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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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093 鬼ヶ島

 立っているのもやっとのベラポネに油断した一瞬の隙に、背後にいたララに斬り飛ばされたゲフォル。そのまま一直線にベラポネの方へ飛んでいき、避ける術も無く赤い光に包まれた。

 固いものにぶつかりでもしたように跳ね返され、力なく砂浜に転がる。同時にベラポネも立っていられずその場に崩れるようにして座り込んだ。


「ベラポネさん!」


 ララが黒鬼の双剣を両腕にヘビのように巻き付けて納刀し、傷ついたしらたまを抱いてベラポネに駆け寄った。

 ベラポネはララの肩に身体を預けながらもしらたまを見つめた。ララが彼女の膝にしらたまを寝かせてやる。


「しらたまは、しらたまは無事?」

「気絶してるだけみたいじゃけど、なんとか間に合ったみたい」

「……そう。あなたのおかげで九死に一生を得たわね。ありがとう」

「……」


 ララはお礼など滅多に言われたことがなく挙動不審に目を泳がせた。


「ま、まぁ、いや、別にそんな。でも、今のは一体何をしたん? もう大丈夫なんけ?」

「処刑に使われる禁術魔法よ。全ての神経に激痛を与えるの。身動きが取れない相手にしか効果が無いから、あなたのおかげで上手くいったみたいだけど……」


 言っているそばからうつ伏せに倒れたゲフォルの指が動く。

 ララは見逃さず、すかさずゲフォルの首を刎ね、心臓を貫いた。そしてベラポネの卑怯の呪いからちょうど十分が経過し、ゲフォルの首は波打ち際を転がった後、消滅。油断大敵とは正にこのこと。一瞬の隙が文字通り命取りになったのだった。


「え!? 消えちゃった!? あの大きいのもそうじゃったけどどうなってるの!?」


 驚くララにベラポネがクスッと笑った。


「みんなが来る前に私が卑怯を使っていたのよ。アハダアシャラたちは五分ごとに身体の一部が末端から消えるわ。でも、頭が消えたということは、それだけでもまだ生きてたのね」

「そっか、そういえば卑怯が使えるって……。でもえげつな」


 殺しに生きてきたララでさえ青ざめる。

 とはいえ、ベラポネもしらたまも満身創痍なので、残ったゲフォルの首のない身体はララが突風を起こし、島の外まで吹き飛ばした。

 ベラポネも安堵し、しらたまをぎゅう、と抱きしめる。母親のような姿にララが見惚れているとまた礼を言われてしまう。


「ララさん、ありがとう、本当に。おかげでこの子もどうにか助かったわ」

「そそ、そんな、別に大したことは。とと、とりあえず、これで一安心じゃけ、少し休んだら二人は安全なところに隠れるんさな。それでテレパシーが使えるようにさなったら、黒羽に船へ戻してもらうさ。私も黒羽に合流したら伝えとくけぇな」

「……そうね、そうさせてもらうわ」


 しかしながら、ここは海岸だ。視界が開けていて長居するわけにもいかない。「ベラポネさん、立てそうかや?」とララが手を差し伸べた。

 そのときだ。


「やぁ。君とはガフーリ以来、いや、正確には、はじめましてかな」


 優しそうな男の声。ヘラヘラした表情で手を振っている。

 伸びて髪型が崩れた赤毛に赤目で白い軍服を着ている背が高い男だった。鍛えられた逆三角の体格に似合わず女のように滑らかな顔立ち。ベラポネはもちろん、ララも見覚えがなかった。肉弾戦型とも考えられるが、こんな場所に手ぶらで一体何をしているというのか。

 ララがベラポネたちを庇うように前に出て双剣を構えた。


「誰じゃ」

「あっ、ああ、そんな、僕は怪しい者じゃないよ。申し遅れたね、僕の名前はルイス。南の軍で戦場医務官という、戦場で傷ついた兵士の治療をする役職をしている者だよ」

「治療……?」

「ああ。分かりやすく言えばヒーラーさ。そこの二人はひどくダメージを受けているようだね。早速僕が治してあげよう」


 ルイスと名乗る人物はそう言うと三人に近づこうとする。が、ララは「来るな!」と怒鳴り声を上げて凄んだ。


「お前からドレイクの臭いがする」

「え? ドレイク? 悪いけど、僕はその人のことは知らないな」


 ルイスはあごに手をやり首を傾げ、本当に知らないような素振りをする。

 それでもララはロドノフ卿から強引に鍛えられた五感で確信していた。ドレイクに連れられロドノフ卿の墓へ行った時や、みんなでドレイクの家に行った時に嗅いだ衣服や木の臭いや、彼が肌身離さず担いでいた銃の火薬の臭いが微かにある。

