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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
114/119

113 漆黒の空

 船は黒羽がバリアーで覆い、自身もその内側で集中する。さらに目前に迫るシャーデンフロイデから、黒鬼が船の盾になるように空中浮遊して阻んでいた。

 シャーデンフロイデはレベル3000を突破した化け物だ。もはや正攻法で勝てる相手ではなくなっている。ならば卑怯でも使うことができれば、もしかすればこの状況もひっくり返せるかもしれない。

 だが、黒羽には卑怯を扱うことなど到底無理な話だった。

 このただの審判界の住人が天界の者に匹敵する能力である卑怯を扱うには、相手に殺意を向けると同時に賞賛し、敬意を抱く必要がある。前世では流れ作業のように敵を殺しまわり、今世でもただ目的の達成と仲間を守ることばかりを考えて戦ってきた黒羽には、立ちはだかる敵など目の上の瘤のようにひたすらに目障りで、すぐにでも処分したい異物にしか見えていない。そんなゴミも同然の物には殺意が全てであり、よもや敬意など、黒羽には最も相性の悪い条件だった。

 あと5分でけりを付けると豪語したシャーデンフロイデ。このままでは現実になってしまう。しかし、逆に何故あと5分なのか。黒羽がもしやと思えば彼の勘は的中した。

 シャーデンフロイデは自身もバリアーを張り、その内側で両方の手の平を突き出したのだ。真っ白な手の中に奈落への穴のような真っ黒のエネルギー弾が練られていく。まだ作られはじめたばかりで針の先ほどしかないというのに、腹の底に響くような低く凄まじい轟音が。その威力を物語るようだ。


「ギーリッヒ!」


 シャーデンフロイデはそのままギーリッヒをあごで使い、何かを命じた。すると、たちまちギーリッヒの姿に異変が。

 身体が裂けるようなほどの大口を開け、真っ黒な煙を大量に吐き出す。あっという間に包まれてしまい、黒い煙となったギーリッヒの身体は無数の塊に変化した。


(……まさか)


 黒羽はシャーデンフロイデばかりを気にしてギーリッヒの能力を分析しなかったことを後悔した。ギーリッヒは底なしに相手を飲み込めるというだけではなかったのだ。その飲み込まれた相手の姿も、能力も、数も、全てを自分のものにしてしまえたのである。

 青い大空に大量のコウモリのモンスターが舞う。数のあまり太陽を覆い隠して夜のようになってしまった。あの白い悪魔の身体がより不気味に浮かび上がって見える。まさに地獄絵図だ。

 このコウモリたちは分裂することもできたようでその数は際限なくますます増えていく。

 無限に増殖するのでは戦おうにも倒し切ることはほぼ不可能。どこか死角に一体だけでも隠れられてしまえば終わることはない。防御に徹しようにも、それだけでも5分と耐えれるかどうか。仮に耐え抜いたとしても、シャーデンフロイデは周囲の者がダメージを受けた回数だけレベルが上がる。5分後にはまるで無限のレベルに達していることだろう。そこから放たれる攻撃など、受け切れるはずがないどころか身体がいくつあっても足りない。オーバーキルも甚だしい、確実な処刑だ。

 黒羽が黒鬼を船に瞬間移動させた。


「ひとまずここで耐え抜くぞ。船のバリアーならギーリッヒのレベルには耐えられる強度だ」

「大丈夫。バリアーは要らない。私は外にいる」

「なっ」


 黒鬼があっさりと言った。この状況で信じられない発言だ。

 いくら世界中で恐れられてきた黒鬼といえども、天使と悪魔の融合体による無限の攻撃ではひとたまりもないはず。それなのに全く動じていない、相変わらずのポーカーフェイスで続ける。


「大丈夫。攻撃を受けなければいい。できるだけおびき寄せる」

「……」


 黒羽は説得しようと思ったが、不意にデジャブを感じた。誰だったか、前世でも窮地で似たようなことを言った奴がいたような気がしたのだ。


「分かった。お前が言うんなら。だがヤバそうなら引き戻すからな」


 黒鬼は頷いて果敢にもバリアーの外側へ。シャーデンフロイデに向き直った。それも場違いにも本当にノーガードだ。一体何をしようと言うのか。

 レビに利用されていたとはいえ、一度は戦った黒鬼と黒羽が漆黒の空を前に背中を預けあう。晩極戦争以来の久々な夜だ。それも、死が具現化したかのように、薄暗くて不吉な。


「行ケ」


 切り捨てるように一言。シャーデンフロイデの命令がとうとう下された。

 黒羽の脳裏に走馬灯のようにこれまでの日々が思い出される。シロと出会い、苦楽を共にした。やがてサスリカでこの船へモナに迎えられ、フォイでルナとフミュルイ、ベラポネとしらたまに出会って温かく平穏な時間を過ごした日々のこと。ふと、目の前で家族が殺された前世の記憶が蘇る。

