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再会





誘拐事件のあとから、ミアは薬物の影響が残っていないか検査のため、すぐ入院生活になり、安全のために面会謝絶で、しばらく誰にも会えない日々が続いた。



絶え間なく強力な麻薬を投与されたにも拘らず、ミアの体には何の後遺症もみられなかった。

魔力のほうもかつてないほど落ち着いていて、何の問題も無いということで、半月ほどで退院できることになった。


退院の日、エリックとその妻のエリザが迎えに来てくれるとミアは聞かされた。

学校はまだ閉鎖状態で、寮に戻ることもできないので、ミアはアシュフォード家の屋敷に滞在させてもらう予定になっている。




ミアが誘拐され保護されてから、入院するにあたり、もちろん保護者である両親には連絡が行っていると言うのに、領地から出てくることも無く、手続きに関してはエリックに一任すると委任状を送ってきた。


エリックは、ミアの両親が病院に来たときにフランとの事を説明しようと思っていたので、委任状を寄こされて、仕方なく手紙で知らせることにした。


ミアとフランが『婚姻の儀』を交わしすでに夫婦となっていると、領地に居るミアの両親に手紙で知らせたのだが、それに対し彼らは、『結納金をもらっていない』という内容の手紙を書いて寄こしただけだった。


手紙には、ミアを心配する様子も祝いの言葉もなく、今後ミアの保護者はアシュフォード家にうつるのか、その場合、補助金もそちらにいくことになるのかということと、それならばそれに見合うだけのものを結納金としてこちらに渡すのが筋だろうといった、金に関する話だけが便箋にびっしりと書かれていた。


すでに夫婦になっているといっても、まだ学生の二人は法律的には結婚できるわけではない。

だから公的には、二人が卒業してから正式に結婚の手続きをしようとエリック達は考えていたが、ミアの両親が保護者の立場を放棄しているようにしかみえないので、ならばもうこちらに嫁いできたものとして、ミアの保護者になることを決めた。


エリックがその事を妻に相談すると、手紙を読んで怒り狂ったエリザが、エリックの制止を振り切り両親の家まで飛んで行ってしまった。

驚くミアの両親に対し、相場の十倍くらいの結納金を顔面に投げつけて『ミアはうちの子になりましたんで、二度と関わらないで』と啖呵を切って、帰ってきたらしい。

怒りで考えなしに突進したのかと思いきや、ちゃんとミアの保護者変更手続きの書類にはしっかりとサインをさせてきたので、怒り狂っているようで案外計画的だったのかもしれない。




この話を聞いたミアは、自分の知らないうちに縁が切れてしまった両親に対し何の感情も湧いてこなかった。


顔を合わせる機会もほとんどなく、迷惑をかけるなと言われるだけの関係だった両親だったから、こんな風に縁が切れても何の感慨も湧いてこない。結局彼らにとって自分は一度たりとも愛する我が子などではなかったんだろうな、と思っただけだった。


ただ、エリザが全力で金を投げつけたのなら鼻血くらいでは済まなかっただろうと思って、少しだけクスッと笑った。



部屋でエリックとエリザの到着を待っていると、ノックの音がして扉が開いた。


入って来たのは、なんと同級生のサラだった。


「サラ!」


「ミア!……よかった!今日退院だって聞いて、ようやく面会が許されたの。無事だって聞いていたけど、ずっと会えないままだったから心配だった……。あの、本当にミアが助かってよかった……聞いていると思うけど、ブリジットが、あなたに薬を飲ませて、誘拐犯に引き渡したって知って、私ミアに申し訳なくて。本当にごめんなさい」


ブリジットが薬物事件に関わっていたことはミアも聞き及んでいる。ミア誘拐の計画も知ったうえでの行動だったので主犯格の一人とみなされている。だが、薬物汚染が進んでいて精神に異常をきたしているため、今も入院中だという。


「ブリジットさんのことは、サラが謝る事じゃないわ。それに、薬物汚染は彼女だけじゃなく、学校の色々な人にまで広まっていたんでしょう?ブリジットさんが行動に移さなくても、必ずあの事件は起きていたはずだもの」


「違う、違うの……。ブリジットは私と疎遠になったことで、精神的に不安定になっているところに、ミアは特殊な魔力を使ってサラを洗脳しているんだって吹き込まれて、洗脳されちゃったんだって。