 ベラポネが不思議そうに背後からララを見上げた。


「そういえばドレイクさんは船にもいなかった。一体どこにいるの?」

「黒羽が言うには……、ドレイクは、ゼゼルってヤツに殺されたかもって」

「そんなっ」

「コイツは嘘ついてるさ。コイツはルイスなんて名前じゃない。ドレイクをやったゼゼルじゃ!」


 ララは双剣を強く握り、地を蹴ってゼゼルへ飛びかかった。


「やれやれ」


 アルシュタル人は子供でも難なく木を駆け上がるほどの並外れた脚力を持つ種族だ。その脚力をもって飛び出し斬り込まれれば、切断されるどころか吹き飛んでしまうもの。そんな一撃をゼゼルは微動だにせず素手で双剣を受け止めてしまった。


「逃げて!! ベラポネさん!」


 蹴り出した勢いで砂が巻き上げられ、都合よく煙幕になった。その隙にベラポネたちを逃すもララはゼゼルに蹴り飛ばされる。

 すぐに体勢を立て直して双剣を構えた。鬼といい、エイといい、毎度毎度のように相手が悪すぎたが、対人戦なら負けたことはない。

 ゼゼルは左手を開いて縦にし、右手でその手の平から白い太刀を引き抜いた。異空間と通じているかのような左手から出てきた白い太刀は薄く光っているよう。


「まさかそんなに嗅覚が鋭いとは聞いてないよ。まるで犬みたいじゃないか。でもごめんね、随分やる気みたいだけど、僕の目的は君じゃないんだ」

「!?」


 ベラポネたちが逃げていった森へ向かって激しい砂煙が起こる。

 ララも追いかけようとしたが、ある人物に行く手を阻まれてしまった。


「あ……、あ、アステリア!!」


 金髪混じりの長い無造作な黒髪に軍服ドレスの少女。ガフーリで一度だけ共闘したが、最もロドノフ卿を追い詰めたと言っても過言ではない実力者だ。それが何故今ここに現れたのか。助っ人にしてもタイミングがあまりにも悪すぎる。


「ごめん、一緒に来て!」

「……」

「……アステリア?」


 アステリアは無言でララに両手を(かざ)した。様子がおかしい。

 彼女はまるで人見知りでもするかのように挙動不審にララから目を背けながら、こう言う。


「……。うん〜〜、うぬぬ、あまり、こういうことしたくなかったんだけど……、卑怯、鬼ヶ島」

「んな!?」


 その瞬間、ララの足元から凄まじい勢いで石柱が伸び出し、天高く持ち上げられてしまった。勢いのあまり体感重力は数倍、それでありながら立った姿勢を保つも動けたものではない。石柱は急に停止。ララは空中へ放り出され、かと思えば地上から何か伸びてきて身体に巻き付いた。植物の(つる)だ。意思を持っているかのごとく今度は地上へ引っ張り、突如として生えた巨木に拘束されてしまう。それだけで終わらない。なんと地形が変わっている。今まで海だった場所には新たに島が形成され、あっという間に巨木ごと中心部へ連れ去られてしまった。

 さほど大きな島ではないようだがジャングルのような景色だ。しかも島の中には何か巨大なモンスターのようなものが何体も蠢いている。

 ベラポネたちを助けに行こうにも、もはやダンジョンとまで呼べるこの険しい島を越えなければならない。それも巨木に巻き付けられた状態から。

 さらに追い討ちをかけるように、ベラポネたちがいるであろう方角で大爆発が起こる。快晴だった空が金色に光り、遅れて腹に響くような爆音が。


「……うそだ」


 ララは目を疑った。

 まさかかつて共闘したアステリアにまで裏切られようとは。せっかくしらたまも助け出せたというのに、今ごろ二人はきっと……。

 上手くいったと思った矢先の地獄絵図に、胸を引き裂くようなララの断末魔が地平線を貫いた。

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