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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅲ 熱帯雨林の国
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054 水晶のミル

 黒羽はベラポネの話を聞きながら違和感を覚えていた。ミルにはそれなりに存在感のようなオーラがあり、霊感でびりびりと感じられることもある。しかしベラポネの水晶からはまるで感じられず、存在感について言えばガラクタと変わらなかったのだ。

 ベラポネが編んでいたものはセーターだった。話が長かったので話しているうちに形になってきていた。疲れたのか手を止めた。


「まあ、私の昔話はそんなところね。ちなみに物質的ミルはあの水晶で新しいものを見つけることも何回かあったわ。国際ギルド連盟って言って、簡単に言えば各国のギルドが一つにまとまった団体で、物質的ミルはアンビュリューズという国にある拠点で保管されてるの。危険なものが多くて手を焼いているそうよ」

「あの水晶玉は大丈夫なんですか?」


 シロが訊いた。


「ええ。三段階ある危険レベルのうち一番安全な部類のイノキシアに指定されてるの。安全なもので良かったわ」

「なあ、さっきミラーズを見つけようとしてたよな。千里眼の能力、だっけか? 他にも探して欲しいやつが何人かいるんだが、探してみてもらえないか」


 疾走したゼゼルや姉のミラーズ、シャーデンフロイデと名乗る化け物、そしてシュペルファーレン。彼らのうちの一人でも居場所が分かればかなり助かるというもの。

 ベラポネは快諾して再び水晶玉を召喚し、早速探してくれた。だが、ゼゼルとミラーズ、シャーデンフロイデは行方が分からず、あっという間にシュペルファーレンの番が来た。チョールヌイも手を組んで祈り、朗報を待った。

 水晶玉の中の白い煙のような流体が揺らめき、徐々に何かが見えてきた。


「まさか」


 黒羽も思わず呟く。

 次第にはっきりと見えてきて、雲よりもはるか上空に浮かぶ要塞のようなものが現れた。その様からは神々しさすら感じられる。巨大な構造物が空高く浮遊している景色はまるで天界のもののよう。だがそれ以上は見ることができず、景色はふわりと煙に包まれて消えてしまった。

 チョールヌイが目を丸くして慌てる。


「今のは……、今のは、一体どの辺りなのじゃ!」

「そこまでは分からないわ。それに要塞ごと移動しているようだったから、どこか一箇所に留まっているわけでもないみたいね」


 チョールヌイは下唇を噛んだ。

 シュペルファーレンもロドノフ卿と同じく大悪党。だが彼よりよほど賢いようだ。場所を転々としようとそれが地上では見つかるのも時間の問題だ。上空なら地上からじゃすぐには見つからないし、今の景色も水晶玉の能力があってこそ見えたというだけでどうせ要塞ごと透明化するような細工がされているに違いない。でなきゃあれほど巨大かつ異様な浮遊物体が今まで見つからないわけがないのだ。


「ロドノフ卿とは比にならないほど手強そうだな」

「水晶玉の千里眼の能力も向こうから跳ね除けられた感じだったわ」

「やっぱりか。まあ仕方ない。ありがとう。それでも充分手がかりになった」

「いいのよ。また何かあったら気軽に言ってちょうだい」


 ガチャ、とどこかの扉が開く音がした。ルナとフミュルイが部屋から出てきたのだった。

 ルナが伸びをしながら大あくびなんてしている。


「あら、どうしたのルナ」

「……ん? 昼寝してたの。目が覚めたから酒場におやつ食べに行こうと思ってね」

「まったくもう、だらしがないわね。あなたは太りにくい体質かもしれないけど、付き合わされるフミュルイはどんどん太っていくのよ」


 フミュルイがルナの後ろに小さくなって隠れて「そんなことないもん」とお腹のお肉を服の上からつまんで小さく呟いていた。


「大丈夫よ、フミュルイは小食なんだから。そうだ、よかったらクロハネさんたちも一緒にどう?」

「そうだな。どうする、シロ。俺たちも充分くつろげたし、ギルドにも用があるんだ」

「もちろん行くよ。ララちゃんは?」

「……。私は、ここにいたいかな」


 ララは視線を逸らしながら言った。それを見てルナとフミュルイが言う。


「あのバカたちのことなんか気にすることないんだからっ。私たちもいるんだし、平気よ。またなんか言ってくるようなら私がぶっ飛ばしてやるわ」

「そうですよ、ね、一緒におやつ食べに行こう」

「……ん〜、じゃ、じゃあ、行こうかな」


 チョールヌイがフードを深く被り、黒いてるてる坊主みたいになる。立ち上がったら彼女の足を黒羽がペチッと突いた。


「?」

「はやく行けよ。俺がおんぶしてやろうか?」

「……」


 チョールヌイはキョトンとする。黒羽がただ冗談で言っているのではないと分かると「ふふっ」と小さく笑った。


「猫のくせに生意気やのう。別に落ち込んどんのとちゃうけんねー」

「ほーん。ならいい」


 フォイに来てからチョールヌイがあまり元気がないようだったのでシロもほっとして微笑んでいた。

 ベラポネはもう今日中に編み物を完成したいらしく、グッスリのしらたまちゃんを膝に寝かせて編み物を続けながら黒羽たちを見送った。



○○○○



 おやつにしようということでギルド酒場に戻ってきたのだが、入り口に着くなり黒羽はシロの背中からぴょんと床へ降り立った。


「ん? どうしたの、クロちゃん」

「モナから船をもらう条件にシュバータでのクエストがあっただろ? その手続きに行くんだ」

「あー、ええと……」


 私も一緒に行くべきだよな、とシロはルナたちに困った視線を向けた。ルナたちとおやつにするのが先か、黒羽と手続きに行くのが先か。何をするも一緒なのが当たり前だったが、黒羽は言う。


