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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
79/119

078 (大幅改稿中)

 ようやく黒鬼の治療が終わった。

 もう大丈夫だよ、とシロに言われおもむろに起き上がり、ぱっぱと服についた砂埃を払う。


「……ありがとう。なんだか、前より体が軽くなった気がする」


 シロは照れ臭そうに目を背け挙動不振におどおどしてしまう。

 黒羽が言う。


「元気になったのもシロのお陰なんだ。だからってもう俺を殺そうとするなよな」

「……しょうがない」


 ルナもほっと胸をなでおろす。


「取り敢えずこれで一安心ね。何だか喋り方も前より流暢になったんじゃない?」

「そう?」


 自分では気がついていないようだが確かにもう片言ではなくなっている。


「ほーう、確かに言われてみれば。凄いなシロ。バカまで治せるのか」

「黒ちゃんも治してあげよっか?」


 珍しく意地悪に言われて思わず「ち、余計なお世話だよ」と返してしまったがちょっと治療してみてもらいたかった。


「取り敢えずひと段落したんだ。そろそろララのところへ行こう。なんだかさっきから胸騒ぎがしてならないんだ」

「そうね」


 みんな立ち上がって戻ろうとしたときだ。遠くから大声でルナを呼ぶ若い女の声が聞こえてきた。

 全員振り返るとしらたまちゃんをおんぶしたフミュルイが必死の形相でこちらへ走って来ているではないか。

 彼女のそんな姿はルナも初めて見るのか、心底驚いた顔をした。


「え!? フミュルイ!? どうしたのそんな慌てて」

「……はあ、はあ……、はあ……」


 フミュルイは目の前まで来ると疲れ切ってぺちゃんとその場に座り込んでしまった。汗だくで肩で息をしながら言う。


「……ど、ドレイクさんが、ドレイクさんが、殺されそうなの!」

「!? なんだと」


 黒羽は極力温存したかったが、事情も聞かぬまま全員を一つの四角いバリアーに囲み、それごと上空へ瞬間移動する。そしてフミュルイが指差した拓けた場所へ更に瞬間移動した。

 皆、唖然とする。

 そこには誰もいなかったが、一箇所に血溜まりが。


「そんな……、そんな……」


 フミュルイが地に伏せて泣き崩れる。


「……ルナ、周りに気配は」

「……ううん、この辺り一帯には誰もいないみたい」


 しらたまちゃんも涙を浮かべてフミュルイに寄りかかっている。シロが慰めるように寄り添い、黒鬼は一歩引いて呆然とその様子を見つめていた。

 フミュルイが泣きながら謝りはじめた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、何も、何もできなくて、ドレイクさんが、ドレイクさんが」

「お前はすぐに助けを求めて来てくれただろう。最善を尽くしてくれたさ。それにまだ奴も死んだと決まったわけじゃない。連れ去られた可能性もある。一体何があった」


 フミュルイは黒羽にそう言われるとますます泣いて過呼吸になりはじめてしまう。そうとう自分を責めているらしい。

 しばらく黒鬼以外の全員に慰められ、シロに回復魔法で落ち着くように治療されてやっとまた喋れるようになり、全てを話した。

 黒羽とシロは驚いて顔を見合わせる。


「……黒ちゃん、その人って——」

「ああ、特徴からして、ゼゼルに間違いなさそうだ。シャルロンが晩極でシャーデンフロイデとかいう化け物に連れ去られたのが最後だと言っていたからまさかとは思っていたが、どうして今ここに」


 ルナがフミュルイを胸に抱いて慰めながら訊く。


「そのゼゼルって人は一体何者なの? 黒羽さんの仲間のドレイクさんでさえこんなやられ方をするなんて……」

「いや、無理もないだろう。ゼゼルはドレイクと同じサスリカの軍人で、奴はドレイクの上司に当たる人物だ。一枚も二枚も上手なんだろう」

「そんな、それじゃ、裏切って」

「だろうな。嫌な奴が敵になっちまった」


 黒羽は状況を整理する。

 まず、まだドレイクは死んだと決まったわけではない。そしてこれ自体が何らかの罠である可能性もある。感情に任せて今すぐゼゼルを探し回れば返り討ちにされることも考えられるのだ。ならば一旦は居場所が分かっているチョールヌイと合流し、上空の船で待機させているベラポネたちに手がかりを探してもらった方が懸命だろう。

