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王都にて5




次の日フランは痛む頭を抱えながら仕事に向かった。

昨日エリックは師団の仮眠室に泊まったようでフランたちの居るタウンハウスにも帰ってこなかった。


誘拐組織の摘発が終了したため、別の作戦にフランも加わることとなる。

現在諜報部で追っている地下組織は昔魔法師団が解体した『血と牙』という反社会勢力の残党が再び集結して作った組織だとエリックは目星をつけていた。


人身売買のほかに、違法な売春のあっせんや違法薬物の売買などを行っていて、特に違法薬物については以前国内で流通していたものよりも格段に精度と依存性が増した麻薬が闇市場に出回るようになり、貴族の間でも中毒患者が出たのをきっかけに師団と諜報部が全力で摘発に乗り出した。


今回の諜報部の作戦は人身売買よりもこちらの麻薬組織の摘発がメインであった。

エリックはそちらの作戦を指揮しており、フランは今日から父の補佐と言う形で仕事に就くことになる。

そして何故かリリアナも一緒に行動すると言われ再びフランはエリックに切れそうになった。


「父さん・・潜入捜査用の駒を同行させても戦力にならないのでは?」


「それを言ったら学生で研修中のお前だって戦力にならないだろう?」


エリックにさらっと言い返されフランはグッと言葉に詰まる。


離れた席に居るリリアナをチラと見ると昨日のふてぶてしさは無く、無表情で机の一点を見つめている。


昨日の人身売買組織の摘発で麻薬組織のほうも慌ただしく動き始めていると捜査員から報告が来ていた。組織の上層部メンバーの居所は押さえてあるが肝心の麻薬の輸入ルートと隠し場所が押さえられていないため下手に踏み込んで証拠隠滅される恐れがあるためまだ泳がせている状態だった。


「貴族の間で出回っている薬物だが入手先をたどると、とある下位貴族の名前が浮上した。随分と景気の良い商売をやっているが、領地は地方にあるだけで大した利益を上げられるような場所ではないし資金の出どころがどうも怪しい。

この貴族の男が薬物売買に関わっている可能性が高い。今日はソイツの屋敷に行く」


相手が貴族のため突入して強制的にガサ入れというわけにはいかないのだろう。エリック自ら赴きまずは話を聴取(と言う名の尋問)をするつもりでいる。その隙に諜報部のメンバーが屋敷を捜索し証拠を探す手筈になっていた。




その屋敷は王都の中心部から少し外れたところにある。エリックを先頭に馬で向かう。

フランとリリアナは最後尾について走っていた。


少し前を走るリリアナを見ると、ここ数日の軽口はどこに行ったのか、先ほどから全く口をきかずかたい表情でただ前を向いている。

何か企んでいるのかとフランは訝しく思ったが、エリックもその様子に気が付いているようで時折振り返って彼女の様子を見ていた。




屋敷についたエリック達は家令に主を呼ぶように告げた。まだ使用人しか起きてこないような早朝の時間帯に、師団の隊服に身を包んだ一団が突然屋敷に現れて、家令は驚きのあまり卒倒しそうになりながら慌てて主を呼びに走って行った。


エリックがそっとフランの傍に来て口を耳元に寄せこう告げた。


「保護魔法と拘束魔法をすぐ展開できるよう準備しておけ。頼りにしている」


「は?・・はい」


何事かと思ったが質問は出来ない雰囲気だった。

ほどなく家令と共に階段の上から茶色い髪の痩せた男が降りてきた。目が落ち窪んでぎょろぎょろとした瞳をして不健康さが際立っている。エリックら師団の隊服を見とめると、フンと鼻で息を吐き虚勢を張るように尊大な態度でこう言った。


「魔法師団の方々が私のような下位の者になんの御用です?使いも出さず突然押しかけていらっしゃるとは穏やかでないですね。なにか事件でも?何をお探しか知りませんが、私が情報を提供できるような・・・・・・な・・・な・・?」


