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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅲ 熱帯雨林の国
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049 フォイに着くまでお喋りでも

誤字修正しました

 フォイで造られる飛行船にはいくつかのタイプがある。大きく分けて2つ。一人の船長と複数人の乗組員で運転する従来型と、一人の船長で運転する独操型と呼ばれる最新型だ。

 従来型は貨物船や旅客船、空母がそれにあたり、独操型は一部の軍艦や水空両用船等を指すが、このライセンスがあれば黒羽たちのもののように自家用機の運転手を勤めることもできる。従来型は娯楽用、独操型は軍事用というイメージが強い。

 乗組員の資格なら15歳から取ることができ、船長の資格は両タイプとも16歳からである。

 モナは15歳で従来型の乗組員になったが、猛勉強の末に16歳で独操型の資格を得た。

 再びババ抜きをしながらモナがそこまで話したらまた黒羽が一番にあがり、続いてドレイクときて、シロとチョールヌイ、モナの三人が残っていた。今のところ平和に進んでいる。


「独操型の船長の資格は取るの結構大変だったんですよ。筆記試験と面接に、操縦の実技試験と戦闘技術試験まであるんですもん」

「戦闘能力まで試験されるのか。待て、今レベルいくつだ?」

「972です。みなさんには到底及びません」


 モナが肩身狭そうに言うのでシロが揃ったカードを捨てつつ言う。


「大丈夫。私なんかレベル7しかないよ」

「え、え!?」


 驚きのあまり声が裏返る。


「ひ、一桁で戦地に行ったんですか!?」

「うん。そうだけど?」

「すごい! 私そんな勇敢な人聞いたことないですよ! だってそんな、一発でも攻撃を受けたりしたら——」

「大丈夫! クロちゃんがすごく頑丈なバリアーで守ってくれるんだもん」

「うわぁ〜、すごい信頼関係! カッコいいです!」

「えへへ、そんな、私なんてマスコットキャラみたいなものだし——」


 アステリアといい、シロといい、どうして偉業を成し遂げる者ほど全く自慢しないのか。凶悪なテロリストもいいところのロドノフ卿を倒すというジャイアントキリングをやってのけたのは他でもない、対人戦初心者だったアステリアとレベルたったの7しかないはずのシロの二人。やはりシロも首を横に振ってこれっぽっちもそのことを話そうとしない。

 なので黒羽が代弁する。


「こいつスゲーんだぞ。確かにレベルはたったの7のヒーラーだが、この前の戦争ではあの世界的大犯罪者と恐れられたロドノフ卿に止めを刺したんだ。あれは凄かったなぁ、ジャイアントキリングなんて物語の中の話だと思ってたが、まさかやってのけるやつがこんなすぐ近くにいるとは」

「ええ! すっごい! お手柄じゃないですか! どうやったんですか!?」

「そんな、私は何もやってないよ。あれはみんなで力を合わせたからなんとかなっただけで」

「そんなことねぇ」

「もう、恥ずかしいってば。モナちゃんの話を聞こう。ねぇねぇ」

「けっ、つまんねぇなぁ。せっかくの武勇伝なのに。まあいい。今はモナの歓迎会みたいなもんだし、そんなこと話してもしゃあないか」


 褒められて耳まで真っ赤にしているので黒羽はモナの話に戻ることに。あまり自慢したらモナの居場所を奪ってしまいそうだと気づいて慌てた。


「その独操型とやらの戦闘能力試験って、どんなことやるんだ?」

「そうですね、戦闘技術と一口に言っても、攻撃力、防御力、主に魔法による回避能力とかがあって、それらを駆使していかに船を守れるかっていう、ものです」


 ドレイクとチョールヌイが「へぇ〜」と相槌を打つ。


「私は防御力ばかり鍛えてたので、船をすっぽりバリアーで覆って試験官たちの攻撃から守り抜きました。バリアーならコツさえ掴めば鍛えやすいので、割と上手くいきましたね」

