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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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081 ママ

 ゼゼルはドレイクとの一件の後、ソルマール島の地下空間に来ていた。

 燭台に灯した炎がぼんやり照らす薄暗いレンガの壁の小さな部屋。先ほどまでアステリアがいた場所だ。もう(もぬけ)の殻だった。


「……やはり一筋縄ではいかなかったようだな。……?」


 部屋の隅で何かが蠢いていた。

 まるで大きなわらび餅だ。何か白い棒のようなものを取り込もうとして取り込めずもがいている。

 歩み寄っておもむろに白い剣で突き刺す。するといとも簡単に爆散し、取り込めずにいた白いものはゼゼルの剣に同化してしまった。

 彼はその剣を顔の前に立ててかざし、目を閉じる。


「……。なるほど。やはり不死身ではその能力を奪うことはできなかったか。そして連れて来たアステリアは分身。だが私の分身だったことには気が付いていない、か。……しかし、驚いたな。あのマヌケがそんな策を講じてくるとは、にわかに信じ難いが……、まあいいか、分身でも」


 ゼゼルは白い剣を自身の左手に突き立てると、みるみるうちに剣は彼の手の平へ吸い込まれるように消えてしまった。

 ゼゼルは踵を返し、部屋をあとにした。



〇〇〇〇



 一方、その頃サスリカ軍基地では、医務室に運ばれた戦位が目を覚ました頃だった。

 まさかの同胞の裏切りに不意を突かれてしまった。

 彼が低く唸りながら目を開けると、金髪混じりの黒髪の少女が心配そうにこちらを見下ろしてきていた。連れ去られてしまったはずのアステリアだった。


「あ、アス、テリア……。どういうことだ、無事だったのか」

「よかった、気が付いたんだね。大丈夫。あれは私の分身だったから」

「……そう、だったのか。おまえ、いつに間にそんな事ができるように……」


 ユーベルは頭が痛そうに身体を起こす。貫かれたはずの胸はもう傷一つなく回復していた。

 不死身とはいえどこれほどのダメージを受けるとはただの剣ではなかったに違いない。

 彼ははっとして近くにいた部下たちを見た。


「そうだ、ゼゼルはどうした。奴は我らを裏切ってしまったのだ」


 大丈夫だよ、とアステリアがユーベルの手を包むように握って遮った。

 いつも能天気で天真爛漫で何を考えているか分からない彼女にしては、やけに人間味があって優しい。違和感を感じるほどでユーベルは驚いた顔で彼女を見つめてしまう。


「ゼゼルなら今、ソルマール島というところにいる。もうすぐ私の分身と合流する頃じゃないかな」

「……そう、なのか。……。あの、すまないが、君は一体何者なんだね。本当にアステリアなのか?」

「ああ、ごめんなさい。私はママ」

「……は?」


 ユーベルは少しイラっとして目尻をひくつかせた。


「馬鹿にしているのかね。私は今、虫の居所が悪いのだよ」

「違うわ、アステリアからそう呼ばれているのだもの。私はアステリアのもう一人の人格。今まで出てきたことがなかったから……、その……」

「何だね」

「そんなに見つめられたら私、恥ずかしいわ」


 顔を赤らめて視線を逸らし、両頬に手を当ててもじもじするママと名乗る人格。

 部下たちも散々翻弄されたようで苦笑いしている。

 ユーベルは頭を抱えて深くため息を吐いた。


「……君も君で結局クセが強いんだな。もういいから、二重人格なのも分かったから、とっととアステリアに戻してくれないかね」

「無理よ。だってアステリアは今、分身の身体を使ってるんだもの」

「……そういう仕組みか。心身共に分裂できたわけか」


 ユーベルはこれまで何年もアステリアと行動を共にしてきていたが、その気分屋な性格のせいでまだ掴みきれていないところが多々あった。常識外れな面も多かったので二重人格でしたと言われても今更驚くことではなかった。

