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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
103/119

102 剣士

 アステリアに裏切られ、ララは鬼ヶ島に拘束されていた。

 空に突き刺す木々が鬱蒼と茂るジャングルを、一際高い丘の上から見下ろす。身体には何重にもワイヤーのように頑丈な蔓が巻きついて身動きが取れなくされていた。

 一刻も早くゼゼルを追い、ベラポネたちを援護しなくては。それなのに脱出を試みる間さえも無くして、ゼゼルが向かった先で黄金色の大爆発が起きた。

 絶望的光景。ララは絶叫した。

 その声は鬼ヶ島中を、空を、やまびこのように反響しながら遠く遠く駆け抜けていく。

 ジャングルには何か巨大なモンスターと思しき影が時折ちらついている。この蔓の拘束を解いてもまたソルマール島まで戻るには時間がかかりそうだ。

 ベラポネたちの生死を見届けることもできず、まんまと術中にはまって何もできないまま終わるのか。

 この島はあのアステリアが卑怯で作り出したものだ。全てが普通ではない。蔓も鎌鼬を放って切断しようとするも少し傷がつく程度。とんでもない頑丈さだ。

 その時、何かひゅううう、と風を切る音がしはじめた。みるみる大きくなる。こっちに来るようだ。

 上を見上げると何か黒く太い柱のようなものがもの凄い速さでこちらに迫ってきていた。いや、柱のように見えたものは何かの大群だ。

 もう一つ一つの個体が見える距離に迫るとそれは見覚えのあるモンスターだった。

 あの強靭な肌をしていたエイをたった一匹あっという間に食べ尽くしてしまったコウモリのようなモンスターたちだ。

 また助けられるのか、それとも喰われるのか。


「ひいっ!!」


 見つけてからわずか3秒程度でララのところまで到達。もうダメだと短く悲鳴をあげ目をつぶって歯を食い縛り顔を背けた。

 バサバサバサ……。キャキャキャキャッ。


「……」


 コウモリたちの羽ばたく音と鳴き声が聞こえている。喰われなかったようだ。

 おそるおそる目を開けてみれば周りはコウモリたちで真っ黒だった。今まで縛り付けられていた大木もあの頑丈な蔓をももう既に食い尽くし、ララは自由の身。このコウモリたちは一体なんだというのか。

 コウモリたちは空中にホバリングで静止して、目がなく大きな口しかないがララを見下ろしているよう。


「た、助けてくれたの?」


 肯定するように声に反応してララの周りをぐるぐる回る。かと思えば、コウモリたちは一斉に飛び立ち、ソルマール島へ一直線。


「!?」


 ジャングルの木々も、蠢いていた巨大なモンスターたちをもとんでもないスピードで食べ尽くし、広い一本道ができてしまった。

 とんでもない集団だ。道が完成するとその両脇にきれいに並んで他のモンスターたちを阻む。

 これはすごいと思った矢先だ。目の前でまたも大爆発が起こり、爆風がここまで押し寄せた。飛んでくる砂塵から腕で顔を庇い、踏ん張って耐え凌ぐ。

 爆風が止み、ソルマール島に目を向けてみたらまたひどい光景だ。空高くキノコ雲が立ち昇っていくではないか。

 しかし逆に考えれば誰かが戦闘中だということ。まだベラポネたちは生きているかもしれない。

 ララは黒い双剣を強く握りしめた。



○○○○



 あの水素爆発でもゼゼルは無傷。

 ルナが地に這いつくばって爆風を耐えたところへ斬り掛かった。


「……おや?」


 ゼゼルの白い太刀は空を切った。

 電気は光と同等の速度を持つ。電気の属性者の中には鍛錬の末に光の速度での移動を可能にする者が現れることがあるという。それが、ルナだったのだ。


「いや〜、これは参ったねぇ〜」


 ルナはゼゼルの背後にまで退いていた。まだ使いこなせているわけではなく短い距離に限られて攻撃を避けられる程度だが、ゼゼルの太刀も異常に速く、それでも今のは紙一重だった。体力の消耗も激しく何度も使えるわけではない。押し殺してはいるものの息を切らしてしまったせいか、背後にいることも完全に気付かれているらしい。ゼゼルは太刀を肩に担ぎ、背を向けたままで話す。


「君、そんなに速いの。困ったなぁ」

「!?」


 ゼゼルも速すぎる。白い太刀はルナの足元へまたも空を切り地面を叩き土を舞い上げた。


「それ、僕もできるんだけどね」


 舞い上がった土が空中に止まって見えるようなごく短時間の駆け引き。ギリギリで後ろへ飛び退きながらルナは戦慄する。

 今の今まで姿を表さず、ここぞという時を見計らう狡猾さ、そしてとんだ防御性能に加えて光の速度。さっきまでのはお遊びだったのか。そのうえこの白い太刀、空を切るたびに人の悲鳴が聞こえる気がする。ただの刃物ではない。何かもっと、ずっと恐ろしい何かを秘めている。

