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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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089 黒羽 vs 悪魔

 黒羽は激怒していた。

 黒羽一家をターゲットとは別人だと気付いておきながら、姉の博愛(はくあ)を目当てに殺すとは、ラングヴァイレはとんだ畜生だ。

 周囲には千を超える大量の気弾が浮いている。気弾はそれぞれ、気流、雷、炎、超酸、腐食毒、液体窒素などなど、多岐にわたる属性や危険物質でできていた。

 黒羽が舌を打つ。


「だが前世のうちに貴様は俺が仕留めたはずだ。何でまだ生きていやがる」

「へぇ、そりゃすごいな。ちゃんと仇取ってたとは律儀なもんだ。ま、オレはあの後すぐに飽きちまって他の奴に乗り換えてたから、何も知らねぇがな」


 つまり、今まで敵討ちは成し遂げたと思っていたが、黒羽が殺したのは仇のラングヴァイレではなく、彼が抜け出た後のただの抜け殻と化したマフィアのボスだったというわけだ。


「なら……、ここで会ったが千年目だ!」


 ありとあらゆる属性の気弾が上下左右四方八方からラングヴァイレへ一斉になだれ込む。連続する爆音に煙の臭いがしたかと思えば鼻を突く酸の臭に変わり、またすぐに苦い臭へと次々に変わっていく。

 千の気弾では飽き足らず更に千の気弾を叩き込み、バリアーを応用して巨大なプロペラのような回転する刃を作って射出。だが、真っ黒な煙の中でブレーキのような音が。

 黒羽は自身の身体を鋼に変化させた上にバリアーを張り、距離を取って様子を伺う。

 思った通り、煙の中から現れたラングヴァイレは無傷。プロペラは片手で受け止め、簡単に握り砕いてしまった。


「見かけによらず芸達者なんだなぁ、クロハネ。だがこんな甘っちょろい攻撃じゃオレ様には傷一つ付けられねぇぜ。どうすんだよ、ここでこのオレを仕留め損なったらお前の周りの女たち、片っ端から手玉に取っちまうぞ? ……!?」


 ラングヴァイレの胸へ斜めに一筋の傷が刻まれた。体表が溶かされてじゅうぅ、と煙が上がった。


「何だ、コレは! んなっ!」


 今度は正面から何かが飛んで来るのに気付き、右手で受け止めた。が、その手の平がじゅうぅ、と溶かされ穴が広げられる。

 ありとあらゆる物を瞬時に溶かしてしまうピラニア溶液だ。黒羽はそれを一滴だけのごく小さい弾にして擊ち出していたのだった。


「何が傷一つ付けられねぇだ。傷だらけじゃねぇか」

「はん! こりゃあおもしれぇ。オレは随分と性格の悪い奴を仕留め損なったってわけだなぁ。なら、今度はこっちからいくぜ!」


 猫の野生の目にもとまらぬラングヴァイレの拳が炸裂。

 バリアー越しでも衝撃波が貫通して黒羽を襲った。殴られた黒羽はバリアーのボールのように吹き飛んで、ラングヴァイレは一瞬のうちに回り込んで蹴り上げた。だが今回はバリアーも四重にし、ダメージはほとんど無い。三発目を食らう前にバリアーの壁を作り、わざとぶつかることで軌道を変えて回避。空中に新たにバリアーを作って着地した。

 まさか衝撃波がバリアーを突き抜けるほどの打撃とは思わず、一発目が効いてしまい黒羽は歯を食いしばった。おそらく身体を念のために鋼にしていなければバリアーの中で飛び散っていたところだ。

 ラングヴァイレは余裕そうに黒羽の目の前へ降りてきて空中で停止する。しかしその身体の傷は再生していなかった。


「どうした。とっとと治せよ。舐めプのつもりか?」

「ふん、オレは今までこんなケガしたことねぇんだ。再生なんかしたことねぇからできるのかも知らんな。まあ喜べ。お前は初めてオレに傷をつけた相手だよ」


 黒羽も自身の回復はロードによれば可能らしいが、今までシロに頼りっきりで自分ではやり方が分からない。お互いに回復無しの、マフィア時代と同様の殺し合いだ。


「それは良かった。俺を怒らせたことを生きているうちに後悔しておくんだな」


 周囲にもくもくと霧が立ち込める。ピラニア溶液の霧だ。

 黒羽の意思で生き物のように自在に動き回る。


「け、いいぜ。戦闘開始だ!!」

「!?」


 ラングヴァイレは距離があるのに黒羽へ拳を打ち込む動作をした。当然のように目で追えないスピードだ。すると衝撃波で霧が吹き飛ばされ、黒羽への道を開けるように霧の中に空洞が空いた。

