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ミアはどうにかして皆の暴走を止めようとリリアナの友人達に呼びかけた。


「学校外で無許可に魔力を使ったことを学校側は許さないはずよ!こうして私を拉致して拘束していることも含めれば退学は免れないわ!こんな事を隠し通せるはずないでしょう!大騒ぎになる前に私を解放しなさい!」




その瞬間、ミアの服がビリリッ!と上から一直線に引き裂かれた。

えっ?と何が起きたか理解できずにミアの頭は真っ白になる。ミアの服を引き裂いたのはリリアナの指から出された細いムチのような物。魔力を細く練って作られた術のようだ。

服を裂かれ呆然とするミアに、リリアナは駄々っ子に言い聞かすような顔でほほ笑みながら言う。


「告げ口なんてさせないからね?ミアちゃんのほうから『お願いだから内緒にして』って私たちに懇願するくらい辱めてあげるからねっ!いつまでそんな偉そうな態度でいられるかな~?」


リリアナのおどけたような喋りに友人の女子達はクスクス笑う。男子はミアの破れた服から覗く素肌に目を奪われていて笑うどころではないようだ。

リリアナがミアに内緒話をするかのように顔を寄せてきた。


「ミアちゃんこれから自分がどんな目に遭うか全然わかってないでしょ?人間の尊厳もプライドもぜーんぶ奪ってあげるから、覚悟してね?ミアちゃんがくれるって言ったんだもんね?」


そんなリリアナの言葉もミアには届いていなかった。同級生の前で素肌をさらしてしまった恥ずかしさで頭に血が上って何も考えられない。


羞恥で混乱の極みにある彼女には、喉元までせり上がる悲鳴を抑えられるだけの冷静さはもう残っていなかった。




「きゃあああああああああああああっ!!!!」




これまでにない勢いでミアが叫ぶと、一呼吸置いてからミアの魔力が全て解放され爆発した。


廃墟の教会は一瞬にして吹き飛び、周りの木々は爆風でくまなくなぎ倒されていく。一度目の爆発から間を置かず二度目の爆発が起こり、ごおっと青い火柱が上がり天に向かって突きぬけて行った。




リリアナ達は最初の爆発が起きた時、慌ててリリアナの魔術で黒い穴に逃げ込んだ。なんとか間一髪、爆風から逃れたが、第二波の火炎で術式ごと吹っ飛ばされた。リリアナ達は弾け飛ぶように全員外に放り出された。





投げ出された人々が目を開けると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。



あたり一面焼け野原と化した森の中心に、巨大な白銀のドラゴンが鎮座している。




「は・・?なにこれ・・・」


有りえない光景にリリアナ達はポカンと口を開けて立ち尽くす。何故ドラゴンが?夢でもみているのだろうか?大昔に失われて久しい伝説の生き物が何故ここにいるのか誰も理解できずにいた。




「あーミアちゃんがドラゴンになるのなんてよっぽどの事だよ。君らさ、やらかした責任をどうやってとるつもり?死んで詫びる?」


後ろから声がかかり、リリアナ達がばっと振り向く。そこにはいつの間に現れたのかフランが呑気そうな様子でドラゴンを見上げて立っていた。


「ふっ・・フラン先輩っ!あれ!ドラゴン!ドラゴンが私たちを襲ってきました!・・今なんて言いました?ミアちゃんが、ドラゴン・・・?」


「生死に関わる時くらいしか完全竜化したことないのにね、俺も久々に見たよ。ミアちゃんのドラゴン姿」


「はあっ?!あっ・・あれが、ミアちゃんだっていうの?!あっああありえない!ドラゴンなんてもう伝説じゃ・・!」


みんながパニックになってフランにすがりつく。わあわあと叫び声をあげると、ドラゴンが声に反応してこちらを向く。


『こおおお・・』と息を吸う音が不気味に響き、ドラゴンの口元に炎が漏れだす。火炎を吐くのだ、と皆が気づいた時にはもう青い炎が『ゴウッ』とこちらに向かって飛んできた。


「ぎゃああああ!」


みんな悲鳴を上げて逃げ惑う。火が頭上をかすめ誰かの髪を焦がした。フランだけは結界を張っているのか涼しい顔でその場に立っている。


「あっつ!熱い!死んじゃう!ドラゴンに焼き殺されちゃうぅ!魔法が使えないの!なんでえ?!誰か助けてええ!」


リリアナが半狂乱になって叫んだ。先ほどから魔術を使って避難しようとしているのに何故か全く展開しない。それは他の皆もそうらしく、身を守るための最低限の結界すら張ることが出来ずに混乱していた。


「ああ・・うるさいな・・。ここ一帯に俺が結界を張っているからでしょ?人の術式の中で魔法を使えるわけないって習わなかったのかな?それよりもそんなにのんびりしていていいの?炎も結界内に封じ込めてあるから、保護魔法使えなきゃ蒸し焼きになるよ」


ほらほらまたブレスが来るよ、とフランが言うと、誰もがパニックになりながら彼にすがりついて助けを求める。


「せんぱいぃ!!早く助けてください!このままじゃみんな死んじゃいますよっ!」


皆が口々に助けて助けてとフランに向かって叫んだ。フランはすがりつく人々をピッと指先ひとつで薙ぎ払い、へたり込むリリアナ達を冷たい目で見下ろした。


「自分達が引き起こした事態だろう?自分のしたことの始末くらい自分でつけなよ。何故俺に頼るの?ミアちゃんをあんな目に遭わせた君たちを助ける義理なんて、俺には無いよ」


そう告げるフランは優しげに笑みを浮かべてみせてはいるが、その瞳の奥は燃えるような怒りを湛えていた。リリアナ達はフランの怒りを感じ取り震え上がったが、それよりもドラゴンの方が何倍も恐ろしい。


「そっ・・そんな事言ってる場合じゃないでしょお!このままじゃ私たち死んじゃうんですよ!死んでもいいって言うんですか!見殺しにする気ですかあ!酷い!」


リリアナがたまらず叫んだ。結界内に火炎も閉じ込められているのか、先ほどから熱風が襲ってきて、異常な汗が止まらない。蒸し焼き、という言葉が現実味を帯びてきて皆の恐怖に拍車をかける。もうなりふりなど構っていられないのか、リリアナは半狂乱でフランを攻め立てた。


「うん、死んでいいんじゃない?身勝手な理由で逆恨みして、子供っぽい残酷さでミアちゃんを傷つけた君をどうして助けなくちゃいけないの?みんな自分のした事を棚に上げてよく俺にそんな事言えるよね」


フランはもう笑みを浮かべてはいない。激しい怒りを体中に滾らせ恐ろしい形相で皆を見下ろしている。

殺気に当てられて震えが止まらず誰も口をきくことが出来ないでいた。フランの後ろではドラゴンが今にも炎を吐きそうに口を開いている。恐怖のあまり女子が一人泡を吹いて倒れた。


ガタガタ震え『お願い・・お願いします・・助けて・・』とつぶやく彼らを呆れた目で見ながら、フランはひとつため息をついた。


「・・・助けてとお願いする前に、言うべき言葉があるだろう?まずは彼女に謝る事が先だろうが。手をついて誠心誠意謝ったら考えてやる。話はそれからだ」




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