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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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096 異形の怪物

 黒羽はシロのことをどれだけ知っているのか思い返していた。

 初めて出会ったとき、彼女は所属していたパーティーから追放されたばかりで魔女の格好はしておらず、夕陽の国のはずれに高校生の制服のような格好で住んでいた。そういえばあの時、シロの家を襲撃したごろつきは何者だったのか。白いスーツなんか着てまるで古典的なヤクザみたいな連中だった。倒してしまったし、うやむやにしていたが今考えてみると不自然だ。その後はサスリカ軍に助けられたが、シロはサスリカ語もすぐに読み書きできるようにしてしまうし、夜な夜な魔法の勉強をするような案外熱心で頭脳明晰なところがある。ほんの少しだけ、その頃にシロの過去の記憶と思しきものを覗き見たことがあった。まるでスラムの子どもみたいな小汚い格好をしてどこかに身を潜め怯えていた記憶。一体何があったのだろう。本人も過去のことがほとんど分からないと言うし、それ自体も嘘か本当か。だがキケラメティディーギスというドラゴンのショーに行ったとき、そのドラゴンもシロの記憶を見せていた。後にフミュルイと出会った時にも出た話題によれば、おそらくシロの出身はメロウ島の天空の国という場所。そこのものなのか、非常に高い塔のような建造物のてっぺん辺りにある檻のような部屋に閉じ込められていた記憶だった。今ではメロウ島は謎の霧に包まれて近づくことすらできなくなっていると言うし、まして、檻の中にいたというのがまるでラングヴァイレが言うようにシロが罪を犯したことを裏付けるかのようだ。キケラメティディーギスを手名付けていた老紳士は10年前にはメロウ島へ行っている。メロウ島がいつから閉ざされたのかもはっきり調べておきたいところだ。

 結局、シロのことは知っているようで謎だらけだった。知らないことよりも寧ろ知っていることの方が、ほぼ無い。これほどずっと一緒にいたというのに。天真爛漫で美しく、優しくて毒がないが、謎多き少女。一体何者なのだろうか。シロも自分自身のことをどう思っているのだろう。考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうだ。

 不意に黒羽は耳鳴りがするほどの衝撃を受けた。ラングヴァイレを苦戦させるほどのバリアーにもヒビが入っている。攻撃されたようだが、やったのはラングヴァイレではなかった。

 ラングヴァイレも驚いたように上を見上げている。

 黒羽もそちらを見上げてみると、白いリザードマンのようなモンスターが空中に浮遊し、黒羽を指差していた。その指先からは細い煙が上がっている。

 3メートルを超える長髪豪腕、筋骨隆々、ヘビのような長い尾を持つアハダアシャラ。太陽を背にあまりに不気味で、さながらこの世の終わりに現れた魔王のよう。やったのは奴に違いなかった。

 ラングヴァイレが怒鳴る。


「オイ! 何しやがんだシャーデンフロイデ!!」


(!? コイツが……、シャーデンフロイデ……。ガフーリでゼゼルを連れ去ったというアハダアシャラはこんな化け物だったのか)


 猫のモンスターである黒羽からすれば一層巨大に見える。シャーデンフロイデは落ち着いた眼をしていて知能も高そうだ。頭の上には悪魔の漆黒の輪と天使の真っ白な輪が交差したものが浮かんでいた。臨戦体制ということだろう。

 シャーデンフロイデは腕を組んで呆れたように目を瞑った。


「イツマデ猫一匹ニ手コズッテイル」


 男と女が同時に喋っているような、あまり聞きたくない気色悪い声だ。

 ラングヴァイレは邪魔をされて相当頭に来ている様子。ツバが飛ぶのが見えるくらいの剣幕で捲し立てる。


「うるせぇ! オレ様の邪魔すんならテメェからぶっ殺すぞ!! とっとと失せやがれ!!」


 シャーデンフロイデへ左手を掲げて黒い光が集まってくる。エネルギー弾のようなものを放つつもりだ。が、シャーデンフロイデは黙って明後日の方角を指差している。それに気付いたラングヴァイレは何事かとその示す方角を見て、手を止めた。