貴族の男は慇懃無礼な態度で喋っていたが、突然言葉に詰まりこちらを見て魚のように口をパクパクさせている。


エリックが顎をしゃくると、フランの隣に居たリリアナがスッと前に出て行った。


エリックの隣に並び立ち、貴族の男に向かって完璧な造り笑顔でほほ笑む。




「ごきげんよう、お父様。おひさしぶりですね」


「リ、リっ・・リリ、アナ・・・っお前死んだんじゃ・・」


「そうですねえ。じゃあここに居る私は亡霊ですね。そう・・この世に恨みを残して成仏できなかった、人を呪う悪霊です。

ふふ・・ねえ、お父様。私、実は知って(・・)いたん(・・)です。ずっとね、ここに居る時お父様に言えずにいたの。でもあなたに一言言うまで死ねないと思って、化けて出たんですよ・・。

ねえ?お父様も私に言わなくちゃいけないことありますよね?」


リリアナはそういって嫣然と笑ってみせた。

それを見た父親は腰を抜かして『ヒッ、ヒッ・・』とおかしな声をあげ震えている。




全く何も知らされていなかったフランは唖然としたまま事の成り行きを見ているしかなかった。


エリックはこのためにリリアナを自分の子飼いにしたのかとようやく納得したが、あえてこのような形でリリアナを父親に会わせるからにはまだ何かあるのだろう。準備しておけと言われた事を思い返し油断なく意識を周囲に広げた。



「や、やめてくれ・・!殺さないでくれ!事故だったんだ・・私もあの薬があんなに毒性が強いなんてあの時は知らなくて・・騙されたんだ!私のせいじゃない!」


「・・・え・・?」


リリアナの父がそう叫ぶとリリアナは笑みを消して強張った顔で眉をしかめている。


男の言葉が予想していたものと違ったのだろうかとフランは二人の様子を訝しく見ていたが、そこでエリックが動いた。


「それは自白と受け取りますが宜しいですか?リリアナ、下がれ。もういいご苦労だった」


エリックがリリアナの視界から父親を遮るよう前に立った。リリアナはエリックの腕をつかみ、考え込むように目線を落としながら再び前に出る。


「あの時・・?あの時・・・」


距離を詰めてくるリリアナに父親が後ずさりながら涙声で叫ぶ。


「なんで今更・・!お前を除名して全てが終わったと思ったのに、まさか師団と通じていたなんて・・最初からそのつもりだったのか?!私を試して何も言わずにいたのか?!

母親のことはもう時効だろう?!・・・なあ魔法師団のアンタ!コイツは私を殺す気だ!保護してくれ!証言ならする!なんでも話すからコイツを私に近づけないでくれ!」


リリアナの父はエリックに向かって助けを請う。


「あなたは違法薬物の取引に関与していますね?そしてあなたの家が、国外から運び込まれた薬物を一時的に保管している中継地となっている・・違いますか?」


「そ、そうだが、私は脅されて仕方なく場所を提供していただけだ・・私も騙されたんだ。あれの母親の件からずっと脅迫されていたから・・」




その時、ズズズ・・と地響きのような音がして、皆が振り返るとリリアナが黒い炎のような魔力を纏い、エリックに縋る父親を睨んでいる。

マズイ、とフランが思う間もなく、『ゴウッ』と突然熱風が吹き荒れた。


「まずい、リリアナを抑えろフラン!」


エリックが叫ぶと同時にフランは障壁となる保護魔法をリリアナの周囲に張り巡らせた。魔力が暴走している状態のリリアナは自分の身が焼けるのも気付かないようで炎の中父親を見つめている。




「お母さんに・・毒を飲ませたの・・?あなたが・・」


「違う!誤解だ!ただの媚薬みたいなものだと言われて・・量を少しばかり間違えただけなんだ!私だってまさかあんな事になるとは思わなかったんだ!アイツらは元から私を仲間に引き込むつもりであの薬を使わせたんだ!悪いのは組織の奴らだ!」



「そう・・お父様のせいだったの・・あはは・・そっか、エリック様全部分かってたんですね・・だから私を・・はは・・なるほどね・・そういうこと・・。

おかあさんは・・・・お父様のせいで・・

あはは・・お父様なんか、死ねばいいのに・・・しね・・・しね、しねしねしねしねしねしね!お前なんか死んでしまえ!殺す!殺す!殺す!殺してやる!!!」


「ひいいっ!!」






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