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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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084 氷の大輪

 ゲフォルが腹を抱えて笑っている。

 確かにベラポネの卑怯は効いているはずだ。その証拠に彼の右腕は付け根からまるまる消滅している。それなのに一体なぜそんなに勝ち誇っていられるのか。

 五分ごとに強制的に体の一割が末端から消滅させられていくというベラポネの卑怯だが、アハダ・アシャラたちは皆、まるで全く効いていないかのような涼しい顔をしていた。

 要塞の奥に見えるシュペルファーレンは右腕を、シャーデンフロイデは長い尻尾を消滅したが、瞬く間に完全に再生。エルツェーラーは大きな頭の一部を派手にえぐり取られていたが、どんな体の構造をしているのやら、まるでぬいぐるみであるかのように傷口からは白い綿が見えていた。彼は傷口に手を添えて自身の回復魔法で完全に修復し、唯一ヒレを失って一瞬だけ怯んでいたエイの大きな傷もあっという間に回復させてしまった。ラングヴァイレに至っては片手で何か黒く光る丸いものを掴み取り、ふん、と鼻で笑って握り潰してしまっていた。あの黒い物はベラポネが卑怯を発揮した時に水晶から放たれた光線だったに違いない。シュペルファーレンやシャーデンフロイデでさえ効果自体は受けている様子だというのに、彼には全く通じていなかったようだ。再び腕を組んで既に退屈そうにあくびしている。

 そして七体目、背の低い、真っ白な寸胴形の奇妙なアハダ・アシャラ。ずっとラングヴァイレの陰に隠れていてよく見えないが、何の反応も無かった。

 わざと回復していないだけなのか、右腕が唯一失われたままのゲフォルがひとしきり笑うと、蔑んだ笑みで三人を見下ろした。


「あー、本当に間抜けだなぁ。いやいや、全く、あまりに弱くて同情するよ——」

 

 言いながら、彼の右腕が傷口から再生し始める。


「まさか自分の技で致命傷を負うなんて、ダサすぎでしょ、ははははは!」


 再生してきた右腕は元の人間味のあるものとは掛け離れていた。黒い大量のワーム状のものが蠢いて一本の太い腕を形作っていく。手まで再生すると、その手のひらはこちらに向けられていた。

 その禍々しい悪魔じみた腕とは到底似合わない、氷でできた花のような美しい結晶が空中に繰り出される。吹雪のような凄まじい冷気を纏ってみるみる巨大化していく。

 モナが構えてバリアーを張った。今回は自分たち三人だけを包む小さなものだ。


「せめて二人だけでも、この大きさのバリアーなら守れるはず!」


 ベラポネが背後からモナの服を掴んだ。


「やめ、なさい、私がやるわ」

「そんなに血を吐いて何を言ってるんですか!」


 振り向いたモナは泣きながらそう怒鳴った。

 だがそれでもベラポネはモナの体をつたって無理矢理立ち上がる。モナを後ろから抱きしめた姿勢で、構える両手に手を重ねた。


「あなたには、ドレイクさんや、みんながいるでしょ。……まだ若いあなたたちを、こんなところで、死なせるわけにはいかないわ」


 ベラポネのおかげか、モナのバリアーが何倍にも分厚くなる。


「ベラポネさん、死んじゃうよ。もう、充分だよ……」

「……モナちゃん、ありがとうね」

 