 駆けつけてくれていた部下たちは話が落ち着いたところで戦況を報告した。

 既に近隣の隊が兵をソルマール島に送ったが、黒鬼がいるとの交信を最後に連絡が途絶えたとのこと。おそらく壊滅させられたに違いないとの情報だ。

 ユーベルはもう何事もなかった様子で立ち上がり、ママを見下ろす。


「貴様も来い。今からソルマールへ行く」

「もちろん、そのつもりよ」


 ママが可愛いく微笑んで快諾した。ふんっとユーベルが機嫌悪そうに視線を切ると、部下の一人が慌ただしく廊下を駆けてやってきた。

 皆何事かと彼を見ると異常事態と言わんばかりの顔だった。


「た、たた、大変です! み、南の、南の!」

「どうした、落ち着け。我らも南のソルマール島へ向かうところだ」

「ち、違うんです! 南の戦位が、南の戦位もソルマールへ向かったとの情報が!」

「ナニ!? 南の戦位だと!?」


 ユーベルも目玉が飛び出すほどの勢いで驚愕し、思わず叫んでしまった。

 南半球の地域で異常事態となれば南の部隊が動くのは至極当然だが、南の戦位とは一体何者なのか。

 ユーベルはママの手を引いて医務室を飛び出していった。



〇〇〇〇



 ユーベルとママは小型戦闘機に乗り込み、ソルマール島を目指して雲の上を駆けていた。

 操縦桿はユーベルが握り、ママが後部座席から話しかける。

 

「ねぇねぇ」

「……」

「ねぇってば」

「何だ」

「南の戦位って何者なの? 何でそんな急に顔色変えちゃうのよ?」

「……」


 ユーベルは固い表情で、一面目を焼く真っ白な雲の海を睨む。低く唸って、


「……実を言うと私もあまり詳しくは知らんのだが、かなりの一大事にしか姿を現さない神出鬼没のモンスターだと聞いている」

「もんすたー?」

「そうだ。シュバータのようにモンスターの多い地域もいくつかあるんだが、実は世界中に生息している。しかしどの地域でも人類に害をなすモンスターがあまり人里を襲いにこないのは、人知れず南の戦位が危険度の高い個体を捕食して回っているためだという説もあってな。人のような姿をしていて、珍しく軍に協力的なモンスターであるそうだ。知能も高く、ウチの軍服を着ているとの話だが、実際は南の軍でも見た者は少なく、今では噂の中での存在とされていた」

「怪物喰いなら、じゃあ私にも近いのね」

「……貴様のことはまだ知らんが、確かにアステリアも怪物喰いだから近いといえば近い。だが奴の戦闘能力はミルをも凌駕するという話だ。素性が知れぬ以上は下手に関わらん方がいいかも知れんな。ところで、貴様はどんなことができるんだ」

「アステリアと一緒よ。まあ、言っては悪いけど私の方が賢いから戦闘向きだけどね」


 フフンと得意な顔をしているのがレーダーの画面に反射している。能天気なところは共通していそうだ。

 ユーベルは、はぁ、と小さくため息を吐いて、


「とにかく、奴が現れ、ソルマールへ向かったとの情報があったということは、当然だが南の隊の奴らも確かに目撃して動向を探り、噂だったものを確信したわけだ。そしてソルマールでは即ち、それなりに一大事が迫っているか、あるいは現に起きてしまっているということ。今はアステリアの無事が危ぶまれる」

「アステリアのこと大好きだものね。まるで本当にパパみたい。ちゃんと伝えておくわね」

「ふん、好きにしやがれ」


 黒い機体が高度を下げて雲の中へ潜っていく。

 もう間も無くソルマール島が視界に入ってくる頃だ。



〇〇〇〇



 ソルマール島の地下空間から一足先に抜け出していたアステリアは、アハダ・アシャラの内の一体がレビに吹き飛ばされた爆音を聞いて、血相変えて反対の方角へ逃げていた。


「あわわわわわ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!」


 薄暗い森の中を大慌てで駆け抜けていく。 


「ふんぐっ!」


 ぽすっ、と何かにぶつかって尻餅をついた。

 イタタと頭を掻きながら見上げると、ぶつかった相手は人だった。アステリアは驚いて「え!?」と声をあげる。それは地下空間で捕食したはずのゼゼルだったのだ。


「やあ、アステリア。こんなところで何をしているんだい?」

「んな! なんで!? おまえはさっき、私が捕食したはず!」

「あっはははは、やっぱりそうだったんだね。アレは僕の分身さ。あんなにバカっぽいわけがないじゃないか」

「ぐぬ、ぬぬぬぬ……」


 さっきのとは打って変わってこのゼゼルはヘラヘラと笑っている。分身というのは本当だったようだ。

 アステリアは拳を握って目を潤ませ、ゼゼルを睨みつける。


「戦位は!? 戦位はどうしたの!?」

「ああ、ま、生きてるでしょ。彼のことだからそにうち迎えに来てくれるだろうさ」


 言い終わらないうちにアステリアが氷の球を空中に作り出して射出するが、簡単に払いのけられてしまった。


「無駄だよ。君は僕に勝てない。そこで一つ提案なんだけど……、よかったら僕と組まない?」


 まさかの提案。

 今のゼゼルは様子がおかしい。分身を作り出せるとも聞いたことがない。それにアステリアがミルであることを知っていてこの余裕では、今この場で一対一で今すぐやり合うのも危険だ。

 アステリアは考えた。

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