閑話:カン、楽しむ。
バウンティとカナタの結婚式に、カナタへのサプライズとして招待された。
一先ずラセット亭に宿泊だ。
「お待たせ、ここがラセット亭だよ」
「……? ここですか?」
いや、綺麗だよ? 普通に綺麗だけど、ここで合ってるんだろうか。こじんまりとした木製二階建てのホテルだ。
「あー、もしかして客船が豪華だったから宿が質素で驚いてる?」
「っ……はは」
――――バレてる?
「あははは。笑ってごまかしてもダメだぜー? 宿泊代も部屋も普通だがなぁ……飯が、どのレストランよりもうめぇのよ。あと、バウンティの親友のホテルなんだよ」
「そういうことか! あはは」
車から荷物を下ろしてもらい宿に入る。
「ジュド! 連れてきたぜー!」
「ほいほい、いらっしゃーい」
パタパタと裏の方から走って来たのは、サラッサラの金髪をなびかせた、憎らしいほどのイケメンだった。高校とかにいたら女子がキャーキャー叫びそうだ。
――――俺だってちょっとは……キャーくらいは言われてたしぃ?
小さな対抗心が芽生えたが笑顔で出迎えられたら戦う気力を失った。笑顔まで素敵って、なんなんだっつーね。
「ニール、ありがとね!」
「あ、ありがとうございました」
「いいよー。じゃあ、結婚式でなー」
ニールも参加するらしい。
「カン、カン! 部屋は二階で、案内は後でするから、ちょっと手伝って!」
「え? は? オイ!?」
グイグイと引っ張られて、キッチンに連れて来られた。
「ジュ、ジュド、だっけ? ちょっと……あ、カナタがカレー粉のレシピを一人だけに教えたいって言ってたのはアンタか!」
「うん、そー! ね、丁度焼き立てなんだよ、味見して?」
またもやキッラキラの笑顔で焼き立ての餃子を差し出された。勢いに負けて味見してしまった。
「ん、ん! キーマカレーとチーズか……普通に美味い」
「あー! やっぱ普通だよね? うあー。んー。こっちは?」
「ん。カレー味のマッシュポテトか……揚げた方が美味いよ?」
「……作ったことあるんだ?」
――――あ、何か凹んだ?
「いや、生まれた時から知ってるって言っても過言では無い料理だしさ……ほら、こっちの奴らはパイに色んなもの入れちゃうじゃん? それと一緒だって!」
「んー、そうだよねぇ。何かあっと驚くもの包みたいなぁ」
「解るけどな、普通が一番うめぇよ?」
「いや、それも解ってるよ? だけどさー、カナタちゃんに誉められて、リズを悔しがらせたいんだよねー」
「リズって?」
「ん、彼女」
――――あ、手伝わないで良い気がしてきた。
「ん? もしかして、パティシエ?」
「パティ?」
「あーっと……菓子職人?」
「そーそー」
――――なるほど、そう言えばカナタがリズに作ってもらってるって言ってたな。
「ジュドの彼女、超才能あるよな。俺、感心してたんだよ」
「マジ? 何か嬉しいなぁ……って、だから、何かヒントちょうだい!」
なんつーか、気兼ね無く話すヤツだな。あと、料理のセンスも良いみたいだ。荷物を片付けたら一緒に料理してみよう。
「いや、だからさー、茹では無理だって!」
「美味いのに!」
「ああいう場はさ、揚げかパイにしちまうのが一番なんだよ」
「そんなん、普通のシュリンプパイじゃん!」
海老水餃子を立食で出す馬鹿はいないだろ。美味いのは解るが、間違いなく皮がクタクタのドロドロになる。
「そもそも、これ、カナタちゃんが好きって言ってたから既存だよね?」
「……あぁ、普通の海鮮水餃子の部類だな」
「あーあ。何か煮詰まってきたぁ」
――――モグモグ。
「あ、カンも食べる?」
渡された餃子をつまんだら食べた事の無い味がした。
――――これ、鮭? 肉? え? 両方?
