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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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087 空撃(追記しました)

 ララはエイの対応を任され、あっさり受け入れてしまったが、内心また大型かと面倒そうに口を歪ませていた。

 エイは目の前まで降りてきていて風を纏っている。やる気だ。

 視界の端から端までもある巨大なモンスターを前に、ララは黒鬼から譲られた漆黒の双剣を握りしめた。


「はーもう、どいつもこいつもデカイ図体しよって!」


 ララは持ち前の脚力で船のバリアーを蹴って飛び上がり、そのままエイの頭を蹴り飛ばし空中へ舞い上がった。

 と、エイが尻尾を一文字に振れば、なんとララがやるのと同じ風の刃である鎌鼬が繰り出された。しかもこちらは体が大きいだけあって規格外の長さ。ララは空中で気弾を放って宙返りし、難なくかわした。


「流石に同じ風属性なだけあるんさな。でも、その器用な尻尾、切り落としてやるけんな!」


 エイは巨大さのあまり、その場での方向転換は鈍いとみえる。いともたやすくララの双剣が尻尾の付け根に勢いよく叩き込まれた。

 カキン!


「んな!?」


 しかしあまりにも硬く、まるで金属バットが球を打つような甲高い金属音が響いて弾かれ、ララの華奢な体が反動で再び空中に舞い上げられた。

 全体重をかけて斬りつけたと言うのに、表面に少し傷がついただけだ。エイはのっそりと180度回転してララに顔を向けた。


「うわっ!」


 体の裏側にある口を向けたと思えば、竜巻のような風のブレスで吹き飛ばされた。まるで羽虫扱いだ。

 体がぐるぐる回転して上下感覚がおかしくなる。太陽が見えたところで反対側に気弾を撃ってどうにか体制を整えた。と、目の前まで巨大鎌鼬が迫っていた。さらに気弾を放って避けるが靴の裏が薄くスライスされてひらひらと落ちていった。何かがいけなければ指くらいは切られていたところだ。

 ララの体が落下し始める。そのままの勢いでエイの背中へ飛びかかり、体を回転させ双剣で車輪のように斬りつけながら一気に駆け抜けた。

 エイが弓なりに背を逸らして怯む。鉄でも難なく切り裂く鎌鼬を肌に直接何十発も浴びせたと言うのに、ほんのり赤みがかった傷が一筋ついただけだった。


「な、何て硬さなんじゃ……」


 癖で刃こぼれを気にして刃を見る。流石は黒鬼の武器だ。こんな相手を斬りつけて全く鋭さが鈍っていなかった。

 ギィィィン!!


「!!」


 しかし、その隙を突かれてしまった。エイの全身から甲高い超音波のような音が発せられ、ララは意識が遠くなり、地上へ真っ逆様に落下していく。



〇〇〇〇



 ララの過去の記憶が呼び起こされていた。

 それはロドノフ卿に連れ去られて数年後、夜の地方で強制的に稽古をつけられていた頃の記憶だ。

 薄暗く月明かりが照らすどこかの森の中。剣を二本与えられ、ひたすらロドノフ卿の黒い炎の幻影に阻まれながらも無我夢中で斬りかかっていた。


「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!!」


 ガチンガチンと金属音が夜の森に響いていた。

 掴み所の無い見た目とは裏腹に実体があるかのように剣を黒い炎が跳ね返す。何度も何度も斬りつけ、何度も何度も跳ね返されていた。ロドノフ卿には全くダメージを与えられる気がしない。

