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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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095 悪魔の知識

 黒羽とラングヴァイレ。両者ともに回復し、ほぼ無傷だ。まだ少し気分が悪い黒羽は呆然とラングヴァイレを見ていた。

 どうやれば殺せるのだろうか。自分は頑丈なバリアーの中から言葉を発するだけで攻撃ができるが、ラングヴァイレはこの常軌を逸したタフネスだ。悪魔の名は伊達ではない。

 黒羽は恨みや憎しみ、怒りを通り過ぎて倫理観の欠如したマッドサイエンティストにでもなったかのような気分になっていた。拷問などはしたことがないが、殺すことを目的としていながらこれだけ耐えられてはどこまで耐えるのか逆に興味が湧いてきてしまう。


「……右手、消滅」


 黒羽が言うとラングヴァイレの右手が消滅した。けれどまるで痛みがないかのように無反応で、すぐに再生してしまう。


「もう回復にも慣れたぜ。オマエのおかげでな」

「もし全身を消滅させようとしたらどうなるんだろうなぁ」


 独り言つと脳内にイメージが流れ込んできた。先程の死ねと言った場合と同様、直接的に死に匹敵するものは自身も影響を受けるようだ。


「……なるほどなぁ」

「おい」

「あ?」


 ラングヴァイレが呆れたように両腕を広げた。


「オマエみたいなヤツは初めてだ。これ以上やり合っても(らち)が明かねぇ。この辺で一旦休憩だ。どうせなら話そうぜ。それに、回復能力を使えるようにしてもらった礼だ。オレが知ってることを教えてやるのも悪くない」

「封印」


 聞く耳持たず、今度は封印しようとする。一瞬のうちにラングヴァイレが結界に包まれ、急速に縮んで押し潰されそうに。だがやはり顔色ひとつ変えず突き破られ、結界はシャボン玉みたいに弾け飛んであっけなく失敗した。


「ほらな、だめだろ? オレもオマエのバリアーは突破できなかったしな」

「じゃあ」


 今度はラングヴァイレをバリアーで包もうとする。が、バリアーを出現させようとした範囲外へ先に移動してしまった。特殊相対性理論などの高度な物理計算によればあまりに速く移動すると何兆、何京、何垓分の一秒というごくわずかな時間だけ未来へは行けるという。もはや瞬間移動さえ超えているかもしれない悪魔を捕らえるには破られようとも封印しかなさそうだ。


「無駄だ」

「封印」


 封印なら一瞬だが動きを止めることができる。その隙にバリアーで包んでしまおうという算段だ。やはり封印はいとも簡単に突破されるも、今度は更にその上からバリアーで包むことに成功した。と思えばラングヴァイレの姿が消滅。次の瞬間にはバリアーの上に現れた。


「お前、手品師かよ」

「はっ。オレ様は悪魔だぜ? どうやってこの世界に来たと思ってやがる。このくらいなら一瞬だけ魔界に帰って出直せば済む話なんだよ。オマエのバリアーは小さすぎて入れねぇだけだ」


 バリアーから消えるのはかなり早かった。そのバリアーの上からさらに封印されるとまずいのだろうが、あれだけ素早くては流石に無理だ。


「な? これで分かったろ?」

「……」


 ラングヴァイレが指を一本だけ立てて見せてきた。


「ところで一つ、不思議だったことがあんだ」

「ちっ、何だ」

「オレたち悪魔は視界に入ったヤツが直前の前世でどこの世界に生まれて、どれだけの罪を犯したのかは知ることができる。ただしここでの罪ってのは不必要に他者を不幸にすることだ。例えば泥棒程度でも罪に該当するのに、オマエの場合は人間界で相当な人間を殺したことで、普通なら悪魔に転生させられるレベルだったはずなんだよ。それがどうしてこの審判界にいやがる。しかもそんな猫のモンスターになんかなりやがって。もっとも、オマエみてぇな人外のヤツの前世は分からねぇからオマエのは死神から聞いた話だがな」

「……。は? どういうことだ。急に言われても分かるか」


 罪だの人間界だの審判界だの。訳がわからない。

 黒羽にとってラングヴァイレは家族の仇であることに変わりないが、悪魔だからこそ知る知識がある。それでもとっとと殺してしまいたいところだが無念にも現段階では引き分けと言ったところ。仕方がないから聞くことにした。ついでにこの間に体力を全回復させておく。

 ラングヴァイレは「ああ、死神の野郎、ろくに話してねぇんだな」とぼやいて続ける。


「まず、人間界の連中は罪を犯して死ぬと転生先はここか魔界かの二択だ。で、ここは人間界に対して審判界って世界でな。人間たちが考えてる閻魔大王だのなんだのがやる裁判所みてぇな役割をこの世界がやるんだ。全くの無罪で審判界で死ねば天界へ、前世未満の罪をまた犯して死ねばまたここに、それ以上なら魔界だ。……で、だ。人間界なり審判界なり、犯した罪が重過ぎれば直で魔界行きで、オレと同じ悪魔に生まれ変わるはずなんだよ。それが審判界に、それも人外ってオマエ、聞いたことねぇぞ。普通なら人類は人類になるからなぁ」