「なー、鮭と肉混ぜたのか? 初めて食べたけど、美味いな!」
「へ? 初めて?」
「あぁ」
「あーもー! カナタちゃんのトラップって判り辛い!」
どういう事かと思ったら、カナタと作っていた餃子らしい。しかも普通の餃子のような扱いだったらしい。あいつ、妙なレシピ持ってんな。
「普通混ぜないの?」
「いや、魚と肉って混ぜるの勇気いるだろ……」
「俺も思ったよ!」
だよな。普通の料理人なら魚を肉と混ぜるとかあまり考えないと思う。日本なら鰯ミンチとかまぁ、多少していたけど。でも、鮭だ。普通、鮭の風味を生かしてポテトやチーズと合わせたりするだろう。
「んー、あとは……バジルとポテトでも美味いけどな。餃子の皮でやる必要ないんだけどな」
「じゃがバターで揚げ餃子ってのは?」
「美味いぜ……あ、ほうれん草とベーコン、チーズを包むの有りかも。ボロネーゼもいいよなー」
「それ! 採用!」
大急ぎで具材を作った。包んで揚げてみる。
「うん。ボロネーゼはパイの王道だしな。美味い」
「ほうれん草のめっちゃ美味いんだけど!」
「あぁ、じゃがバターもふわふわで美味いな。あ……アボカドシュリンプをバジルマヨで和えて揚げるとか?」
めちゃくちゃ美味かった。ワインに合う! 色々となんだが、結婚式にはじゃがバター、ほうれん草、アボカドシュリンプ、キーマカレーの四種類を出すと決めたらしい。
「あ、なら俺はブースに立っとくぜ。参加するよりはそっちにいた方が落ち着くし。カナタもビックリしそうだしな!」
結果、サプライズは大成功だった。カナタがかなりビックリしていた。妙な奇声も出していた。
翌日、ラセット亭にカナタとバウンティがご飯を食べに来たので一緒に食べる事になった。
「そう言えば、カンさんって何となく日本に帰りたがってはいましたけど、誰かに連絡か何かしたかったんですか? 家族? 恋人?」
「あー、まぁ……一応な。実家で暮らしてたからなぁ。無事くらいは知らせてやりたかったんだよな。彼女はいたけど……待ってないだろうからそっちは良いんだよ。将来を約束してた訳でもなかったしな」
「そーなんだぁ」
そんな会話をしつつ食事を終わらせた。
休暇は九月いっぱいもらったから、ローレンツ内を巡ったり、ジュドと色んなレシピの交換をしていた。
「こんにちはー! カンさんいますかー?」
「おー、キッチンにいるぜー」
食堂側からカナタがひょっこり顔を出した。
「今、時間良いですか?」
「大丈夫だけど、どうしたんだ?」
「えっとねー……お部屋で話しましょうか。バウンティはここにいてね?」
「ん」
よく解らないままに、何故かラセット亭の部屋でカナタと二人きり。先日、結婚式を見ていたからなのか、妙な罪悪感がある。
「これ、携帯電話がちょっと進化したやつです」
そう言えば前に言ってたな。それがどうしたのかと思ったら、日本と電話を繋げれるらしい。しかもテレビ電話も出来るらしい。多少意味が解らなくて突っ込みたいが、最後まで話をきいてみよう。
「でね、とーさんが、カンさんのご両親、探して見付けてくれたんです」
「は?」
「今、電話出来るけど、話す?」
「それ、タチの悪い嘘じゃねぇよな? 電話……話、出来るんだな?」
「はい。どうします?」
「……あぁ、話したい」
スマホの操作や機能を軽く教えてもらい、アプリとか言うやつでビデオ通話……ってのを掛けた。
カナタは気を利かせてくれて、部屋から出て行った。
『やぁ、貫太郎くんだね? カナタの父です。ご両親に代わるよ――――』
『ミーオ カロ フィーリオォォ!』
「あー、はいはい。久しぶり親父。かぁちゃんは?」
『いるわよー、ほんとにカンちゃんなのね。十五年、ずっと……探してたのよ?』
「んー、ごめんな。元気にしてた? 病気とかはしてないか?」
『カーン! なぜ、私を無視するのですか!』
「してないって。久しぶりって言っただろ」
『……オー、確かに! ワタシ、元気ですよ! アヤもとっても元気ですよ!』
『カンちゃん、何だか……変わりなさそうで安心したわ』
本当に変わってないのだが、どう説明したものか……。
「あぁ。なぁ、瑠美…………やっぱいい」
『瑠美は結婚シマシタよ!』
『トマさん! もうちょっとオブラートに――――』
『こういうのはハッキリ知った方が良いんデス。そうでしょう? カンタロー?』