 黒羽もそちらを向いて目を丸くする。


「「なんだありゃ、知り合いか?」」


 黒羽とラングヴァイレがはもって顔を見合わせる。

 当然のように空中に浮遊する人影があった。ドレッドヘアーに見える髪のような触手が頭に生え、よく日に焼けた褐色の肌の、のっぺらぼう。人の形はしているが明らかに人ではない。しかし、袖の無いサスリカの軍服からウエストとあまり変わらないとんでもなく太い豪腕を通している。こちらもかなりの体格だ。身長は見るからに2メートルを超えているうえ尋常ではない筋肉量。筋肉の割合としてはシャーデンフロイデも超えているくらいだ。そのせいで余計にデカく見える。

 顔がないせいか、日の光に照らされていることがあまりにも似合わない悪霊じみた邪悪極まりない姿。そんなものが一体どうしてサスリカの軍服を着ているのか。あの体格では強奪したものでもないだろう。どう考えてもいくら軍人だろうとそんな頭の悪いサイズが必要な人類はいるわけがない。

 周囲には丸々太ったコウモリのようなものが飛んでいる。黒すぎてまるでシルエットだ。


「何で悪魔のお前が知らねぇんだよ。それが途方もない年齢の集大成かよ」

「オメェもうるせぇよ! あの格好は審判界のだろ? オメェこそ何で知らねぇんだよ」

「知ってるわけねぇだろあんなヤツ! でも確かにあの格好はサスリカ軍のだ。それならお前の敵だな、多分」

「んな!? くそ、オメェには正々堂々って言葉がねぇのかよ!」

「べつに。お前なんかとりあえず死ねばそれでもう充分だ。こっち側の誰かがお前を殺せたなら実質俺も敵討ちができたようなもんだからな」

「オメェ、本当に悪魔のなりそこないだなクソが」


 と、言い合っているとのっぺらぼうがコウモリのようなものを鷲掴みにしてラングヴァイレにぶん投げた。コウモリはそのままラングヴァイレへ一直線に襲いかかるが、しかし、彼は黒い靄を手元に出現させ、魔界へ通じているのだろう、そこから真っ黒の剣を取り出しコウモリを下から上へ一刀両断。真っ二つになったコウモリはのっぺらぼうへ打ち返されて飛んでいくが、途中でくっついて元通りだ。非常に不気味でとてもこの世のものとは思えなかった。

 ラングヴァイレが襲われたことでのっぺらぼうが味方側だとは分かったが、どこからどう見ても悪役のそれだ。

 黒羽は背後から殺気を感じて瞬間移動で避ける。それでも何かがかすめてバリアーの表面に一筋の傷がつく。こちらはこちらでシャーデンフロイデに狙われていた。光線のようなものを放ったようだが速すぎて目で追えず、第六感に頼ってやっとなくらいだ。


「「チッ」」


 お互いに邪魔が入って同時に舌を打つ。

 止むを得ず、選手交代だ。黒羽はシャーデンフロイデと、ラングヴァイレは突如出現した謎ののっぺらぼうとそれぞれ戦闘することになった。


「ギーリッヒ、降リテコイ」 


 シャーデンフロイデが呟くように言うと、天高くから何かがふわふわと降りてきた。

 寸胴型のでんとした体形に、餅のような丸い耳、黒の碁石みたいな目をした間抜け面の一頭身。白い身体をしてシャーデンフロイデに呼ばれて来たということからしてコイツもアハダアシャラなのだろうが、今までの連中と比べてあまりに力が抜けるような見た目をしている。


「テメェ、ラングヴァイレにいつまで手こずってんだとか言っておいて、一対二かよ」

「イイヤ」


 シャーデンフロイデは首を振った。


「ギーリッヒ、流レ弾ヲ喰エ。コイツニハ邪魔ヲ排除サセル」


 ギーリッヒと呼ばれた子供の落書きを具現化したようなアハダアシャラは頷くように体を上下に動かし、向こう側で戦っているのっぺらぼうを見つめた。と、こちらにもコウモリが飛んでくる。


「ギァァアアアアッッ!!」


 突如として焼き殺される人間の断末魔のような叫び声を上げ、身体の真ん中が裂けて真っ赤な口が出現。口は丸く巨大に開いて身長は元の何倍にもなる。その中は一体どこに続いているのか赤黒く、奥へ行くほど黒くなっていた。コウモリはあっという間に吸い込まれてしまい、口の奥の奈落へ消えていく。

 食事が終わるとまたすぐに元通りで何事もなかったかのよう。可愛い顔をした奴が一番化け物だった。


挿絵(By みてみん)

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