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魔法少女の黒猫がBOSSだったら  作者: 優勝者
Ⅳ 熱帯雨林の国 ソルマール大戦
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099 誰も知らない怪物

 部屋を構成していなかった牙のモンスターの頭部はすぐに見つかった。逃げも隠れもせず、爆煙が晴れればエルツェーラーの正面、遠く離れた場所に浮いていた。

 どれだけのダメージだったのか様子を見ていたようだ。けれども頭部だけになってこれからどうするというのか、いや、そんな心配はご無用。瞬く間にどろりと粘液のように溶け出し、その中から黒鬼が姿を現した。

 あの牙のモンスターの正体は黒鬼だったのだ。

 黒鬼とは哀れな生き物である。

 古きメロウ島に生まれ、錬金術師だった実の父親の歪んだ愛の犠牲となり、不老不死の生物兵器を目指した改造を施され、彼女自身さえもその出自を忘れた錬金生物となり果てた。ただ静かに永遠と暴走し続けるコアを秘めながら安寧を求める感情以外の全てを失ってメロウ島を離れ、彷徨い歩き、目の前に立ちはだかった者たちをことごとく捨てるように殺していくうち世界を敵にし、孤立した数え切れぬ年月を放浪。その強さを聞きつけ散っていった力自慢の愚か者たちは何千何万と数知れない。

 最初はただ静寂を求めていただけだった。それが途方もない無とも呼べる退屈を過ごしていくうち、いつしか刺激を求めるように変わっていたのだろう。

 レビの時も、黒羽の時も、空中要塞での時も、この島へ来てからというもの自分以上の相手と出会い、これほど追い詰められた日はなかった。

 あの華奢で黒いミニドレスのような格好の少女の姿だが、次第にその雰囲気が変わっていく。

 左の額から黒曜石のような黒く鋭い角が突出し、眼球は黒一色に染まり、両手両足はシルエットのように立体感が分からないほど黒くなって、とうとう魔物じみた変貌を遂げた。

 しかも巨大な武器を扱っていたこれまでとは打って変わって素手素足でどう出るのか見当もつかない。

 そして、あの黒鬼が薄く笑みを浮かべた。


「あぁ……、良い」


 怒りか、喜びか。

 自分以上の相手との出会いが黒鬼を進化させてしまった。

 ぶわり。

 黒鬼が黒い煙になったかに見えた瞬間、エルツェーラーは地に大の字で空を見上げていた。まるで何が起きたのか分からない。黒鬼はまだ空にいた。

 殴られたのでもなければ蹴られたのでもない。ただ地面を割って強烈に叩きつけられている。

 重力。

 考えられるならそれしかない。今までの武器を用いたり牙のモンスターに化けたりした戦闘は茶番だったとでもいうのだろうか。

 あれだけの絶体絶命とも思えた攻撃を多少の火傷程度で受け切ったエルツェーラーが地面に這いつくばる。やっとのことで身体をひねりうつ伏せになり、片膝を立てた。だが問題はそこからだ。地面との接地面積が減ったことでより深く身体が沈み込む。さながら底なし沼に落ちたかのよう。敵である黒鬼に背を向けてしまっているがもはやそんなことを言っている場合ですらない。

 立ち上がることは諦めたのか、エルツェーラーは上を見上げた。指一本でも黒鬼に向けられさえすれば気弾を放つには充分。

 エルツェーラーは目を疑った。彼の周囲は巨大なドーム状の檻が囲んでいたのである。

 あの変幻自在の武器は一体何だというのか。無尽蔵に増殖し武器にもモンスターにも檻にも形を変える。いや、今回はさらに一段上だ。

 この檻はおそらく地中まで続いている、全体像としては球形をしているに違いない。密かに地中へ潜り込んで檻を形成したことで既にエルツェーラーは捕えられていたのだ。そうしてこの球状の檻の中心部には真っ赤なガラス玉のようなコアが浮いている。そのコアが少しずつ黒ずんできており、黒くなるに連れてまるでブラックホールの如く、周囲の砂や土、草や木、石や岩と、徐々に重い物体が吸い込まれるようになっていく。

