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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
102/119

101 リーダー

 地上へ降りることにしたルナは船の柵へ飛び乗り、止まり木の鳥のようなバランスでフミュルイに手を貸して一緒に飛び降りた。

 真っ逆さまに空を貫いて駆け降りていく。

 ルナはフミュルイにも電磁力によるバリアーを発生させ、風と落下速度と軌道を制御。雲を抜けるとソルマール島が見えてきた。

 さらに降りて、島の中心付近と海岸付近で人影が見つかる。まだ針の先ほどの点のようにしか見えないが、数が多い海岸を目指すことに。


「あ!」


 ルナが声を上げた。海岸で激しい砂煙が起こったのだ。

 砂煙の中から弾かれたように誰かが森の中へ飛び出していく。見失わないように目で追いながらさらに落下して近づいていくうち、先ほどよりも大量の砂煙が海岸から森の中へと飛ぶような速さで木々を吹き飛ばしながら進みはじめた。

 そこでルナは、しらたまを負ぶって森の中をどこかへ必死に駆けていくベラポネを発見。フミュルイも気づいて声を上げる。


「ベラポネさんが追われてる!」


 もう砂煙はベラポネたちにたどり着いてしまう。このままでは二人が危ない。


「ごめん先行ってくる!!」


 ルナはフミュルイの電磁力バリアーはそのままに、自分は落雷の如くベラポネたちの場所へ駆け降りていった。



○○○○



 ベラポネはララが作ってくれた砂煙に紛れ、しらたまを負ぶって森の中へと走り出した。ララには悪いがもう戦えるような状態ではない。立っているのでもやっとだというのに、こんなに走るのは悲惨な幼少期以来で身を粉にする思いだった。

 ソルマール島の独特な森の景色はベラポネを応援するかのように美しく煌めいて彼女を暖かく包み込む。太陽の強い日差しにてらてらと照らされた一定の間隔を保つ木々は光るようで、その地面には透き通った水が溜まりガラスのよう。

 せめてしらたまだけでも守りたい。

 その一心で息も絶え絶えに、ベラポネはララが決死の思いで作ってくれた希望に賭け、靴をすっかり濡らして水面に飛沫を上げながら駆けていく。

 そういえば、しらたまと初めて出会った時もこんな景色だった。木々が茂る山の中で、しらたまが熱で溶かした地面はガラス化し、太陽の光を反射させて水面のようだった。

 今回は本当に水だ。時々泥に足を取られそうになりながらもまだまだ止まることなく一目散に逃げていく。

 そんなとき、背後から轟音が。振り向けば木々を吹き飛ばしながらゼゼルが迫ってきていた。

 森とは言ってもこれだけ木々の間が空いていては玄人相手に隠れるのはやはり無理があったか。しかも目の前には巨大な遺跡の壁が立ち塞がる。

 ベラポネは壁まで来てもうだめだと、迫るゼゼルに背を向けしらたまを前に抱きしめてうずくまった。


「ごめんね——」


 気を失っているしらたまに泣きながらかすれた声で言った。

 すぐ真後ろまでゼゼルが迫り、走馬灯を見る余裕さえもなく、ベラポネとしらたまは光に包まれてしまった。

 きっと死んであの世に来たのだろう。ベラポネはこわごわ目を開ける。するとまだ腕の中にしらたまがいた。

 一体どうなっているというのか。ほどなくしてよく聞く声が聞こえてくる。


「ちょっと! 私の仲間になにしてんのよ!!」

 

 よく見た黄色の長い髪。よく見た私服姿。よく見た背中。いつになく輝いて見えた。

 間一髪のところでルナが間に合ったのである。

 ルナは落下していたうちから電磁砲を作り出し、ゼゼルの顔面を上から直接爆撃したのだった。凄まじい威力に周囲一帯の森が消し飛んで海岸まで開けてしまっている。ルナはまさに救世主だった。

 ゼゼルもまさか第三者が上から来るとは予想できなかったようで直撃し、焼け(ただ)れた顔を左手で痛そうに覆って片膝をついている。

 この威力でたったこれだけのダメージ。すぐに立ち上がり、顔ももう再生してしまった。


「……うそでしょ」

「大丈夫!? ルナ!」


 少し離れたところにフミュルイが遅れて到着。ルナの無事を確認するとすぐさまベラポネたちに駆け寄る。

 しらたまを身を呈して庇ったベラポネは涙目でがくがくと震えていた。怯え切って声も出ないようでただフミュルイを見上げるだけだ。

 フミュルイもルナもこんなに追い詰められたベラポネは見たことがない。そもそも戦力はルナに勝るとも劣らない彼女のライバル的存在であり、一歩も動くことなく相手を倒してしまうことがほとんどだというのに、走っているところなどあり得ない光景だった。