 チョールヌイの居場所は瞬間移動をするまでもないほど近い。黒羽はみんなを先導してチョールヌイの元へ向かう。



○○○○



 ———4年前。

 シュバータ王の耳に、若くも冒険者として名を馳せるルドルフという少年の話が入った。

 王の書斎の机にはルドルフの情報をまとめた資料が秘書官より提出され、王の印が既に押され、きれいに並べられている。

 笑った顔が想像できない秘書官に機嫌よく話す。


「ほほう。巨人族の血を引く少年か。珍しい。かなり恵まれた血筋だな」

「……」

「戦闘能力試験にはお前も立ち会ったのかね?」

「はい。まだ13という若さでありながら、この国の危険生物たちを次々と薙ぎ払っておりました。流石に無傷とはいかず、現在は治療中ですが、回復力もなかなかのものと聞いております」

「そうか。お前の口から一切ダメ出しが無いとは、こんなこともあるのだな。彼には回復次第、門番を務めてもらおう。装備の用意も始めておけ」

「御意」


 王は書類の一枚、文字で埋め尽くされたものを手に取って読み返しはじめた。

 椅子に深く腰掛け、ため息をつく。


「ただ、彼自身はこの事実は知らないのだな」

「……。はい。魔導士に記憶を探らせましたが、この国に流れ着く前は物心も付いていなかったようでございまして、何も知りません」

「そうか。玉に(きず)とは言え、これは酷い」

「戦闘能力試験で傷を負っている今であれば、処刑も容易いかと思われますが」

「……。いや、くれぐれもこのことは知られないように」


 書類は王の手の中で黒い炎に包まれ、灰も残さず消え失せた。

 王は静かに笑む。


「寧ろ、知られなければ都合がいい。どれだけ危険な任務でも躊躇う必要がないのだ」

「流石は我らが国王陛下にございます。ご無礼をお許しください」

「ああ、いいとも。憎き、アシュタル人にはもとより人権などないのだ。その末裔であろうともな。まさかこのような形で生き残った者がいようとはなぁ」


 それからおよそ3年の時が経ち、シュバータ王国の付近で神話級の怪物であるシャルバベルキンが確認された。

 調査部隊を派遣するもほば壊滅。隊長格とその直属の部下数名しか生き残らなかった。彼らが帰国できたのも偶然。近くを徘徊していた黒鬼にシャルバベルキンの流れ弾が当たったことで彼らでの争いになったというだけのことだった。

 広い場内の玉座で王は深いため息をつく。


「やれやれ。困ったものだな」


 王の前には国際ギルド連盟の使者と近隣各国の兵長たちが揃っていた。

 連盟の使者が現状の報告を終えると、今後の提案をする。


「周辺の国々もほぼ同様の状態であります。シャルバベルキンを退けるには、我ら連盟の部隊に各国の精鋭を募ることを提案しますが、いかがでしょうか」

「それしかないだろう」

「はっ」

「それにお前たちのことだ。既に話しはつけてあるのだろう」


 連盟の使者が「左様」と頷く。


「よかろう。精鋭なら既に決めてある。その精鋭の名は———」


 シュバータ王は生き残った隊長格の中で最も力のある者をまず挙げた。そしてもう一人と言う。

 誰もが二番手の名を呼ばれるものと思っていたが、名を呼ばれたのは意外な人物だった。


「もう一人は、ルドルフ」


 使者と兵長たちは顔を見合わせ、笑い出した。


「国王陛下、お(たわむれ)を。彼のことは我ら連盟にも届いてはおりますが、門番である上、若すぎる。せめて年上であるヘルマーではいかがか」

「いや、ルドルフに行かせる」


 笑い声が鎮まる。


「奴は巨人族の末裔だ。それに年上というならヘルマーこそ門番としての歴もあるが故に外せない。また、命辛々に逃れて来た者たちは人手が足りていたなら本来、敵前逃亡で処刑したいところなのだ。とすれば、ルドルフしかおらんのだよ。我々は追い詰められている。消去法を余儀なくされているのだが、悪い人材では無いのだから良いだろう」

「はっ。これはご無礼を。失礼致しました」

「よい。あ、そうだ。後で先に挙げた隊長をここに呼べ。私からも直接話しておこう。この危機に二度目の出陣を依頼するのだから、礼儀というものだ」

「はっ」


 国王は彼らに下がれと命じ、後にルドルフを出陣させたのだった。

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