だから……もとはと言えば私のせいなの。あの子の様子がおかしいのも気付いていたのに、また気を引きたいための我儘でしょって思って無視していた。子どもの頃からお守りをさせされた鬱憤が溜まっていて、もういい加減にしてって放っておいた。あの時、私がちゃんと彼女と向き合っていればこんなことにならなかったのに。だからあれは全て私のせいなんだ……」


目を伏せて語るサラを見ると、随分と痩せたことに気づく。


サラはずっとこうして自分を責めていたのだ。サラのせいではないといくらミアが言ったとしても、彼女はきっと自分を責めるのを止めないだろう。下手な慰めは逆にサラを追いつめるだけだ。



「サラ、聞いて。……私ね、自分が存在していることで、たくさんの人が傷ついて、亡くなった人もいて、こんなに迷惑をかけるのに生きていていいのかと思っていた。人と上手く付き合えなくて、笑う事も泣くこともできなくて……人間として欠陥品だって……ううん、やっぱり自分は人間のふりも上手くできないバケモノなんだって、ずっと自分が嫌いだったわ。

でもね、そうやって自分を貶めていると、私を好きだと言ってくれるフランや、子どもの頃からずっと助けてくれているエリックおじ様や、私を友達だと言ってくれたサラまでも貶めていることになるって気づいたの。

私、サラが好きよ。噂や周りの評価を気にせず、私と向き合って友達になってくれた、真っ直ぐで優しいサラが大好き。そんな大好きな友達が、自分を責めて苦しんでいるのなら、私にもその苦しみを分けて欲しい」


ミアはサラの手を取ってぎゅっと握り、祈るように目を瞑る。サラの辛い気持ちが、少しでも軽くなりますようにと願いを込めて。

サラはそんなミアを、虚を突かれたような顔で見て、やがてくしゃりと顔を歪めて泣き出した。


「ごっ……ごめ、ごめん。こんなこと言ったらミアがまた苦しむって分かってるのに……ショックなことがあり過ぎて弱気になってた。らしくなかった、こんなの。

ありがとう、ミア。自分が一番辛いはずなのに、そうやって人のことばっかりで、お人よしすぎて心配だよ……そんなとこも好きだけどさ」


そう言ったサラからは、さきほどの思いつめた様子は消えていて、いつもの笑顔が戻っていた。

ミアも自然と笑顔になって、サラと二人でクスクスと笑い合う。


「ミアが笑ったとこ初めてみた……なんか嬉しい。私さ、きっとミアが思っているよりも、ミアが好きだよ。友達になれて本当によかった」


「私もサラのことが大好き。サラと友達になれてよかった」


じゃれあって二人でまた笑っていると、ガタン!と何かが落ちる音がして、そちらを振り返ると、扉の前でフランとリリアナが床に崩れ落ちていた。

その後ろではエリックとエリザが『あちゃー』と言う顔で立っていた。



「ミアちゃん……!俺たち結婚したんだよね?!大丈夫だよね?!」


「なんでそんなに親密なのよ?!あたしが学校居た時あんたなんかミアちゃんと友達でもなんでもなかったじゃない!」


「あれ?リリアナさん?だよね?え?久しぶり……ていうか今までどうしてたの?」


何故学校を退学になったリリアナが、ミアの病室を訪ねてくるのか分からないサラは戸惑いを隠せない。ミアは、まさかリリアナが来るとは思わず、しかもフランと仲良く床に座っているのが理解できない。


「リリアナさん……どうしてここに?」


「あ……ええと、ミアちゃんの退院だって聞いたから、エリック様に頼み込んで連れてきてもらったの。もうミアちゃんに会えるのはこれで最後だと思うから、どうしても顔が見たくて」


「え?リリアナさんてミアのことめちゃくちゃ嫌ってなかったっけ?なにこれどういうこと?」


サラが疑問を口にすると、リリアナは『うっ』と言葉に詰まってうなだれてしまった。見かねたエリックが、声をかけてきた。


「リリアナは師団の警備兵として採用されて国境の村に配属となった。二度と王都には戻ることはないだろう。本当にこれで最後だから、お別れを言いたいんだそうだ」


ほら、リリアナ、と促されてリリアナは立ち上がって、気まずそうにミアの前に来る。



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