「ほーう。そんなもの俺は知らんな。死神にでも聞けよ」

「やれやれ、まぁそうか」


 何故だかかなり不満そうに文句じみた言いようだった。それでもそんな難解なことを人間だった黒羽が知るわけがない。唯一チャンスがあったとすれば死神に会った時くらいだ。地獄にやれば地獄の鬼さえ殺しかねないからと言われてここに転生した訳だが……。黒羽は首を傾げた。


「地獄は無いのか? オレは地獄に落とせば地獄の鬼も殺しかねないとか死神に言われてこの、なんだ、審判界とやらに転生したが」

「まぁ、そいつは方言みてぇなもんだ。気にすんな。死神は魔界のことを地獄って呼んで、悪魔を鬼って呼んでんのさ。そこを話すと脱線するうえにクソ長くなるから話す気にもならんな」

「ほう。で、悪魔は死んだらどうなるんだ? 散々罪とやらを重ねた終点じゃねぇのか?」


 ラングヴァイレはあからさまに苦虫を噛み潰したように嫌そうにして首を振った。


「オレたち悪魔は視界に入ったヤツの直前の前世は分かると言ったな。もし悪魔が何かに転生するなら、前世が悪魔だったヤツがいなきゃおかしい」

「そうだな」

「だが、それがいねぇんだ。どこにも。オマエも他人事じゃねぇぜ、異常極まりない転生の仕方してんだからなぁ」

「つまり……。死んだら——」

「消滅するって噂だ」


 死んだらせめて生まれ変わりたいものだ。黒羽も本来は悪魔になるところを何らかの手違いで審判界に生まれたというのなら、ラングヴァイレ同様どうなることか知れない。背筋が凍るようだが、ラングヴァイレは話を続けた。


「まあ、とは言ってもオマエとか、モンスターとかの人外の前世は分からん。だから人外になるかもしれないって話もあるが、やっぱり噂にとどまる。でもオマエはもう既に何故か人外だ。オレがオマエを殺したら、オマエこそ本当に消えるかもな」

「……。そういえば俺を猫のモンスターとか言ったな。話が変わるようだが、俺、モンスターだったのか?」


 真面目に聞いているのにラングヴァイレは不意打ちを食らったような顔をして急に腹を抱えて笑い出した。こちらに指差して笑いやがる。


「ぷはっ! ぶはははは!! うっそだろオマエ! そりゃねぇぜ! 今までそんなことも知らずに生きてきたのかよ! ぶはははははっ!!」

「ちっ、殺すぞテメェ。両腕とも消えろ」


 ラングヴァイレの鬱陶しい両腕が消滅。そして一秒と経たずにまた生え変わった。


「おいおい、まぁそう怒んなよ。ガキの頃とか、なんか心当たりねぇのかよ。人間界の猫じゃ絶対無理だろって経験がよぉ」

「はぁ? そんなもんあったらとっくに気付いて——」


 あった。

 シロと初めて出会った頃に遡る。確か、夕陽の国でシロの家にごろつきが襲撃してきたことがあった。その連中が銃を持っていて発砲したが、まだロードから能力を譲られる前だったにも関わらず口で銃弾を全て受け止めたし、その前はまだ野良の時。八百屋の体格のいい店主と幾度となく肉弾戦を繰り広げて食べ物を奪った。それに生まれて物心ついてから親猫を見たことがない。そんな親猫に捨てられた環境で子猫が一匹で生きていけるだろうか。モンスターでもなければ無理だろう。


「な? 心当たりあるんじゃねぇか」

「確かに、納得だ」

「でもよぉ、オレはまだ不思議に思ってることがあるんだ」

「何だよ次から次に」

「あの青の帽子の魔女なんだが、前世もこの審判界で、しかもとんでもねぇ罪を犯してやがる。それほどの罪でまたこの審判界って、なかなかやばいぞ」


 シロがそんなはずがない。黒羽は悪魔の言うことだからと半信半疑だが、心配になって静かに聞く。


「どういうことだか分かるか? 例えば前世の更に前世で審判界、それか人間界で、百の罪を犯して審判界に転生したとするだろ?」

「……ああ」

「そして審判界で百を超えないように更に十とかの罪を犯すって流れじゃなきゃ、またここに来ることはねぇんだ。二度の生涯で連続で罪を犯した極悪人だぜ。まるで悪魔化するのも計算して避けていたかのような器用さだ。オマエの仲間の中じゃ神殺しのレビよりドス黒いぜ。どんな罪だったか知らねぇが、輪廻の仕組みも熟知してなきゃ到底成せる芸当じゃねぇから、前の前は天界にいたはずだ。そんな真っ黒の天使なんか、レビが初だと思ってたんだがなぁ。オマエはアイツのことをどこまで知ってんだ?」

「……」


 ラングヴァイレはついさっきシロを知ったばかりだと言うのに、作り話にしては複雑すぎている。ラングヴァイレが言うように前世を見抜く能力が本物でなければ考えつきもしないだろう。

 黒羽としてもシロのことは手がかりを探していた最中で、まだほとんどのことが分かっていない。あの天真爛漫で人畜無害という言葉が服を着て歩いているようなシロが極悪人とは、そんなまさか。いや、悪魔は他人の心を掻き乱すのが本能だと言っていた。これもその一環に違いないと黒羽は自分に言い聞かせて作り話だと思い直した。

 そうこうしている間に二人は背後から迫る影にはまだ、気が付いていなかった。

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