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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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085 復讐

 黒羽は念力で空気の塊を射出したのだった。ララがやっていた風の刃を放つ鎌鼬(カマイタチ)を球の形に応用したのである。

 威力のあまりかすかに空間が歪んだように見えはするものの、よほど注意して観察しなければ到底見つけられるものではない。一発目の砲声は怒号で搔き消し、注意も逸らし、その上会話中という不意打ちで避けることはほぼ不可能なものだった。

 ゲフォルが咄嗟に出した氷のキューブ状の盾が砕け散ると、えぐれた腹の再生は完了していたが、流石に効いた様子。乱れた呼吸を咳払いで誤魔化し、ぎりりと歯を食い縛って黒羽を睨んだ。


「てめぇ! 不意打ちとは卑怯だぞ!」

「あいにくこれでも元は殺し屋なんでな。卑怯もクソもねぇんだよ」

「ふんっ、それでも脅しのつもりかい? ドブ猫が。いいだろう、オマエから先に殺処分してやる」


 ゲフォルが冷気を纏い、体を宙に浮かせた。そして船のバリアーに乗る黒羽へ真っ逆様に急降下。


「ぐっ!」


 しかし、何か小さなものが黒羽の脇から飛び上がってきてゲフォルの首に掴みかかった。

 しらたまだ。

 子供のような顔つきでそんな表情ができるのかというくらいに激昂していた。首を掴んだままゼロ距離で火炎弾をぶっ放し、ゲフォルがそのまま空中要塞へ吹き飛んだ。

 氷の属性に炎の属性。ルナやベラポネも一目置いていたというミルであり、レビによる能力解放にも影響を受けなかった才能の塊だ。

 一番怒らせてはならない相手を怒らせたらしい。ベラポネを追い込まれた怒りに我を忘れているのか、火だるまに見えるほど炎を纏い、空高く飛ばされていくゲフォルが空中要塞へ激突するより先に飛んで追いつき、弾丸のような体当たりが炸裂。当たると即座に爆発を起こし、黒煙から勢いよくゲフォルが飛ばされ黒い尾を引いて突き抜けていく。間髪入れずしらたまも花火が打ち上がるような轟音を上げて追いかけて地上へ降りていってしまった。

 変身できると効いていたから黒羽はてっきり何か第二形態のような姿になって戦うものと思っていたが、素の姿でこれではゲフォルは彼女に任せて充分だろう。地上からここまで届くほどの爆音が何度も聞こえてきている。

 唐突に背後でルナがシロを大声で呼んだ。


「モナちゃんが息してない!」


 シロがモナの首筋に指先で触れ、総頸動脈の拍動を確認し、


「脈がない! 200でショックをお願い」

「分かった、離れて」


 ルナがモナの肩と反対の脇腹に服の隙間から手を当て、心臓に通電させる。ドンッ、とモナの体が跳ね、即座にルナが胸骨圧迫を始めた。


「モナちゃん戻ってきて! モナちゃんのおかげでベラポネもメイシーちゃんも助かったんだから! あなたが死んじゃダメなんだから!」


 電気ショックで蘇生できなかったようで、胸を何度も何度も体重を乗せて押されているのにぴくりともしない。今の今まで立っていたのに、心臓が止まってしまった。

 シロたちによる回復魔法も虚しく、今はルナに頼るしかない。

 ルナの重ねた両手が涙で濡れる。


「モナちゃん! モナちゃん!! 頑張って! お願い死なないで!!」


 声がかすれるほどルナが叫んでいる。それでも、モナは戻らない。

 つい最近知り合ったばかりのベラポネたちのために、死を覚悟で守っていたのだった。


「……二人とも」


 ベラポネが必死に訴える。


「私はもう、だいぶいいから、モナを——」


 そう言うベラポネも何故喋れるか不思議なほど悪いようだ。シロとフミュルイは顔を見合わせ、一旦モナの治療に専念することに。


「おやおや、死にそうですね」


 エルツェーラーが言い放った。

 道化のような見た目。おそらく小賢(こざか)しいやり方をするタイプだろう。黒羽は黒鬼と目が合った。


「殺れそうか?」

「もちろん。……そうだ」


 黒鬼が持っていた鎌からおもむろに何かを剥がす。黒い金属片が取れた。彼女の手の中で丸くなり、ララに手渡した。ララが受け取るとあっという間に二つに分かれて真っ黒な双剣の形になった。