 伊達に途方も無い時間を生き抜いてきていない。まずいと思った時にはもうラングヴァイレの拳の中だ。右手に空いた穴からラングヴァイレが覗き込んでくる。


「オレ様を殺すのかぁ? やってみろよ。溶かされる前にテメーを握り潰してやる」


 ジジジ、と怒りのあまり黒羽から黒い電気火花が散った。

 黒羽はバリアーの表面をカミソリ状にしてラングヴァイレの指を切断。爆発を起こして脱出し、その後も爆発を繰り返してわざと吹き飛ぶことでジグザグに空中を移動していく。「待ちやがれ!」とラングヴァイレが追いかけてくる。

 何度もバリアーの表面で爆発を起こし空中を飛ぶ。爆発の度に煙で目くらましにもなって一石二鳥だ。

 黒羽は怒っても冷静だった。今の内にラングヴァイレを殺す方法を考える。

 まずラングヴァイレは目が無いのにどういうわけか確実に視覚を持っており、それもこの雲くらいもの高さから地上にいる人物を見分けるほど優れている。高速で迫るたった一滴の透明な液体でさえ気がつくこともできた。そしてあの打撃。バリアーを貫通し、黒羽が操る霧さえ振り払ってしまう、衝撃波を起こす高い威力と、野生の目でも追えないスピード。

 そうだ、と思えば目の前にラングヴァイレがいた。


「そんな爆風なんかでオレ様から逃げられるわけがねーだろ」


 けれどラングヴァイレの拳が空を切る。

 黒羽は言い終わる寸前で瞬間移動し、更に遥か上空、大気圏へ。

 打撃が速ければ自身の移動速度も速いはずだ。


「逃げ回ってんじゃねぇよ!」

「!?」


 この高さなら太陽も眩しいうえ、距離もあって流石に無理ではと考えたが、ラングヴァイレの視力は太陽の光もこの距離も関係なかったようだ。

 くるりと前回りし、黒羽の脳天に踵落としを、寸止めした。バリアーの表面を刃にすると読みやがったのだ。しかも黒羽が瞬間移動しようと考え、実行するまでの刹那の反応速度に間に合う攻撃速度。

 先ほどまでの空中要塞周辺に瞬間移動してくるも、間に合わず衝撃波を受けた後のこと。

 カウンタートラップを克服され、ピラニア溶液の霧も吹き飛ばされ、一滴で放っても大したダメージにはならなかった。どうしたものか。

 ラングヴァイレが隕石の如く大気摩擦の炎を纏って駆け下りてくる。一か八か、一滴のピラニア溶液を打ち上げ、寸前に瞬間移動でかわした。

 甚だ理解に困る。なぜ気が付くのか。ラングヴァイレは一滴のピラニア溶液を確実にかわして黒羽の瞬間移動に気付きその場に制止した。


「残念だったな。もうそいつは効かねえよ」


 指を失い、手の平に穴の空いた痛々しい右手。胸に一筋の傷。対して黒羽は一応まだほぼ無傷だが、何かを間違えれば一瞬で消滅することになるだろう。

 両者睨み合う。

 レビに能力を解放してもらった甲斐あって、これだけやってまだ体力は消耗していない。とはいえ、ラングヴァイレもこの傷で平然としている。あらゆる属性を試し、唯一期待できたピラニア溶液ももはや効果的とは言い難い。どうりで神々も封印するにとどまっていたわけだ。

 かと言って殺意が収まるはずもないのだ。黒羽は思い出す。

 ロードは出来ないことは無いと言っていた。ということはつまり、思い付く限りのことは可能なのではないか。実際、バリアーも瞬間移動も気弾も今のところやった全ては思い付きによるものだ。だとすれば。


「死ね」

「はん! どうしたんだいきな……!?」


 黒羽が言うとラングヴァイレは黒い(もや)のようなものに包まれ苦しみはじめた。これには黒羽自身も驚いて目を丸くする。

 もし本当に出来ないことが無く、思い付く限り可能なのであれば、意識して口に出した効果を発揮することも可能なはずだ。

 もがくラングヴァイレは全身が靄に包まれてしまった。

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