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閑話:カン、旅をする。

※本編終了後にお読み下さい。

 



 八月末、暫くは来ないだろうと思っていたカナタがまた王都へ来ていた。相変わらずバウンティと仲良くやっているようだな。

 保健の際どい発言や精霊テロを怒ったら『イイ人を紹介する』と言うから、物凄い期待をしたが。


 ――――コイツを信じた俺がバカだった。


 普通、イイ人を紹介するって言うのは恋愛対象だろ。何故この国の最上位の人物を連れてくるんだ。カナタは気にせず紹介していたけど、周りの客が顔面蒼白になって一時停止していた。

 まぁ、店長は色めき立っていたが。思いの外ミーハーなんだよな。サインもらって「もう死んでも後悔も悔いも無い」とかバカな事言っていた。

 その日の昼休み、店長のスクラップブックをカナタが見ている間にバウンティがそっと話し掛けてきた。


「カン、内密に頼みがある」

「おぉ、何だ?」


 重低音で声を抑えて話しかけられたから、何か命を懸けるような事になるんじゃ? とか一瞬不安になった。


「九月十日にローレンツで結婚式するんだが、参加してくれないか? サプライズでカナタを喜ばせたい。旅費はこっちが出す」


 って、乙女のようなお願いだった。快諾した。丁度行ってみたいって話をしていたし、楽しみになってきた。




「カン、バウンティより届け物だ」


 急にオスのライオンが現れて封筒を渡された。ちょっとチビりそうになったとか決して無い。だって男の子だもん。


「あ、ありがとうございます」


 精霊は手紙を渡すと消えてしまった。

 恐る恐る封筒を開けると中に手紙などが入っていた。店長が興味津々に覗き込んでくる。


「何て書いてあるんだ?」

「えーっと……は? いや、強制的過ぎるだろ……いや、ありがたいけど……ヒッ!」


 まず、手紙。『客船に乗って来い、チケットは同封している。その他の移動手段はタクシーを使え。ローレンツでの宿泊先はラセット亭に行け、カンが行くことは伝えてある。その他、必要経費があれば好きに使()()()構わない』

 同封された船のチケットを見る。『クイーンラテシア号 一等客室 八〇〇一号室』

 そして白金貨がポロリと出てきた。


「はっ、白金貨!?」

「クイーンラテシア号のチケット? 一等客室!?」


 金銭感覚のズレが怖い。下の下の奴隷上がりのカッパーなんて、一生拝めないであろう白金貨。

 そして定期船の中でも最高級の豪華客船のチケット。貴族や金持ちが協定のある国を巡り、観光や外交、パーティーをする為の客船。定期船も担っているので、船底近くの客室なら解る。


