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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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097 のっぺらぼう

 対峙するラングヴァイレとのっぺらぼう。

 ろくに顔を持たない邪悪な二人の戦闘が始まった。

 口が描かれた黒いスイカが羽を生やして飛んでいるような大きく不気味なコウモリのモンスターを従え、奇襲をかけられたラングヴァイレだったが、魔界の剣を握ればまさに鬼に金棒。来いよ、と手招きしてみせた。

 のっぺらぼうのコウモリはその体格でありながら分裂で殖えていく。ねずみ算式にみるみる殖えてのっぺらぼうの周りを黒く囲んだ。

 行けと言うようにのっぺらぼうがラングヴァイレを指差した。コウモリたちが一斉に襲いかかる。


「はっ、のろまなヤツらだなぁ」


 矢のように飛来するコウモリたちもラングヴァイレからすれば止まって見えるのだろう。一体一体が的確に狙われ爆散し、次から次へと緑の血飛沫が飛び散る。あるものは殴られて、あるものは蹴られて、あるものは一刀両断されて、原型も留めず肉片と血飛沫に姿を変えた。

 しかし、中には賢いものもあったよう。わざわざ遠回りしてラングヴァイレの背後に回り込み、虎視眈々と時を待ち、そして魔界の剣に自ら喰らい付いて見事に右腕ごと飲み込んでしまった。

 それでもラングヴァイレはまるで想定の範囲内だったかのよう。悪態一つつかず引き剥がし、右手を一瞬で生やして殴り殺した。


「そんな図体してこんなオモチャしか使えねーのか?」


 あのエイのアハダアシャラを食い尽くしたコウモリもラングヴァイレにはまるで効果がなかった。純粋な悪魔なだけあって他のアハダアシャラたちとは格が違う。

 のっぺらぼうの周りにはまだコウモリが数え切れないほど飛んでいる。だがそれらにはシャーデンフロイデのほうへ行くよう指差しで指示を出した。


「オマエ、何て名前だ。審判界の住人じゃないだろ」

「……」

「喋れねーんならテレパシーでもいいんだぜ」

「……」


 当然ながら全くの無言。テレパシーも使えない様子だ。


「来いよ、正々堂々、殴り合おうぜ」


 言葉は分かるとみえる。煽られたのっぺらぼうは瞬く間に距離を詰め、真っ向からラングヴァイレへ重い打撃を放った。

 体格差は長身に引き締まった肉体のラングヴァイレでも子供に見えるほどだ。のっぺらぼうの拳はラングヴァイレの肩幅近くもあり、両腕でガードしたが背中へ貫くような衝撃がぶち抜けた。それでも打ち方からしてこれでただの左ジャブ。

 体格差的にひとたまりもないと予想するのが自然だが、ラングヴァイレの右フックがカウンターで既にのっぺらぼうの太い左上腕にめり込んでいた。そのまま撃ち抜かれのっぺらぼうの左腕が弾き飛び、巨体が一回転する。

 ラングヴァイレはまさかのノーダメージ。のっぺらぼうが振り向いたところで懐に飛び込み、刺すようなボディーブローが炸裂。のっぺらぼうが天を仰ぎ、腹を抱えて後退する。力を求めて幾星霜。ラングヴァイレの永遠とも呼べるうちに高めてきた近接攻撃威力は尋常ではなかった。

 狼狽えたのっぺらぼうに追撃するが寸前のところで身を翻され、右ストレートは脇腹をかすめる。それでものっぺらぼうの脇腹は風圧で生じた大気摩擦で軍服が一部焼け落ちた。まるで隕石のような拳だ。

 けれど一つ前にまともに食らって持ちこたえたのっぺらぼうも常識外れの耐久力。ラングヴァイレが右ストレートを撃ち抜いて前のめりになったところに、のっぺらぼうの振り上げた踵が延髄を狙う。

 ラングヴァイレはくるりと前転するように身を翻して逆さになり、そこから切り上げるような後ろ回し蹴りをのっぺらぼうの脚に合わせて退け、そのままアゴを目指すも、体格差のあまり右胸に吸収された。のっぺらぼうの胸筋は強靭で逆にラングヴァイレのほうが弾き飛ばされる。

 間合いが離れたところで両者身構えた。ラングヴァイレはサウスポーの構えだ。とはいえ、リーチ差が大きすぎるあまり到底のっぺらぼうには届かない。先ほどのようにカウンターを狙う考えだろう。しかも左腕のガードは下げられ、左頬はここですよとでも言わんばかりにのっぺらぼうを煽っている。

 そこでのっぺらぼうはお望み通りに右フックを叩き込もうと、見せかけ、ラングヴァイレの右脚を払った。だがこれがとんでもない威力だ。ラングヴァイレがひっくり返され、丁度一回転したところにのっぺらぼうの右ストレートが飛んでくる。が、ラングヴァイレからすればとりあえず攻撃を誘えたなら何でも良かった模様。右ストレートの外側へゆらりと揺れるように容易く身をかわし、のっぺらぼうのアゴにカウンターで左アッパーが撃ち上がった。とんでもない衝撃に爆音さえも響く。首が伸びるような一撃にのっぺらぼうのドレッドヘアーが全て真上へ飛ぶようになびき、汗が飛沫を上げた。

 完全に脳が揺れた悪魔の打撃。とどめをお見舞いしようと大の字で落下し始めたのっぺらぼうの懐へ飛び込み、顔面に右ストレートを放つ。


「!?」


 首を捻って避けられた。死んだふりだ。そう気付いた時には左フックがカウンターでラングヴァイレの右頬を狙っていた。

 首を後ろへ曲げ辛うじて避けるも拳が大きいせいでアゴ先をかすめ、ラングヴァイレもよろめきながら後退。

 完璧なタイミングで完璧な角度で撃ち抜いたというのに、こののっぺらぼう、まるで効いていないとはとてつもないタフネスだ。頭でこれならば最初のボディーブローでの怯みも演技だった可能性さえある。