 不意にララは蹴り飛ばされる。地をごろごろ転がって木に叩きつけられた。


「そろそろ私からいくよ」

「うわ!!」


 これは稽古とは名ばかりの、ただの虐待や拷問の類だ。

 蹴られ、踏まれ、骨を折られ、焼かれ、踏み捻られ。死にそうになればロドノフ卿の能力で回復させられた。


「はい、今度はお前の番だよ。立ちなさい」

「……」


 それでも目の前でレビを殺された怒りは収まらない。ロドノフ卿を殺す。諦められるものではなかった。

 大人と子供で、圧倒的な力の差があるのは分かっていた。それでもまたボロボロの剣を握って叫びながら斬りかかる。

 ガキン、と簡単に防がれてしまう。


「……殺す。殺してやる! 今日こそは、絶対にお前を殺してやる!!」

「そうだ。いい目をしているよ」

「うるさい! なんで殺したんじゃ!! 私が目的なら、死なさんでもよかったじゃろうが!!」

「彼が死んだのは弱かったからだよ。弱い者は負け、命を失う。それだけのことだよ」

「ふざけるな!! 死ね! ぶっ殺してやる!!」

「さて、今日は随分やる気みたいだから、少し痛い思いをさせてやろう」


 怯えて手が止まる。次の瞬間には体が宙を舞った。

 木を背に何度も何度も腹を蹴られる。血を吐いても、泣いても、何をしても。後ろにある木が傾くほど蹴られ、ようやく収まった。


「どう? 何か喋れる?」

「……こ……、ろし……て」

「ほう、とうとう死にたくなったか」


 血を吐き、涙ながらに殺してくれと頼むララの頭をロドノフ卿は踏みつけた。


「敵に追い詰められ、殺される時、お前は一瞬のうちに殺してもらえると思っているのかい?」

「!?」


 まだ幼いララの断末魔が響く。

 じりじりと頭を踏み捻られて頭が地面に食い込むほどだ。


「そんな簡単に死なせてくれる相手ばかりじゃないさ。こんな風に痛めつけて、頭を少しずつ潰されていくかもしれない。お前は殺してくれと言った。本当に死んじゃうよ、このままじゃ」


 ララはロドノフ卿の足を掴み、足をばたつかせて暴れ、必死に抵抗する。

 そんな中、唐突にロドノフ卿は足を離した。彼の足からは血が。

 ララは必死に抵抗し、指で小さな鎌鼬を放ったのだった。これが最初の鎌鼬だった。

 解放されるも頭にダメージを受けて嘔吐し、白目を剥いた。すぐにロドノフ卿に回復させられ、気がつけば木に凭れ座らされていた。

 それは常に朦朧としていたせいもあってはっきり思い出せていなかったはずの記憶だった。



〇〇〇〇



 ララは不意に我に返った。

 彼女の体は自由落下し、雲の中を進んでいた。

 はっとして気弾を真下に撃ち、反動で高く飛び上がり雲を突き抜けていく。

 今のは一体何だったのだろうか。今の記憶のせいか悪い夢を見たように頭が傷んだ。きっとあれこそエイの能力だったに違いない。あれ以上続いていたら地上まで真っ逆様だったはず。助かったとしてもいつまで悪夢に囚われていたか知れない。

 何度も気弾を撃ってエイのところまで戻って来ると、どういうわけかエイは右側のヒレを切断されたように失ってもがいていた。


「あんな硬い体……、一体誰が」


 遠くでベラポネがにやりと笑ったのが見えた。

 ベラポネの卑怯から五分が経過し、エイの体の一部が消滅したのだ。危ないところでベラポネの呪いが間に合い、ララは悪夢から解放されたのだった。

 エイの体表は硬くとも、傷口なら弱いはずである。だがもしかしたらすぐに再生されてしまうかもしれない。「今だ!」とララは気弾を背後へ撃ち、反動でエイの傷口へ飛びかかる。

 先ほど背中にやったのと同じ要領で巨大な傷口を駆け抜けた。

 エイは激痛に悶え、また弓なりに体を逸らして痛がっている。効いたようだ。


「やった! 効かせられた!」


 とはいえ、体表が硬すぎるあまり内側からでさえ斬り裂けず、ただ傷口の肉を削いでぽっかりと窪ませたにとどまった。それでも弱点ができたのは大きい。もう何度か斬りかかれば真っ二つにスライスできそうだ。

 エイが怯んでいるこの隙にララが更にもう一度斬りかかろうとした、その時だ。

 黒い何かが目の前を駆け抜けていった。直後、エイの体のど真ん中に、あれだけの硬さの体に丸く風穴が。大きく円形にくり抜かれてしまった。

 その黒い何かはすぐに勢いを殺して空中に静止。見ればコウモリのような翼でホバリングする。胴体に大きな円形の口が一つあるだけのヒルとコウモリを合体させたような不気味なモンスターだった。


「な!?」


 驚いて言葉にならない。ララは反射的に双剣を構えるが、そのモンスターは彼女にはまるで興味がないらしく、振り返ったエイにまたも飛び込んだ。

 あれだけの硬さがあったエイの身体がいとも簡単に貫かれ、みるみるうちに小さくなり、あっという間に食い尽くされてしまった。

 ララは一旦避難するように船のバリアーの上に退く。

 空いた口が塞がらない。どこからともなく現れたモンスターは、エイを食い尽くすと何事もなかったかのようにまたどこかへと飛び去っていってしまった。

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