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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
91/119

090 一転

 宿木に身体の自由を奪われもがくエルツェーラー。

 黒鬼は変幻自在の武器を、今度は機関銃から系統の違う銃に変形させた。銃身はやや太くなり、マガジン部分にはガスボンベのようなものが付いている。火炎放射器だ。

 引き金を引かれ、容赦なく真っ赤な炎にエルツェーラーは包まれてしまう。手にしていた傘もするりと抜け落ちてしまった。

 実にあっけないものだ。散々勝ち誇ったような頭が高い台詞を並べておいてクソの役にも立たない。油断して自ら銃弾を浴びて宿木に食われ火炙り。これほど間の抜けた輩があるものか。

 いや、ない。

 黒鬼は背に銃身を回して何かを防いだ。傘だ。

 横目に振り向けば消し炭になったはずのエルツェーラーが傘で黒鬼を背後から貫こうとしていた。


「ほう、よく気が付きましたね。あんな程度の攻撃じゃ、このワタクシは倒せませんよ」

「……」

「ん?」


 傘先を受け止めた銃身の側面が水面のように円く波打ち、中からヘビの頭が飛び出した。傘を丸呑みにしようとするがエルツェーラーが引っ込めたので空を噛んだ。

 消し炭にしても復活したということは、あのとき手放した傘、あるいは灰でも残っていれば充分ということだろう。

 黒鬼の武器がまた姿を変える。今度は液体のようになって二手に分かれ、彼女の両手を包み込んだ。すぐに形が定まり、爪の鋭いナックルに変わった。

 黒いミニドレスに豪快に大きなナックルを装備した姿は華奢な身体にも清楚な格好にも不釣り合いだが、かえって殺意が溢れて見える。加えて散々殺し慣れてきた表情の無い冷たい顔。もはやどちらが悪だか見分けがつかない。

 エルツェーラーに手を広げて見せる。その手の平には中心に青いビー玉のようなコアが埋まっていた。

 大抵、この類のコアからはビームが出されるものだ。そして普通はしばらくエネルギーを溜める必要があるもの。が、しかし、もうエルツェーラーは即座に放たれた青白い光線の中だった。


「……。……ちっ」


 の太い光線が消えると、傘を盾に凌いだらしくエルツェーラーは無事に現れた。その代わり傘はぼろぼろになり、エルツェーラーは飛ぶ手段を失って地上へ落ちていく。

 黒鬼も真っ逆様に追いかける。さらに追い討ちをかけようと両手のコアをエルツェーラーに向けようとするが、彼は落下しながら手から糸を出し、黒鬼の両手を縛ってしまった。


「かかったな」

「!?」


 糸を伝って激しい電撃が黒鬼を襲う。あまりの電圧に黒鬼の身体が眩く光り、激しく火花を散らして爆発してしまった。それでもまだ電撃は続き、黒鬼は黒煙の中で火花を散らす塊と化して地上へ叩きつけられた。

 すぐそばにエルツェーラーは弾むように軽やかに着地し、煙を見つめる。


「……。フンッ、ま、地上の生き物にしてはなかなか良かったんじゃないですか。褒めてあげますよ」


 腕を組んで勝ち誇る。煙が晴れるとそこに黒鬼の姿は、無かった。

 目の無いてるてる坊主みたいな頭で周りを見渡す。やはりどこにも黒鬼の姿は見当たらない。地上に叩きつける直前まで糸で繋いだ手ごたえを感じていたのだろうか。本当に消滅したのだろうかと不安なようだ。

 遠くではゲフォルがしらたまと交戦しているのが見える。加勢しようとそちらへ振り向いたその時、彼の足元が地震のように大きく揺れはじめた。



〇〇〇〇



 しらたまはベラポネが追い詰められたことで激昂し、ゲフォルを地上付近まで追い詰めていた。

 怒りに我を忘れ火の玉のようになったしらたまの体当たりは凄まじく、瞬時に氷の盾を形成して防いでも衝突すれば爆発して吹き飛ばされてしまうほど。

 今のところ全てを防いでゲフォルにダメージは無いが、完全に押されている。消耗すれば盾でも防ぎきれなくなるのではというほどの勢いだ。

 しかし、まだ幼く、その戦闘経験の浅さが玉に瑕。しらたまは体当たりしたはずが、今度は自分が吹き飛ばされてしまった。

 ゲフォルは左手で盾を作りながら、右手に氷の爆弾を形成。それをしらたまの体当たりに合わせたのだ。

 