 戦闘技術ではラングヴァイレのほうが何枚も上手のようだが、のっぺらぼうも死んだふりをしたとはいえカウンターを合わせにきた。ただ者ではない。

 追い討ちをかけるようにのっぺらぼうの右ストレート。ラングヴァイレはひらりとかわして懐に入り、同様に右ストレートでアゴを狙う。のっぺらぼうはタイミングよく両手でパーリングしてかわした。そこへラングヴァイレは左のフックでワンツーだ。だがそこへのっぺらぼうも右フックでカウンターを狙い、両者の拳がぶつかり合ってフック同士の軌道で空振り。ここでお互いに片腕を振りかぶってもう片腕でアゴをガードする鏡合わせのような体勢に。

 一瞬睨み合うもラングヴァイレの右拳の方が少し早かった。その動きに気づいてか読んでかのっぺらぼうは左カウンターを狙う。

 だが、ここでラングヴァイレは右拳を打たずガードに転用、すると見せかけたフェイントだ。変則的な右打撃がのっぺらぼうを惑わせ、そのアゴを右から左へ撃ち抜いた。首を刎ねるような一撃にのっぺらぼうは首を傾げたような格好に。ドレッドヘアがぐるんと舞って、飛沫は半円を描いて飛び散った。

 のっぺらぼうは放とうとしていた左を天へ大きく空振る。今度こそ仰向けに崩れた。

 これが試合なら間違いなくラングヴァイレのKO勝利だ。しかしこれは殺し合い。

 とどめを刺そうと飛びかかった、その時だ。最後の一撃を放つ瞬間が隙となり、ここぞという時を待ち構えていたコウモリの大群がラングヴァイレに襲いかかった。真っ先に両脚を太腿まで食いちぎられ、そのまま噛みつかれ続ける。再生したそばから口の中では全く意味がない。


「クソどもが!!」


 ラングヴァイレはそれでも敢えて両脚を再生し続けることでそれ以上食い進まれるのを防ぎ、上半身を狙ってくるコウモリたちを次々に殴っては塵へ変えていく。

 流石に全身を食い尽くされては死ぬことになる。これでもかとコウモリたちが群がり、黒い塊のようになってしまった。それでもラングヴァイレはそう簡単には殺せないよう。黒い塊と化したコウモリの群衆から緑色の血飛沫が絶えず飛び出してきている。

 ラングヴァイレがコウモリたちに襲撃されている間にのっぺらぼうが体勢を立て直した。襲いかかれば襲いかかっただけコウモリたちは蹴散らされているらしい。

 突如、空間ごと揺れるような衝撃が爆ぜた。復活したのっぺらぼうがコウモリもろとも突き抜ける流星のような重い一撃をラングヴァイレの顔面にクリーンヒットさせたのだ。衝撃波だけでコウモリたちは全て爆散。その血飛沫で緑色の花火でも爆破したかのようだ。

 右腕が付いた胸像のような姿に変わり果てていたラングヴァイレは一直線に飛んでいく。これで事切れていても何ら不思議ではない。それでものっぺらぼうはオーバーキルにもラングヴァイレを追いかけ、両の拳を組んで脳天にアームハンマーを叩き込む。はずだった。

 あれだけの状況、あれだけの一撃でラングヴァイレには全く効いていなかったのだ。彼は組まれたのっぺらぼうの両手の拳を残った右手で支えにし、頭突きで応戦した。

 アッパーに、フェイントに、今度の頭突きで三度目の頭部直撃にのっぺらぼうもふらりと大きく後退して距離を取る。ラングヴァイレはもう全身を再生して不死身であるかのような振る舞いだ。


「どこのどいつだか知らねえが、そこそこ楽しかったぜ」


 ラングヴァイレは右手に黒い靄を出現させ、そこから再び二本目となる魔界の黒い剣を取り出した。

 のっぺらぼうも体の周囲に黒い靄を纏い、そこから新たにコウモリたちを出現させる。

 瞬間移動にも匹敵するスピードを持つラングヴァイレの前でどれだけ間合いを取ったとて全くの無意味。魔界の剣は取り出されるや否やのっぺらぼうを一刀両断せんと上から下へ振るわれていた。

 ラングヴァイレは驚愕する。のっぺらぼうはそのスピードにガードを間に合わせていた。しかもやはりその体は硬い。本来なら真っ二つになるところがガードされたうえに少し避けようとしたようで左肩から右脇にかけての軌道へとずらされ、結局庇った両腕の手首を切断、斜めに肋骨へ到達する程度の切り傷で深傷とはいえ致命傷は免れてしまった。

 それならばと二発目を振おうと剣を突き上げる。

 びしゃ、と何かがラングヴァイレの顔面にかかった。血液だ。

 のっぺらぼうはそんな深傷を負いながら、切断された手首を逆に利用して血を飛ばしたのだった。

 しかもこの血液、あろうことか黒羽のピラニア溶液のようにラングヴァイレの肉体を溶かす性質があるらしい。比較的弱いようだがこれにはラングヴァイレもたまらず大きく退く。

 のっぺらぼうが追撃しようとするが、その時、地上からララの断末魔が聞こえてきた。その声がした方を切れた手首で指し示す。もちろん、行け、ということだ。

 大量のコウモリたちがララの声がした方向へ矢のように駆け降りていった。

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