「シロはルナたちと先におやつにしててくれればいい。ララは一緒に来い」

「え、私?」

「そうだ。すぐ済むから。んじゃ」


 チョールヌイはシロと顔を見合わせ、さっさと先に行ってしまう黒羽を仕方なく追いかけた。

 シロは珍しく置いてけぼりにされて不思議そうに首を傾げる。


「クロちゃん、どうしたんだろ」

「何が?」


 ルナが訊くとシロは「あ、ううん、なんでもない」と首を振った。シロは二人と一緒に空いているテーブルを探しにいった。

 チョールヌイが黒羽に追いつく。黒羽は彼女の頭に飛び乗った。


「クエストの受付に行ってくれ」

「重いよクロハネ。自分で歩きゃええやん」

「嫌だ。あ、受付はあっちだ、あっち」


 右の前脚を伸ばして受付を指し示す。受付嬢が手の平サイズに見える距離だった。

 チョールヌイが頭の上の黒羽を見上げる。


「ねぇ、何で私やの?」

「ん?」

「いつもはシロちゃんと一緒やのに」

「別に。お前との絡みが少ない気がしてただけだよ。にしても背ぇ低いなお前は。シロより低いじゃねぇか」

「じゃかましい。大人しうしやんとぶっ飛ばっそ」


 チョールヌイが首をブンブンふると黒羽は振り落とされそうになる。ミルであるだけあってただ首を振るだけでもすごい力だった。


「おお、わるいわるい、やめろ、振り回すな」

「あいあい。なぁ、クロハネ。クエストってどんなんやったっけ?」

「人捜しだ。あ、ベラポネの水晶玉で見てもらえばよかったな。どうせ見つからないだろうが、念のために」

「後で頼んでみるだな」

「そうだな。いや、名前すら知らないうちは無理じゃねぇか? 一緒にクエスト受けてもらえるように頼んでみるか」

「せやな。お、着いたで」


 雑談しているうちに受付に着いた。チョールヌイは背が低いせいで頭の先がカウンターの高さに届かず完全に見切れている。受付嬢から見たら黒羽だけ浮かんで見えるだろう。

 ギルドマスターのティオーレが担当していた。


「あら、いらっしゃい」

「よお。さっきぶりだな。モナのクエストの件で来たんだが」


 ティオーレは「少々お待ちください」と言って手元の書類を漁り始めた。すぐに一枚の書類を見つけて見せてくれた。


「こちらですね。シュバータの失踪した門番の捜索です」


 チョールヌイは背伸びしてどうにか書類を覗く。

 ティオーレは説明を続ける。


「シュバータ南部にある王の城が集合場所となっております。報酬はモナの飛行船の所有権です。日時の指定はありませんが、昼過ぎにとのことですね。ただ、現在はシュバータとフォイとの間の海域に嵐が吹き荒れているそうなので、次に出航許可が出るのは早くて明後日になりますね」

「嵐?」

「ええ。原因不明の嵐ですので、危険生物によるものである可能性もあり、調査隊が派遣されています」

「そうなのか。なら止むを得ないか」


 黒羽は明日にでも出発したいと思っていたが、諦めざるを得ないらしい。しかし彼はあることを思いついた。


「いや、俺たちもその原因を探りに行っちゃダメか? モンスターとかが原因なら倒してきてやるよ。代わりにそのままシュバータに行かせてくれればいい」

「ダメです」

「え」


 きっぱり断られてしまった。

 チョールヌイも反論する。


「何でや。黒羽と私はミ……、カンスト以上なんやし、その私らで何でダメなん?」

「私たちギルドに関わる者は国際ギルド連盟という組織の管理下にあります。つまり、上の命令で例えミルであっても一般の冒険者さんを調査に送ることはできないのです。あまりに危険な調査になりますので、調査隊は全員訓練を受けた死刑囚で構成されているくらいなのです」

「死んだところでどうせ死刑判決が出てる連中だからってことか。やべぇな」

「申し訳ありませんが、どうかご了承願います。貴重な戦力だからこそ、不用意に調査に送れないのです」

「私たち二人がかりでも返り討ちに遭う可能性があるってことかやー?」

「はい。この嵐が黒鬼によるものでないとも言い切れませんので。黒鬼はミル殺しの怪物として恐れられる存在です。戦いを挑んだ冒険者はミルであろうとほぼ全員殺されていまして、生還したとしても五体満足とはいきません。モナの兄も犠牲者の一人です。あなた方が戦いを挑もうものなら飛行船の話は破談になるに違いありません」


 機械的なほどクールなティオーレに似合わずものすごい恐れようだ。モナも言っていた黒鬼は桁違いらしい。


「分かったよ。ま、俺ら二人だけで行くならまだしも、他のやつらも巻き込んじゃ悪いからな。絶対ついてくるから。じゃあ早くて明後日、いい知らせを待ってるよ」

「……。しゃあないか」

「ご理解ありがとうございます」


 黒羽はクエストの書類に肉球でスタンプを押して契約だけ結び、シロたちを探しにいく。

 どうせドレイクも一旦フォイの実家に寄りたいと言っていたのでそれほど腑に落ちないわけでもなかった。

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