 背筋が凍るようだ。けれどこんな怪物、なんとしてもここで仕留めなければ手負いのベラポネとしらたまや、ヒーラーのフミュルイたちも容易くやられてしまうだろう。

 道連れにしてでも殺してやる。リーダーとして恐怖している場合ではない。

 連続して光速での移動をするのは初めてだ。とても身体が持つとは思えないがやるしかない。ルナはゼゼルが太刀を翻して斬り上げてくると見越し、さらに光の速さで背後へ周り、背中へめがけて電磁砲を放った。卑怯だなどと言っていられる状況じゃない。倒せればそれでいいと思わせるほどの相手なのだ。


「ひどいじゃないか」

「……」


 ゼゼルは振り返りもせず、背後へ片手を伸ばしノールックで電磁砲を、しかも素手で受け止めてしまった。

 受け止められた電磁砲は振り返りながら見せつけるように握り潰される。


「ごめんね、強くて」


 ルナの足が意に反して後退っていく。身体が震えるのが自分でも分かった。

 ミルにはなれておらず、レベルは999のカンスト。本来ならそれでも充分に英雄の器だが、桁が違う。スピードだけは血の滲むような努力の末に光の速度を獲得したが、それでもゼゼル相手には厳しい。

 ミルはレベルが1000を突破し測定する技術がないためにエラーとなる者たちだ。もし測ることができたとしたら、ゼゼルのレベルは一体どれだけだというのか。カンストしていても弄ばれるとは、常軌を逸している。超常現象が服を着て歩いているかのようだ。

 息切れがもう抑えきれない。ルナは肩で息をしながら言う。


「……い、一体、何が目的なのよ」

「目的? さあ、なんだろうね」


 ゼゼルは担いでいた太刀の先をルナに向けた。


「今、僕が光の速度で君を貫こうとしていたら、また避けることはできたかい?」

「そんなの、当たり前じゃない!」

「まあ、そうかもね。にしても君、すごいよね。色々できるし、太刀筋も見切れる。本当は剣士なんじゃないの?」

「だったら何だって言うのよ」


 ゼゼルは不敵に笑みを浮かべ、太刀を正面に構えた。


「嬉しいね。僕は何の属性者でも無い代わりに、剣のスキルだけを持って生まれてね。君が剣士だと言うのなら一度、剣を交えてみたいと思ったんだ。隠し持っているんでしょ? 見せてくれよ」


 剣のスキルだけ。これだけの戦闘能力を見せつけておいて到底信じられるわけがない。何の属性も持たずにミルになど、いや、それは愚かカンストにさえ至るなどほぼ不可能だ。もしそんな者がいたとしたら、もはや人の類なのかも疑わしい。

 ルナは両手の中に電撃を集め、金色に輝く雷の剣を召喚。電気でできているために実体のない刀身からばちばちと電気火花が散る。

 同じく正面に構えて無言でゼゼルを睨んだ。


「へぇ、いい剣をもっているね。男心をくすぐられるようだよ」

「……」


 余裕に微笑むゼゼル。額から汗が伝うルナ。もう退っ引きならない。ここでやらなくては仲間たちは死んでしまうだろう。

 せめて道連れにして死のう。ルナは懐かしい日々を思い返し、剣を強く握りしめた。

 ゼゼルが一度瞬くと目付きが変わる。今までどれだけ斬り殺してきたか知れない、一切の感情を感じさせない冷たく、吸い込まれてしまいそうな目だ。

 ゼゼルとルナは同時に踏み込む。

 火花が散った。

 雷の剣を盾に使い、白い太刀を受け止める。まともに斬り合って勝てるわけがない。

 受け止めたその隙にゼゼルのつま先に自分のつま先で触れ、彼の肉体を構成している分子を、さらに構成する原子を、そしてさらに構成する電子、陽子、中性子に働きかけた。


「へぇ、爆発させようとしたんだ」

「!?」


 ルナの身体が地に線を描いて蹴り飛ばされる。

 効かないはずがない。雷の属性者以外は全て自身を構成する電子たちを制御できずに爆散するはずの、自身もダメージを受けるほどの大技のはずだったのだ。


「どうして効かないのかって? 僕が強いからさ。今のは剣士としてもまあ、僕は悪くないと思うよ。相手の不意を突くのは策略の内さ。どうか、恥じて死なないでね」


 腹に穴が空きそうなほどの蹴りで息ができない。どうして今ので殺さなかったのか。どこまで斬り殺すことにこだわりがあるというのだ。

 激痛に悶えて身動きが取れないルナにゼゼルの太刀が振るわれる。

 もうここまでか。そう思った瞬間、耳を劈くような金属音が響いた。

 あり得ない。そこにはララの細い背中があった。

 ゼゼルも度肝を抜かれる。ララは黒い双剣を向かい合わせるように重ねて弓なりに構え、そのか細い刀身を盾にゼゼルの太刀筋を見事に受け流したのだった。

 真横に受け止められれば睨み合うことになるものを、完全に下まで受け流されてしまったことでゼゼルに隙ができる。

 ゼゼルの切り返しが先か、ララの反撃が先か。次のコンマ1秒が生死を分ける。

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