「ベラポネさんしっかり。今二人とも回復させるから、頑張って」

「……」


 ベラポネは息を切らして今にも気絶しそうだ。それでもしらたまを大事そうに抱きしめて離さない。

 フミュルイも泣きそうになるのを堪えながら懸命に処置を続ける。

 そんな三人に、ルナは強敵が相手だろうと怒りが込み上げていた。


「よくもやってくれたわね! ただじゃおかないんだから覚悟しなさいよ!」

「はははは」


 何事もなかったかのように回復したゼゼルは苦笑いした。


「いやだなぁ、僕はまだ何もしてないよ」

「殺す気だったじゃないの! このど畜生が!」


 ゼゼルの周囲を蛍のようなものが無数に飛び交う。小さな電磁砲だ。それでもゼゼルは全く気にするそぶりさえ見せない。これまでの経験では考えられない力の差を感じる相手に緊張感が張り詰める。


「やれやれ、口が悪いお嬢さんだ」

「アンタもアハダアシャラの一人なのよね。今すぐぶっ殺してやるわ」

「確かに僕もアハダアシャラだけど、アハダアシャラじゃないよ」

「何言ってるのよ……」


 ルナはまだレベル999のカンスト。ミルと同等以上の戦力を持つ格上の相手を前に口では負けずとも身構える。

 ゼゼルは右手の白い太刀を胸の前に横にしてルナに見せた。


「正確には、アハダアシャラの能力を吸収した、と言ったところかな。まぁ、これから命を落とす人に話しても無駄なんだけどねぇ」

「上等だわ」


 ルナは目線はゼゼルから離さずにフミュルイに言う。


「フミュルイ、ベラポネたちを連れて逃げて。じゃないと私の技で巻き込んでしまうわ」

「ごめん、分かった。絶対戻ってきてね!」


 フミュルイの処置の甲斐あってベラポネはまた歩けるくらいにまでは回復した。しらたまはフミュルイが負ぶってベラポネと遺跡の陰へ逃げていく。


「まあ、どうせ無駄さ」


 ゼゼルが(うそぶ)く。


「どこへ逃がしたって、君一人で僕を止められるわけがないじゃないか」

「そう言うアンタはどこの誰よ。殺す前に名前くらい聞いといてあげるわ」

「おお、強気だね。僕はゼゼル。君はルナと呼ばれていたね。抵抗しなければできるだけ苦しまないで済むように死なせてあげるけど、どうかな?」

「ゼゼル……。それじゃあドレイクさんはアンタが……。許せない! 抵抗しなくてもできるだけ苦しませて死なせてやるわ!」

「そうか、それじゃあ——」


 ゼゼルが太刀を構えた。


「どうなっても知らないよ」


 ゼゼルは周囲の小さな電磁砲をものともせずに一瞬で突っ込み、彼の白い太刀はルナの脚を削ぐように低く薙ぎ払われた。だがルナはそんな素早い動きを見切って余裕でかわしてみせる。しかもそこへ両手から電磁砲を放ち、またも至近距離で直撃。ものの見事にカウンターがきまった。

 これにはゼゼルも驚いて大きく飛び退く。両脇腹からは煙が細く上がるも少し煤で汚れたくらいで傷一つ付いていない。

 周囲を潤していた水は電気分解されてしまい、数秒だけ激しく沸騰した。その後は単に電気で加熱されたことで高温になり弱く沸騰。ゼゼルは湯気の中でぱっぱと手で煤を払いながら何故だか喜ばしいことのように笑みを浮かべた。


「おお、すごいね君。結構やるんだねぇ」

「……」


 ルナの耳元を一筋の汗が落ちていく。

 今ので大抵の相手なら爆散するところなのだ。しかし今回はありがたいことにこの島の環境が味方している。

 指を鳴らした。その指示で残っていた小さな電磁砲が爆発。そのうえ周囲で電気分解されていた水が大量の水素と酸素に別れており、引火したことで同時に水素爆発も起こる。爆発の威力が想像以上に凄まじくルナは地に這いつくばってやっとのことで踏ん張るが、彼女の背後にあった遺跡も吹き飛び、空へキノコ雲が立ち上がっていく。

 辺りは何もかもが吹き飛んで地面も抉れてしまい、更地と化してしまった。遠くの方で炎を上げて燃えているのは今まで近くに残っていた木々だろう。

 ルナ自身は爆発を見越して電磁力バリアーで難を逃れ無傷で済んだが、不意を突かれたゼゼルはひとたまりもないはず。

 正面へ顔を上げ、ルナは呆気に取られてしまう。これほどの爆発に巻き込まれておきながら、ゼゼルは無傷だった。せめて傷の一つでも付いていればいいものを。


「悪いね、ルナさん」

「……」

「これが、力の差というものだよ」


 ゼゼルが太刀を構え、再びルナに斬り掛かる。

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