「ん、まぁな。ありがと。親父の空気の読まなさは、たまには役立つよな」
『あれ? 感謝してマスカ?』
「してるしてる。それより、俺がどこにいるかとかは――――」
どうやら、カナタの両親からある程度聞いたらしい。良く信じたものだ。詐欺とか、何かしらの犯罪じゃないかとか思いそうなものだが。
どうやら、カナタの両親はつい最近まで毎日のようにテレビに出ていたらしい。
心を病んだ四十代の男が大型トラックで暴走し次々と車を潰して行くという事件があり、カナタの母親が娘も一緒にいたと言うが、一切の痕跡無く消えてしまっていた為、ワイドショーで持ちきりだったらしい。
『ご両親がメディアに対して余りにも冷静に対処されてたのと、お母さんがちょっとヤンチャしていた方だったからぁ……ね。色々と黒い噂が飛び交っててね』
そんな人物が急に現れて、息子について話があると言われたらしい。そして、良く良く聞くと思い当たる節が多すぎて信じる他無かったそうだ。
『カンタローが帰って来る時間にも大きな事故があってたんですよね。カンタローの場合は、家出だろうと事件にも何にもなりませんデシタね。もしかしたら同じように飛ばされたのかも、とね』
『カンちゃん、家出する子じゃないし!』
何だその自信は。まぁ、間違っては無いがな。荒唐無稽な話を信じてくれて良かった。そのおかげで話せてる。
『あと、カンタローの写真も見せてもらいましたし』
「は? いつの?」
『カナタちゃんの結婚式! 可愛い子ですよねぇ。カンタローが写り込んでました』
写真とか撮ってたのか。気付かなかった。異様なほど有名な賞金稼ぎ達が参加していて、相手するのに気を取られていたからだろうか。
「まぁ、何にせよ会えて、話せて良かったよ。俺、こっちから帰れそうにも無いけどさ、まぁ、生きてるし。心配しないでくれよ」
『何言ってるの、いつだって、どこにいたって、いつもカンちゃんの事、心配してるわよ!』
「ははっ、ありがと。これからは何かあったらカナタ経由で連絡入れてもらうよ。カナタの親は?」
『部屋の外に行ってくれてるの。呼んでくるわね』
そういう所はそっくりなのか。さっきの第一印象でしかないが、カナタの親にしてはとても冷静そうでいて、冷淡そうな印象を受けた。
「あ、ありがとうございました。心のつっかえが取れてスッキリしました」
『良いんだよ。僕等も同じような境遇の人が見付かって少し安心出来たしね』
「カナタを呼んできますね」
『あぁ、このまま切ってくれて大丈夫だよ。カンくんは優しい子だね。ありがとう』
言われるがままに通話を終了した。
久し振りに子供扱いされた。昔は嫌だったけど、少し心地良い。あと、何だか解放されたような気がする。
――――ガチャッ。
廊下にはいないので食堂辺りだろうと思い下りる。案の定、食堂でバウンティとイチャイチャしていた。
俺もこっちで家族でも作ろうかな。
「おー、カナタありがとな! スッキリしたよ」
「スッキリ? 電話もう良いんですか?」
「あぁ。何かあったら伝言とかお願いするかもだけど、良いかな?」
「はい、喜んで!」
屈託無く笑って快諾してもらえた。また話せるという安心感はとても大きいものだった。
「カーン、行かないでぇぇぇ」
腕にすがり付かれた。
「……ハァァァ」
「えっ、何その反応」
「せめて女子に言われてぇ」
「女装して来ようか? 美人になるぜ?」
――――でしょうね!
帰る準備をしていたら、ジュドが部屋に乱入して来た。こういうアホな所は好きなんだけどな……男だし!
カナタ達に色んな人や場所を紹介され、ローレンツが好きになった。ここの人達は元奴隷とか気にする奴は少ないらしい。
王都は物凄く気にされる。雇うのも、恋愛対象としても。
「まぁ、来年の休暇もここに来るよ」
「まーじーでぇー! カン、大好きだァァ!」
「……うわぁぁ。二人共、キモッ」
このタイミングで頼んでた洗濯物をユーリはが持って来てくれた。暴言も吐かれたが。
「何で俺も!?」
「えー、カンがお兄ちゃんに気を持たせてるようにしか見えないよ?」
――――くそ、この美人兄妹め!
ジュドに紹介されて一瞬浮き足立ったが彼氏とラブラブだった。俺に出逢いは無いのか?
来年に賭けよう。ただし、カナタの言う『イイ人』は信用しない事。これ重要な。
取り敢えず、来年も楽しみだ。
お久しぶりのカン話です。