見付けたじゃない? それが欲しいって国王からの依頼があったのよ」

「国王が?」

「王女が喘息らしくてね。薬が欲しいんですって。あれ、よく効くのよねぇ」

「カリメアが崖降りるの?」

「え、なわけないじゃない。生えてるかの確認よ」


 なるほど。じゃあ、早く万年筆見つけないと。どうせ俺達がやることになりそうだ。日が落ちてからの崖は危ない。


「あら、……ん? 万年筆があるわよ。ゴーゼルの?」


 左側の、師匠が掘り起こして捜索済みの場所でカリメアが万年筆を拾い上げた。


「……師匠」

「がははは、そういうこともあるわな!」

「無い」

「なぁに? これ探してたの? ……え? 探したの?」

「俺も聞きたい」


 師匠が口笛を吹きながら明後日の方向を向いて服を着だした。しょうがないので俺も着る。


「おっし、金貨四十枚ゲットだな!」

「あらぁ? 私が見つけたんだけど?」

「……薬草取って来るんでバウンティに譲って下さい」

「あら、バウンティが選んだ依頼だったの?」

「ん」

「じゃあ、バウンティも薬草取って来てね」

「ん、解った」

「いい子ね」


 ぐりぐりと頭を撫でられた。師匠が「俺も撫でて!」と騒いで煩かった。




 崖にロープを垂らし垂直降下していく。二十メートルの所に苔のように群生している薬草をナイフで削って採集した。根を残しておけばまた生えるらしい。


「お、バウンティ、登りは腕力で登れるようになっとけ」


 急に師匠がそう言って俺のロープをブチッと引き千切った。三時間以上も雪掘って疲れたのに!

 イラッと来て本気で崖登った。やれば出来るもんだな。

 師匠はまだ崖下で薬草取ってたから崖上から叫んだ。


「師匠ー。師匠も年取った時のために体力作りしといた方がいいと思う」

「まて! おまっ、やめろ! あぁーっ」


 笑ってロープを切った。ちょっとスッキリした。


「ゴーゼル、ロープもったいないから二本とも持って帰ってきなさいよ!」

「鬼っ!」

「あぁん?」

「可愛いよー、大好きだよー、カリメアさーん」

「五分で登ったら許してあげるわよ」

「はい!」


 本当に五分で登って来た。意味が解らない。

 途中腕力だけで上に飛んだりしながら出っ張りを掴む。そしてすぐ次の出っ張りに手を掛けていた。次の行動を考えながら動いていた。うん、俺もこんな感じで登りたいな。


「ふー。間に合った」

「師匠、カッコ良かった!」

「うははは。そーだろ、お前の師匠は最強なんだぞ」

「ん」


 またグリグリと撫でられた。


「はぁ、ほんとに登って来たわね。体力だけは天下一品よねぇ……」

「褒めてるか?」

「ええ、褒めてるわよ」


 師匠、ニコニコだけど褒められてないよ。とは言えないな。




 賞金稼ぎ協会に戻って納品する途中でゼペットに会って褒められた。

 褒められるのはちょっと嬉しいな。


「賞金は口座に入れてていい?」

「ん、貯める」

「はい、お疲れ様です。バウンティくん、また明日ね」

「ん」


 受付の人も時々話しかけてくる。

 家に戻るとイーナに軽く心配された。


「バウンティ様、びしょ濡れじゃないですか! 早くお風呂に入って温まって来てくださいな」

「ん」


 家の大きい風呂に行ったら脱衣所に師匠とカリメアがいた。


「おう、どうした?」

「あら、バウンティも一緒に入る?」

「……いい。部屋のに入る」


 ラブラブを邪魔したら駄目だ。

 ただでさえ周りに結婚反対されてなかなか話が進んでないし。俺を引き取って更に話がややこしくなってるし。あんまり二人でのんびりする時間が無いって師匠がぼやいてた。

 今日は自分の部屋にあるバスタブに入ろう。


「バウンティ様、お着替えとタオル置いておきますね」

「ん」


 メイドの一人が着替えを持って来てくれた。イーナは師匠の方に行ってるんだろうな。

 ここに来た頃は師匠やカリメアと一緒に入ってたせいか妙に寂しい。いい、奥さんもらうまでの少しの我慢だ。




 俺もいつか俺の奥さんと一緒にお風呂に入ろう。優しい奥さんだといいな。




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