 ベラポネの背中ではメイシーも肩を震わせて泣きながらしがみついていた。

 ゲフォルが繰り出した結晶が纏う吹雪が止んだ。視界が開けると、分厚いバリアーの向こうの空は、なんとその一面が氷の花の結晶になっていたではないか。

 想像を絶する、あまりにも絶望極まりない光景に恐怖してブルブルと震えるモナの両手首を、ベラポネがぎゅっと強く握る。

 空一面の氷の花が中心から変形しはじめ、鋭く尖った槍のようなものが出現した。ドリルのように激しい音を立て高速で回転し、次の瞬間、モナたちのバリアーを直撃。

 尋常ではない重さに分厚いバリアーが一瞬で半分まで貫かれ火花を散らす。花を形作っていた氷は徐々に槍へと吸収され太くなっていく。

 まるで天罰のような一撃。激しく回転する空からの槍の先が、バリアーを貫通。文字通りモナの目の前まで迫った。

 何かが砕け散るような爆裂音が、三人の耳を(つんざ)く。

 三人とも目の前が真っ白になった。

 不幸中の幸いか、痛みは誰も感じていない。一瞬のことだったのだろう。


「ツレが世話になったようだな」


 どこかで聞いたような声だ。

 少しして真っ白な世界が色彩を取り戻してくる。それは死後の世界などではなかった。

 船さえ傷一つない。憔悴しきった三人の前には、黒羽たちの姿があった。

 モナとベラポネが最期だと思って力を振り絞ったバリアーでさえ貫こうとしていたゲフォルの攻撃は、ギリギリのところで黒羽がバリアーで跳ね返したのだった。あのとんでもない爆裂音と白く光った景色は、ゲフォルの氷の花が爆散したことによるものだったのである。


「くろはねさん、みんなぁ——」


 助かった。そう分かった途端、モナとメイシーはその場で失神し、ベラポネが二人を庇って三人一緒に倒れてしまった。

 黒羽に言われるまでもなく、シロとフミュルイ、ルナとしらたまちゃんがすぐさま三人に駆け寄る。

 黒羽たちの後ろで必死の救護が始まった。


「ベラばぁ! ベラばぁ! どこを見とんの! しっかり!」

「ベラポネしっかり! 声聞こえるっ? 目は見えてるっ?」

「……うるさいわね、死ぬわよ」

「ベラポネさん喋っちゃダメ! シロちゃん、ベラポネさんの血液量の再生をお願いできる? 私は胃の傷口を塞ぐから!」

「今やってるよ。少しずつだけど戻せてきてる」

「だいぶ無理したんだね……、ベラポネさん、ごめんね、遅くなって」

「フミュルイさん、メイシーちゃんは気を失ってるだけみたいだけど、モナちゃんが、消耗が激しいみたい。モナちゃんも私が診るから、傷口が良くなったら手伝って」

「シロちゃんごめん、傷口がなかなか閉じないの。回復力が、かなり落ちてる」

「血液量より傷口を優先して二人で治そう。信じられないけどまだ意識があるなら。モナちゃんも後にできる状態じゃないし」


 フミュルイとしらたまちゃんはドレイクを救えなかったこともあって泣きながら寄り添っていた。

 戦闘や訓練でエネルギーを消耗しすぎると身体への負担が大きすぎるあまり心臓が止まってしまうことも少なくない。電気の属性で電気ショックができるルナの手も必要になる可能性がある危険な状態だった。

 空ではゲフォルの攻撃が掻き消されたことにアハダ・アシャラたちも驚いている様子だ。必死のシロたちとは対照的に、ゲフォルはエルツェーラーやフングリッヒたちと「いやぁ、参ったなぁ、流石に驚いた」などと相変わらず余裕綽綽で談笑している。

 黒羽は(はらわた)が煮え繰り返りそうだった。ララも同じ気持ちなようで、同様にアハダ・アシャラたちを睨みつけている。一方、レビは落ち着いていて余裕そうに、黒鬼は無感情な顔でぼんやり見上げていた。

 黒羽を完全に無視して談笑を続けるゲフォル。

 

「このクソガキが!!」


 とうとう黒羽が怒鳴った。

 いつも冷静沈着で、意外にも感情的になるイメージに乏しい黒羽が。その怒号に隣にいたララが驚いて飛び上がるほどだ。

 ゲフォルが会話の途中で黙り込む。何が起きたのか、彼の腹にはぽっかりと大穴が空いて、向こう側が見えてしまっていた。もはや両の脇腹でしか繋がっていない。もう少しで真っ二つになるところだ。直前で殺気に気付いていたようだったがそれでも防げていなかった。

 口から黒い液体を血のようにだらりと垂らし、流石に苦しそうにしているがこの状態でまだ立っている。


「……きさま、何を——」


 ゲフォルがすぐに腕のときと同様に再生を始めるが、その最中に腹の底へ響くような低い砲声が。

 間一髪のところで民家ほどもある氷のキューブを作り、何かを受け止めた。何か、目に見えないものがギイイイと激しく氷の中を掘り進め、キューブに大穴を空けてようやく止まる。危うく全身が吹き飛ぶところだった。

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