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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
118/119

117 黒

 のっぺらぼうとラングヴァイレは地上にいた。

 島の反対側ではちょうどベラポネがしらたまを連れて岩場に隠れた頃。この15分以上の間、二人は激戦を繰り広げていた。

 ラングヴァイレもそろそろのっぺらぼうのしぶとさに気が遠くなってきてしまう。最初、のっぺらぼうは切断された手首からの血をラングヴァイレにかけ、怯ませた隙をついて一気に地上まで叩き落としていた。

 のっぺらぼうの両手は治りが遅いというだけで地上へ来た時には傷が塞がり、しかし手首から先が無くてどうするのかと思えば太い両腕を金棒のように振り回して応戦。明らかに2メートルを超える筋骨隆々の体格も相まってさながら絵に描いた鬼のようだった。

 とは言え、戦闘経験はラングヴァイレの方が何百年も上だ。のっぺらぼうの動きは見切ってしまい、もう一撃も当たっていない。束になって襲いかかるコウモリたちもラングヴァイレに的確に狙われて歯が立たなくなっていた。

 勝敗は一目瞭然かと思いきや、ラングヴァイレはどうしてものっぺらぼうを倒し切れない。何故なら、いかに攻撃しようとも全てを防ぐ黒い炎を纏いはじめたからである。触れても熱は感じられず、炎の見た目でありながら堅いものを殴ったような感触で寧ろこちらの拳にダメージがきてしまう。そんな黒い炎の盾がのっぺらぼうの身体の周りへ瞬時に出現し、威力を大幅に軽減するのである。のっぺらぼう本人の意思とは関係ないかのように振る舞い自動で盾になる黒い炎。ラングヴァイレは防がれつつも強引にその上から攻撃を貫き通すしかなく、戦闘は長引いていた。

 上空でギーリッヒが大量のコウモリに変身していたせいでしばらく薄暗い森の中での戦闘だったが、急に晴れてお互いの姿がはっきり見えるように。ラングヴァイレは舌を打った。

 シャーデンフロイデとギーリッヒが死んだ。それも同時に。

 身構えるのっぺらぼうと、腕を組むラングヴァイレ。お互い空の異変に一旦戦闘を中断だ。

 まさかあの二人が、それもこんなにあっさりと倒されるとはとても信じられず、ラングヴァイレは指で頭を掻いて深いため息をついた。

 

「ったく、今日はマジでどうなってやがる……。オメーも一体何者だ? さっきから妙な真似しやがって。オマエ……、さては、悪魔だろ」

「……」


 姿や雰囲気がどうもこの世の者のそれではない。

 死後に悪魔になるであろう者や下位の悪魔に会うことは少なくないが、悪魔同士で鉢合わせれば上下をつけようと必ず殺し合いになる。ただしそれは同レベル、特に考え得るのは下位の悪魔同士だった場合の話だ。最も死を嫌う種族であるため、力の差が激しい相手に挑む無謀な悪魔はそうそういない。それにほとんどの場合は他人に憑依して過ごしているために悪魔本来の姿あるいはそうだと分かりやすい状態でいること自体が珍しく、そんなものは暇を持て余した上位悪魔くらいだ。

 仮に上位悪魔同士が鉢合わせたとすれば、まさか互いに負けるとは思わずやはり殺し合いになることは目に見えてはいるが、これだけ広い世界を、それもいくつも行き来する中では砂漠の砂の中から一本の針を探し出すようなもの。ほとんどゼロに等しいなかなか難しい状態である。

 それでものっぺらぼうからは同じ悪魔の気配がするのだ。


「……?」


 訝しむラングヴァイレに、のっぺらぼうはおもむろに構えを解いて両腕を肩の上まで挙げ、さあ、と小馬鹿にするような仕草を見せた。

 まるで他の人格に入れ替わったかのよう。その仕草こそが答えだった。


「テメー!」


 真っ向から蹴り込むが太い腕を交差してガードする上、黒い炎が盾になる。ラングヴァイレはよほど頭に来たのだろう。それでも威力を受け切れず、のっぺらぼうの巨体は踏ん張って地面に二本線を引いて後方へ大きく押し下げられた。