「何で一等客室!?」


 値段を知るのが怖い。


「バウンティ様って凄いな。封筒にポイっと白金貨入れるとか……取り敢えず、カンの休暇はチケットに合わせるか?」

「……うん。店長、何か、ごめん」

「いや、うん。なんか、仕方無いだろ……うん」


 店長が引いていた。俺も引いているが。




 知っていたさ、豪華客船って。でもさ、豪華が過ぎる。

 ベッドルーム、リビング、バスルーム、しかも室外テラスあり。まさかの専属の執事付き。

 船にはプール、カジノ、オペラハウス、図書館、子供用の遊技施設、サーカス、船内庭園などがあった。


「カン様、本日一時よりウェルカムパーティーがデッキで行われますが、ご参加されますか?」

「あ、はい」


 気まずい。そして馴れない。


「あの、ダメだったら良いんですけど……」

「何でございましょうか?」


 物凄い笑顔で聞かれた。言い辛いが、覚悟を決めて言おう。


「タメ口で話してくれません?」

「……」


 無言で微笑まれてしまった。


「俺、チケットプレゼントされただけなんですよ。その、たぶん執事さんより地位が低いんですよ。いたたまれない! 気が気じゃない!」

「……っ、はははは。っと、失礼致しました。こんな正直なお客様始めてで、少しツボに……ふふっ」


 それからは口調を崩して、タメ口で色々と話した。ギルバート、三十歳。そして、俺の地位が低いのには気付いていたらしい。


「いや、服装がね」

「これ、一張羅なんだけど!?」

「ぶふっ。ウェルカムパーティーの前にパーティー用の服を用意しましょうかね」

「は? どうやって?」


 無料でレンタル出来るらしい。なんだこの至れり尽くせり。


「それだけの代金払ってるからね」

「うあー。やっぱりアホみたいに高いんだ」

「値段知らないで乗ってるんだ?」

「プレゼントされたって言ったじゃん」

「言ってたね。なに? 女パトロンでもいるの?」


 ギルバートがニヤニヤと聞いてきた。


「お前、執事のくせにゲスいな! バウンティだよ」

「……は? バウンティってあのバウンティ? 金剛不壊?」

「それそれ」

「ちょ、詳しく!」


 転移者なのは伏せておこう。カナタと同じ国出身だった事から仲良くなって、バウンティともたぶん仲良くなった、と話した。

 カレーを割りと気に入ってるらしく、カナタからブチブチとノロケたグチ付きのカレー粉の依頼が届く。煮込むだけだから作ってやれば良いのに。


「たぶんって何? 意味わかんないんだけど?」

「夫婦ゲンカに巻き込まれて、バウンティに相談されたりとかな」

「……仲良いだろ!」


 ――――そうなのか。カナタを喜ばせたい一心の行動な気がするけどな。


「でもさ、この前から新聞で賑わってたじゃん? 聞いてると、そんな渦中の人物とは思えないな」

「新聞? なにそれ」

「えっ? 知らないのかよ!?」


 新聞とか買わないし。この所、旅行の準備や、ストックのカレー粉造り、その他の事で忙しかったし。

 王族との対決の話をそれはもう楽しそうに話された。


「あー。それね。新聞に載ってたんだ」

「えぇっ、なにその反応!」


 カナタがローレンツに帰った後、日替りで王族が店に来ていた。カレーを食べつつ色んな相談をされた。

 キーラ様、フェイト様はカナタがまた王都に来たくなるにはどうしたらいいのかと。

 ヨウジにはバウンティとカナタがまたケンカして、カナタが体調を崩していた話と、二度と王都に来たくないと言われてしまった話を聞いた。

 フォード様はカナタのせいで子供達に無視されている、二人はここでどんな話をしてるのか教えて欲しいと。

 国王は自分の甘さのせいで娘が道を踏み外した、カナタに迷惑をかけた。友だと思っていた二人に見放されたと昼から酒を飲んで話すような内容をカレーでグチられた。


 ――――まぁ、誰にも話せないな。


「当人達から聞いてたからなぁ。それに忙しかったし」

「そっか、友達だしな。知ってたら新聞の発表や噂をわざわざ読まないか」


 そういう事にしておこう。




 パーティーは豪華絢爛その一言につきる。ディナーはフレンチ風のコース料理。元の世界よりも美味しかった物もあれば、何故こんな処理した? みたいな残念な物もあった。


「ふぅ、美味い。メイン料理はもう少し凝ってても良いかとは思うが、船でここまで出せれば充分だろうな」

「……いや、カン、どこ目線だよ。お前カッパーだろ?」


 ギルバートが小声で怪訝そうに聞いてきた。


「あー、元の国ではこういう系の料理人だったんだよ」

「マジで? なんで……部屋で詳しく聞く!」

「ハイハイ」


 懐かしい。今は店長とワイワイやってるのが楽しいから戻りたいとは思わないが。レストランで働くのも結構好きだったんだよな。


 ――――親父とかぁちゃん元気かなぁ。




「で! 何で奴隷になったんだ?」

「部屋に入った瞬間か! まぁ、人攫いに売られて?」

「マジか。大変だったんだなぁ……」


 色々とあったが、今もあの頃も俺らしく生きてるとは思うから、誰かを恨むほどの思いは無い。聞いてる限りカナタの方が大変だとは思うが、アイツもアイツで大変だとは言わないから、まぁ幸せなんだろう。


「しかし、ギルバートはずっと船で生活してるのか? それも大変そうだけど」

「いや、一航海で交代制だよ。三ヵ月で交互にやってるんだ」


 航路を一周したら船を下りて休暇らしい。そしてまた三ヵ月後に船に乗るらしい。毎日一切休みがない家付きよりも気楽でいいそうだ。


「まぁ、主人がいない気楽さの代償は給料だけどな。色んな出会いがあって楽しいぜ?」

「そうだな。タメ口出来る客も来るしな?」

「うははは。自分で言うなよ!」


 初めはド緊張してたけど、いい船旅になりそうだ。




 四日間、いろんな施設を利用したり、プールでのんびりしたりととても充実ていた。


「あーあ、もう下船かぁ。長期で乗ってる人の気持ちが分かったところで到着ってなぁ」

「ははは。大金持ちになってまた乗ってくれよ?」

「そうだなぁ。でも、ギルバートがいないと言葉通じねぇしな」

「いや、それは、どの執事でも大丈夫だろ?」


 フィランツ語は世界共通語ではないが数ヵ国で通じる。だがこの船はカルマータという国の船だ。ほとんどの船員は数ヵ国語話せるが客は違う。ちょくちょく話しかけられてはギルバートに助けてもらっていた。非常に助かった。


「じゃあな、またどこかで、いつか」

「あぁ、またな!」


 こういう一期一会は楽しいけど、別れ際はやっぱり寂しい。




 港にいたタクシーに乗りローレンツに入った。タクシーの運転手にラセット亭に行きたい事を伝えると、外町と中町の境目だという通りに連れて来られた。


「あんちゃん、タクシーはここまでしか入れねぇんだわ。ちょっと待ってな」


 運転手のおじさんが別のタクシーの運転手に話しかけていた。


「おぉ! カンだろアンタ!」

「え、あ、はい」

「バウンティから今日あたり着くって言われてたんだよ、ラセット亭まで送ってくから、こっちに乗り換えな」


 ここまで乗せて来てくれた運転手にお礼と代金を払い乗り換えると、タクシーは当たり前のように『この先、走行禁止』と書かれた看板を無視して、ぐんぐん進んでいく。


「あの、車ダメなんじゃ?」

「いーのいーの。バウンティの許可証もらってるから」


 そう言って笑いながら運転された。気にしないこの運転手も怖いが、許可証で走らせちゃうバウンティも怖いなと思った。

 ラセット亭ではどんな事が待っているんだろうか。怖さ半分、ワクワク半分だ。




 カン話、あと一話続きます。

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