「え!? す、すごい。これくれるの?」

「ええ。……じゃあ」


 エルツェーラーのことなど気にも止めていないようだ。さも当たり前のような顔でふわりと空を飛んでエルツェーラーのところへ。

 レビが言う。


「じゃあ俺はシュペルファーレンとシャーデンフロイデを殺してくる。残りの三体はよろしく頼む」

「ああ。……お前、よろしく頼むとか言える奴だったんだな」

「……。ふん」


 レビは無愛想に顔を背けて船のバリアーを蹴り、勢いよく飛び上がってエイとエルツェーラーを素通り。堂々と正面から空中要塞へ飛び乗った。脇にいたラングヴァイレと小さな寸胴形のアハダ・アシャラの前を見向きもせず横切り、奥へと消えていった。

 エルツェーラーは口を開け、とてもそのか細い体に収まっていたはずのない白いコウモリ傘をノドから手品のように取り出し、開いてエイから飛び降りふわふわと下降する。どういう原理なのか、傘がクラゲみたいに羽ばたいて、黒鬼に間に合うとホバリングして空中に停止した。黒羽の読み通り。芸達者な小賢しいタイプで間違いない。


「これはこれはお嬢さん。あなたもあの世の景色が見たいようですねぇ」

「……」


 無視。

 彼女が持っていた大鎌が機関銃に変わった。脇に構えて問答無用でエルツェーラーに乱射。

 けれど頭の一部を失って平気だったこともあって高を括っているのか、避けることなく両手両足を広げてわざとらしく全弾を浴びて見せた。

 やはり彼の体はぬいぐるみのよう。穴だらけになった体は、傷口から白い綿のようなものが飛び出している。それでも平気な様子でニタニタ笑っていた。


「ふふふふ、やれやれ。無愛想な上にいきなり乱射とは、優雅ではありませんねぇ」

「……」

「ん? ……んヴォッ!?」


 エルツェーラーの体から無数の黒い棘のようなものが一斉に飛び出した。

 撃ち込まれた弾丸は貫通せず、全てが彼の体内に留まったのだ。その弾の一つ一つが植物のツルのように姿を変え、エルツェーラーに巻き付きはじめた。


「……これは、これは。随分と、うぐぁ! ……悪趣味なことを!」

「……」


 初手からそんなむごいやり方を仕掛けてくるとは思わなかったようで面食らっている。

 ありえない方向に手足をグニャグニャとひん曲げられながらも必死に抵抗するエルツェーラーを黒鬼は真顔で高みの見物。

 二人を尻目に、自由になったエイが下降してきた。黒羽がララに言う。


「俺はあの黒い奴と、その後ろにいるチビをやる。ララはあのエイをやってもらえるか」

「いいけんど、二体も大丈夫なんか?」

「ああ。俺も今、結構頭に来てるんだ」


 黒羽がモナを見る。

 もし、あの時、全員で行動しようと言っていれば。まだ18という若さで生死の境を彷徨うことなどなかったかもしれないのに。


『はじめまして〜! 船長のモナでーっす! これからみなさんの旅に舵取り役としてお供させていただきまーっす!』


『なるほどな。じゃあ、手が空いたら船室に来ないか? これから一緒に旅をするんだ。親睦会みたいなことができればと思ってな。とはいえまだ何も用意していないんだが』

『おお! ホントですか! 何をやりましょうかねぇ! 私としてはお喋りできるだけでも嬉しいですよ!』


『今度は私の番です! それ! んな!! ……ジョーカー。これで勝てると思ったのにぃ〜』


『戦闘能力まで試験されるのか。待て、今レベルいくつだ?』

『972です。みなさんには到底及びません』


『大丈夫! クロちゃんがすごく頑丈なバリアーで守ってくれるんだもん』

『うわぁ〜、すごい信頼関係! カッコいいです!』


『ねー、ねー、モナちゃんとお兄さんチューはしたの?』

『ななな、な、ナニを言ってるのかなー、もう、や、ヤダなー、あは、あはははは』


 初めて会った時から終始明るくて、みんなモナに元気をもらっていた。特にドレイクとよく打ち解けて、きっとこれから幸せな未来があったはずだった。それなのに、ドレイクに引き続きモナまで。

 戦闘に出させたくないから船に残したというのに、裏目に出るとは。後悔してもしきれない。

 挙句、得意のバリアーも間に合わなかったというこの始末。もう少し早く駆けつけることができていれば。


「クソ!」

「……くろはね」


 黒羽が血涙を絞り言う。


「ララ、絶対あいつらに後悔させてやるぞ。殺しで生きてきた俺たちを怒らせたことを」

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