 打ち合いはまだまだだが、防御に関しては確かに同じ上位悪魔だと言われても納得がいくもの。ただ正体も動機もまるで不明だ。

 現れた時には無謀にも、従えるコウモリたちでシャーデンフロイデやギーリッヒもをラングヴァイレと同時に相手しようとしていた。ラングヴァイレを狩りに来たというより、アハダアシャラと戦いに来たといったところ。審判界の住人からすればまるで通りすがりのヒーローだが、それが何故同じ悪魔なのか。


「な!」


 ラングヴァイレは蹴り込んだ脚を捉えられてしまった。あの黒い炎に。

 これまで盾として振る舞っていた黒い炎はするりと流動的にラングヴァイレの脚を包み込んだのだ。そこへちょうど完全に生え変わったのっぺらぼうの両手が掴みかかる。

 すかさずラングヴァイレは身を捻ってもう片脚でのっぺらぼうの頭を蹴るが、黒い炎が盾になって防がれてしまった。

 直後、のっぺらぼうは身体を一回転させ、ラングヴァイレは砲丸投げのように投げ飛ばされる。即座に空中でぴたりと静止してみせるが、のっぺらぼうは真上にいた。

 やはり、悪魔だ。

 黒い炎が翼のようになり、明らかに速度を増している。

 ラングヴァイレもガードするがのっぺらぼうの両の拳を組んだ重い一撃が炸裂。攻撃の瞬間に翼で真下への加速も加えたのだろう、凄まじい威力にラングヴァイレは地面に金属音を立てて叩きつけられた。地面も耐えられるはずがなく一瞬にして大穴が空き、周囲の木々は反動で根こそぎひっくり返され空へ吹き飛んでいく。

 ぽっかり空いた穴の中にはラングヴァイレの姿が見えない。のっぺらぼうが着地すると、背後に地中から何かが飛び出してきた。

 ラングヴァイレだ。

 いとも容易く地中を移動し、完全にのっぺらぼうの不意をついた。まさかこれほどの一撃を受けておきながらすぐ地中から飛び上がってくるとは誰も思わない。ラングヴァイレの回し蹴りが空中でのっぺらぼうの頭を振り向きざまに捉え、盾になる黒い炎も打ち砕いて斬るように顔面に叩き込まれた。

 仰向けに飛ばされていくのっぺらぼうに追いつき、突き刺すようにボディを踏みつける。黒い炎の盾があってものっぺらぼうの巨体が大の字で地面に叩きつけられた。

 同じ悪魔同士だが、天界でも危険視される大悪魔は格が違う。やはりラングヴァイレのほうが何枚も上手だ。


「?」


 突如、足元からのっぺらぼうの姿が消える。

 こんな芸当ができるのはラングヴァイレが知る限り一人、いや、一匹しかいない。


「よお、クロハネ。待ってたぜ」


 まだ舞い上げられた砂や木の葉がはらはらと降ってきている。振り返れば更地となったこの森の跡に、黒羽がいた。

 のっぺらぼうの姿はない。どこか別の場所へ移動させたよう。

 黒羽はバリアーに砂や木の葉を積もらせ、その内側で座っていた。


「ああ。とんだ邪魔が入ったもんだ。貴様も猫一匹にやられずに済むといいなぁ」

「けっ、何でオメーはそれで悪魔じゃねぇんだろうなぁ。よかったのか? たった一匹だけで。さっきのデカブツはどうした」

「さあな。もう貴様とは会うこともないだろうよ」


 そう言うと黒羽はバリアーを回転させ、上に積もった砂や木の葉を払い落とした。

 ラングヴァイレは肩を回し、首を傾けて関節を鳴らす。


「そうか、まあいい。それじゃあ、早速——」

「始めようか」


 すっ、と、辺りが暗くなる。暗いと言うのでは足りないほどに。

 何が起きたのか、因縁の対決が再開した途端、ラングヴァイレは一点の光もない漆黒の暗闇に閉じ込められてしまった。

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