 まるで地獄。ありとあらゆる物体が空も覆い隠すほど渦を巻いて空中のコアへと吸い込まれていき、表面に触れるや否や赤い光を放って消滅していく。

 黒鬼はエルツェーラーだけはなるべく動かさないように特異的に重力を発生させて拘束し、コアの方から吸い込みに迫ってきていた。この世の終わりのようなブラックホールがこちらへ落下してきている。

 そのうえ檻自体も収縮し、エルツェーラーは遂に地中から浮き上がってきた檻に這いつくばる格好に。

 空中へ持ち上げられ、急にエルツェーラーに働く重力は中心のコアへ向かいはじめる。

 黒鬼は檻の外から堂々と腕を組んで高みの見物。一方でエルツェーラーは無様に檻へしがみつき、コアに気弾を放って必死に破壊を試みている。が、その気弾もただ吸い込まれるばかり。

 もう檻の直径は20メートルを切る頃だ。エルツェーラーは力を振り絞り、バキッ、とどうにか檻の一部を突き破って外へ腕を伸ばした。

 黒鬼も想定外のしぶとさに組んでいた腕を解いて両手を向かい合わせ、圧縮を促すような仕草をする。檻の収縮速度が増し、一気に直径は10メートル程度まで縮小。エルツェーラーの尾がコアに吸い寄せられ、先端が細く引き延ばされながらコアの周りを回りだして途中でブチんと引きちぎられてしまった。

 死んだらどうなるのか分からないのは半分悪魔のエルツェーラーもラングヴァイレと同様。予想される消滅も下等生物への転生も似たようなものだ。檻から突き出したエルツェーラーの手に、持てる全てを込めたエネルギー弾が出現。黒と白がまだらに混ざり合う不気味な光の塊だ。そこに赤黒い稲妻が迸り、周辺一体の景色が真っ赤に染まる。

 エネルギーのあまり陽炎のように空間が歪んで見える強烈な渾身の気弾が、それだけにとどまらず急速に膨張していく。

 絶対に死んでたまるかと、必死の形相で黒鬼へめがけて放たれた。が、しかし、これがまるで悪夢。豹変した黒鬼はあっさり跳ね除けて見せ、それがエルツェーラーを絶望に叩き落とした。

 跳ね除けられたエルツェーラーのエネルギー弾は空の彼方へ飛んでいき、大気圏を超えて大爆発。青い空が赤く夕焼けのように光った。遅れて低い轟音が響くが、それももう虚しいだけである。


「貴様は一体……、何者なんだ」

「……さぁ、私も知らない」


 できることはやった。それで全く歯が立たなかったのだ。エルツェーラーは自ら檻から手を離し、コアに落ちていった。

 あれほどの頑丈さでは、きっと相手が黒鬼でなければ手がつけられなくなっていたかもしれない。どんな人生だったか知れないが、開き直ることができたのか、まるで自分を倒す者が現れるのを悠久の時の中で待ち続けていたかのような満足気な笑みを浮かべていた。

 コアに触れた直後にその身体は光に包まれ、急速に縮む檻の内に押しつぶされてしまい、最終的に黒い変幻自在の武器の一部と同化。捕食されてしまった。

 全て嘘だったように静かになる。エルツェーラーなど最初から存在していなかったかのように。

 エルツェーラーを倒し、黒鬼はさらに進化する。左の額から生えた角は赤みを帯び、右半身の肩から首、顔にかけて白い肌に黒い炎のような模様が浮き上がった。

 エルツェーラーを吸収した変幻自在の武器は煙のように姿を変えて黒鬼を包んだ。

 更地と化した集落跡に一人。黒鬼は空を見上げる。次の敵は黒羽のところだ。

 ぶわりと煙に姿を変えたように包まれ、休むことなく真っ直ぐ空へと飛んでいってしまった。

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