「そんなにすごいのか」

「どんな攻撃でもドンと来いです! 雨にも風にも負けませんよ! ……あ」


 モナがシロからトランプを引くとジョーカーが来た。


「ジャイアントキリングだな」

「もう! クロちゃん!」

「ごめんごめん」


 チョールヌイが「ぎゃ!」と短い悲鳴をあげ、急にみんな静かになる。今移動したばかりのジョーカーがチョールヌイの方に行ったらしい。ジョーカーも忙しいものだ。

 今度はドレイクが訊く。


「でも一人で操縦するなんて大変な仕事、なんでやろうと思ったんだ?」

「私、小さい頃から空が好きだったんですよ。空飛ぶ海賊戦に乗って世界中を旅するのが夢で、頑張って勉強しました〜。私の一族はドラグーンっていって、ドラゴンの血が流れるリザードマンとは別の派生をした種族なのもあってみんな空が好きなんですよね」

「へぇ。じゃあ家族も賛成だったのか?」

「最初は独操型は心配されましたけど、私のバリアーの技術で安心してもらえました。パパにはよく、女の子はガードが固くないとダメだ! みたいなことを口酸っぱく言われてましたねぇ〜」

「ははは」


 こいつ絶対狙ってたな、と黒羽は思った。なかなか気まずそうな苦笑いの仕方で滑稽だった。

 黒羽が訊く。


「兄弟とかいるのか?」

「お兄ちゃんがいますよ。すっごく強くて、少し前までフォイのギルドで唯一のミルだったんです。でも悪い人に襲われて大怪我しちゃって、今は引退して家でパパの仕事を手伝ってます」

「……」


 悪い人と聞いて視線が飛び交った。チョールヌイは私じゃないよと首を横に振っていた。代表して黒羽が訊く。


「その悪い人って、ロドノフ卿か? もしよかったら教えてほしい」

「お兄ちゃんから聞いたのは、黒髪に真っ赤な目の、一見してとても強そうには見えない華奢な女の子だったらしいです。なんでも世界中のミルを襲って回ってるって言っていただとか。一時期は黒鬼と言われて世界中で指名手配されていましたが、最近は聞かないですね」


 悪いやつはあちこちにいるもんだな、と黒羽は思った。

 黒髪に赤い目というと少なくともアルシュタル人ではない。シュペルファーレンとは別人のようである。


「物騒な世の中だな」

「でも命だけは助かったので良かったです」


 何と言って会話を続けようかとみんな考えて静かになるが、すぐにドレイクが続けた。


「ま、戦う相手は選ぶことだな。危険なやつはあちこちにいるんだし、片っ端からあたってもキリがねぇ。無駄な戦闘は置いといて、必要な相手をまずさばいていかねぇとな」

「ホントです! お兄ちゃんったら、家族の気も知らないで売られた喧嘩は全部買うんですもん」


 チョールヌイの短い悲鳴が会話を遮る。シロがジョーカーを回避して上がったのだ。


「弱すぎだろお前ら」


 黒羽が笑っている間にジョーカーはモナの手札へ。どうして心の中でガッツポーズを決められているのが分かっていながら引いてしまうのか。

 案の定、ジョーカーは二、三回二人の間を行き来した。とてつもなく弱い駆け引きの末、今度はモナに軍配が上がった。


「やった! やっと勝ちました!」

「うわ〜」


 余韻に浸る二人をよそにドレイクは待ち草臥れて大あくびをかます。

 遊び始めて一時間程が過ぎていた。そろそろシュバータの空域を出るらしく自動操縦を解除しなければならないということでここでモナは操縦に戻っていった。最後にはドベは免れてご機嫌な足取りで階段を上がっていったのだった。

 その後、さらに一時間程度でフォイの空域に侵入。みんな甲板に出て柵から地上の景色を眺める。

 炎の国フォイは案外緑豊かな自然溢れる国だった。プリンみたいな形の巨大な木造建築物が開けた原っぱに散在して、民家くらいならすっぽり入りそうな大口を開けている。黒羽たちの乗る海賊戦の形をした飛行船は、一際目立つ山のようなプリン形建築物の口の中へ入っていった。

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