 この船にはシロもメイシーもモナも乗っているのだ。命に替えても今度こそ死なせるわけにはいかない。

 シャーデンフロイデの命令を受けて、無限のコウモリとなったギーリッヒが大群を成して一斉に迫り来る。黒い群勢が色を失ったような灰色の空間を矢のように突き進み、視界を漆黒に染めていく。

 黒鬼も、船ごと黒羽も、みんな一瞬のうちに呑み込まれてしまった。

 黒鬼はどうなったのか。

 船は、黒羽は。

 壮絶な光景だ。コウモリの大群が渦を巻いて群がり、一つの巨大な球のようになってしまっている。その中に黒鬼や黒羽、そして船体があるかどうかはもはやシュレディンガーの猫のような様だ。

 間も無く、シャーデンフロイデの宣言から5分が経過する。シャーデンフロイデが手を下すまでもなく、もうとっくに勝敗はついているかもしれない。寧ろこれで耐え抜いているとは思えない有様だ。


「離レロ、ギーリッヒ」


 シャーデンフロイデも攻撃の準備が整った。両手の中に黒い塊が拳ほどの大きさで完成し、バチバチと真っ黒な電気火花を散らしている。

 もうそれも必要ないのではなかろうか。コウモリの大群は次第に四方八方へ散っていき、その内側が露わになる。


「……。フン」


 コウモリたちが離れていくと、黒鬼は、黒羽は、船はどうなっていたか。なんと全くの無傷で耐え抜いてしまっていた。

 この約5分の間、黒羽は黒鬼が強気でいてくれたお陰でバリアーに集中でき、船を守り切る事ができたのだ。一方、黒鬼は自身の能力を防御ではなく、攻撃に全て転じさせて凌いでいた。エルツェーラーを吸い込んだ超重力を、今回はバリアーのようにして自身に纏い、まるで小さなブラックホールにでもなったかのように迫り来るコウモリ達を返り討ちにしていたのである。

 黒鬼の超重力に吸い込まれたコウモリ達は圧縮されすぎたあまり潰れて分子単位にまで変化してしまい、もう見る影もない。彼女は全てを吸い込んでやるつもりでいたようだが、船も吸い込んでしまわないように加減しなければならず、ギーリッヒの増殖速度に間に合わなかったよう。黒鬼でもやはりこの状況では倒し切るには程遠かった。

 シャーデンフロイデがギーリッヒの攻撃でさらにレベルを爆発的に上げる算段だったのは分かっていたことだ。黒羽も防いだつもりだった。

 シャーデンフロイデは目の届く範囲にいる者がダメージを受けた回数だけレベルが上がる。それは敵も味方も問わないのだ。

 つまり、黒鬼が少しでもコウモリ達を自分に向けさせるべく超重力で引き寄せ大量に殺したがために、船は守られたがシャーデンフロイデの目論見通りになってしまったのである。

 黒羽は後悔した。黒鬼にシャーデンフロイデの能力を伝えることができたはずだと。とはいえ伝えられていたとしても、黒鬼がコウモリの数を減らしてくれていなければ船を守り切れたという保証もない。

 黒鬼もシャーデンフロイデのレベルの急上昇を肌で感じているよう。そのレベル、実に35000と、たった5分で10倍に跳ね上がっていた。

 シャーデンフロイデの漆黒の弾が、放たれるまでもなく熱としてエネルギーが溢れ、バリアーの外にいる黒鬼の姿が陽炎のように揺らめいて見えるほど。こちらを振り向いた黒鬼は、黒羽の前で初めて表情を見せた。


「ごめん、黒羽。私が受け止める」


 シャーデンフロイデは黒鬼が視線を逸らした隙に無言で漆黒の弾を放つ。

 漆黒の弾が近づいてくるのが不思議と遅く見えた。

 世界から全ての音が消えたような感覚。これが、絶望なのだろう。


「止まれーーーーッッッ!!!!」


 黒羽の叫び声が黒い大空を駆けた。

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