「オマエの仲間から貰った物、返してやるよ」


 弧を描いて飛ばされるしらたまをスイカほどの氷の塊が直撃した。

 そのまま地上へ叩きつけられる、かと思えばくるりと身を翻して着地。爆風に飛ばされながらも垂れ流していた炎のエネルギーで氷の塊は少し溶かされ、威力が半減していたのだ。炎の属性だとはいえ垂れ流されるエネルギーだけで天使の成れの果ての攻撃を緩和するとはとんだ怪物である。

 しらたまが走りながら地面を蹴り上げ、ゲフォルに砂をかけた。それもただの砂ではない。高温のあまりどろどろに溶けて液化した砂だ。一瞬のうちに砂の融点である1700度を超え、避けきれず一滴だけ左頬にかかるが、それだけで肉が焼け落ち穴が空いて歯まで露出、黒く焦げてやっと収まった。

 傷を指で拭うともう元通りだ。それ以上休む間も無く、再びしらたまが飛びかかる。地上を蹴るのではなく、地を爆破した反動で銃弾の如きスピード。ゲフォルは氷の盾で受け止め、その間に身を翻して、それでもかすめてしまった。

 わずかにかすめた右足の指があっという間に五本とも炭と化し、熱波だけで膝下まで白く火傷を負う。冷気を纏った上でこのダメージ。しらたまの熱はみるみる上昇しているようだ。

 もはやしらたまに接近戦を挑むことは死を意味する。ゲフォルはさらに遠く距離を取ってしらたまを指差した。


「フリーズ!!」

「……」


 ゲフォルがたまらず呪文を叫んだ。するとどうしたのか、距離を詰めようとしていたしらたまが、身体を凍らされたかのように空中でピタリと停止した。身動きが取れず、今度こそ地上へ墜落してしまった。


「ちっ、とんだ化け狐がいたものだ。あまりやりたくなかったが、オマエの動作を凍結させてもらったよ」


 しらたまが飛びかかる直前の格好のまま草の上に横たわった。ゲフォルが足を回復して歩み寄り、しらたまの顔を足蹴にする。身体が凍らされているわけではなく、動作を凍結されて動けないだけであるため、唇を切って血が染み出した。そんな彼女を踏みつけ、見下ろして悪魔のような笑みを浮かべる。


「オマエの負けだ。いくら能力があったって、そんなにバカな戦い方しかできないんじゃ勝てるわけがないんだよ」


 しらたまは勢いよく蹴り飛ばされた。

 遠くの方に林が見えていたが、そこまで一直線に飛んでいき、木々にぶつかって次々と薙ぎ倒して海岸まで飛んで波打ち際でやっと止まった。もう血だらけだ。

 ゲフォルはすぐに追いついて、しらたまの背中の上に両足で乗り、髪を掴み上げ、耳元で言う。


「オマエには少し腹が立ってるんだ。そう簡単に死ねると思うなよ」


 首から上だけ解放するとしらたまはすぐ激痛に泣き叫びはじめた。うるさい、と顔面を殴って気絶させ、髪を掴んで引きずり、顔を海面につけて意識を戻させる。溺れそうになったら足を掴んで逆さ吊りにし、頭から水面に落とす。後頭部を踏みつけ、また溺れそうになったら顔を上げた。


「どうだい? 気持ちがいいだろ? 死ぬ間際ってのはさ。それともそろそろ殺してあげようか?」


 しらたまはもう叫ぶ体力も残っていない。

 今度は砂浜に大の字で寝かされ、腹の上に乗られ、もう片方の足で顔面を踏みつけられた。

 ゲフォルはしらたまの顔面をぐりぐりと踏みねじりながら乾いた笑い声を上げた。


「かっきゃっかっかっか……。弱すぎるよ、オマエ。そろそろ飽きてきたなぁ、殺しちゃおうか」


 人差し指を立て、その先に青白い光が集まる。とうとうとどめを刺そうというその時「やめなさい」と女の声がした。

 ベラポネだ。

 一体どうやって地上へ降りてきたのかは不明だが、立っているのもやっとの様子。そんなふらふらの状態でありながら杖を構えていた。思わずゲフォルは腹を抱えて笑ってしまう。


「おいおい、嘘だろ? そんな身体で何ができるって——」


 不意にゲフォルの両膝が背後から切り裂かれた。

 振り向くとそこにはララの姿が。ゲフォルは反撃しようにも追撃の突風に吹き飛ばされ、こちらを睨むベラポネの方へ。

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