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フランとミアの出会いは10年前にさかのぼる。



フランは代々宮廷魔術師を務めるアシュフォード家の三男として産まれた。すでに父の跡目を継ぐ長男と魔法師団に入隊した二男と優秀な兄ふたりがいるアシュフォード家では歳の離れた三男坊のフランはもうおまけの子として将来を何も期待されていなかった。

産まれ持った魔力を生かして魔術師になってもいいし、どこか貴族のところへ婿に入りのんびり暮らすのもいいだろうと、自由な選択肢を与えられていた。幼いフランはまだ自分が何になりたいかなど分からずにいたが、ただ優秀な父や兄と比べられるのは嫌だなあと子どもながらに思っていた。


そんな時、父が仕事でとある田舎の貴族の元へ派遣される辞令がくだり、母と幼いフランもそれに同行することになった。

その田舎の貴族こそミアの家であり、フランの父はミアの魔力制御の指導者としてここへ派遣されたのだった。



幼いミアは魔力の制御が出来ず何度も暴走させ、そのたび魔術師が数人がかりで抑え込むという事態を繰り返していた。

子どもに感情をコントロールしろというのも無理な話で、それは周りの大人も分かってはいたが、如何せんミアの魔力は膨大で、抑え込まなければいつか大惨事を引き起こす可能性がある。そのためミアは幼少期から厳しい体罰を加えられ、その制御を強いられてきた。


ミアを指導する魔術師の体罰は日に日に過激になり、ミアが制御できるようになる前に彼女の身が持たないのではと危ぶまれていた頃、ミアとフランは出会った。


ミアは同世代の友人がいないので、フランが友達になっておやりと父から紹介された。

彼女の情緒をはぐくむためにも友達と遊ぶ時間も大切だとフランの父が判断したからだ。

代々宮廷魔術師を務める家に生まれたフランは、幼いながらもすでにいくつかの魔法が使えるのでもしミアの魔力が暴走しても彼なら自分の身を守れるだろう。そう考えた父によって幼いフランとミアは引き会わされた。


「初めましてレディ、僕はフランです」


「・・ミア、です。よ、よろしくお願いします・・」


初めのうちミアは硬い表情でおどおどしていたが、同じ年の頃のフランと野山を駆け回って遊ぶうちにすっかり打ち解けてすぐに二人は仲良くなった。



魔力を暴走させる感情は主に『怒り』と『恐怖』。

楽しい気持ちや嬉しいといった感情を穏やかな形で育むことはミアの魔力の制御に有効だとフランの父が予想していたが、実際フランと出会って二人で遊ぶようになってからミアが魔力を暴走させることはほとんど無くなっていた。

優しいフランにミアはよく懐き、フランもまた庇護欲を刺激されたのかミアを妹のように大事に可愛がっていた。



周りの大人達は、こんな簡単に制御できるようになるならばもっと早くミアに友達を作ってやればよかったと後悔した。



ならばいずれ父親の任期終了でこの地を離れるフランではなく、領地の子どもたちと仲良くさせれば良いと判断した魔術師のひとりが、フランの父に相談することもなく近所の子どもたちを集めミアと引き合わせた。

だが、連れてこられた子ども達は近所でも評判の悪たれっ子で、貴族のお嬢様であるミアととても仲良く遊べるような相手ではなかった。フランが男の子であったため、ミアとは男の子と遊ぶほうが良いのだろうと魔術師が安易に考えただけだった。

貴族の男として紳士教育されているフランと、大人も手を焼く暴れん坊の子ども達では天と地ほどの差があって当然だ。そしてこの魔術師の浅慮がとんでもない事態を招くこととなる。



少年たちは最初、妖精のように儚げな愛らしい少女を前にして、どうしたらいいのか分からなくて戸惑うばかりだった。

だがそのうち、彼女の美しい髪色が珍しくて触りたくなった少年の一人が髪を引っ張り、スカートをめくったりとちょっかいを出してきて、嫌がったミアは彼らから逃げた。


逃げると追いかけたくなるのが男の子の心理で、最終的に逃げる彼女を追いかけて捕まえるという最悪な鬼ごっこを遊びとして始めてしまった。


悪いことに、この日はフランが風邪を引いていて屋敷に来ていなかった。


悪たれのやりすぎた悪戯を止めるものもなく、逃げるミアを男の子たちは興奮気味に追いかけた。


泣いたり叫んだりしてはいけないと強く教え込まれていたミアは小さな声で『やめて』と言いながら逃げたが、それで止まるはずもなく、彼らから逃げるためミアはどんどん森の奥へ入って行ってしまった。


逃げ惑う彼女は自分が今どこを走っているか分からないまま闇雲に森を駆け、後ろから『いたぞ!あっちだ!』という声に怯え振り向いた瞬間に足元が滑った。

アッと思う間もなく身体が浮き、湿地の沼に落ちてしまった。


ミアは泥のようにぬめった沼にはまってしまい、もがくほどズブズブと沈んでいく。



「あっ!だっ誰か・・がぼっ・・げほっ」


声を上げたミアの口に泥水が流れ込んできた。


ほぼ頭まで泥に飲み込まれ、ミアは自分が今死に向かっているとはっきり自覚した瞬間、恐怖の感情が爆発し抑えていた魔力がはじけ飛んだ。



どおん、と森に天まで届きそうな火柱があがり、あたり一帯に爆風が吹き荒れた。



何が起きたかをすぐに察知したフランの父がすぐにミアの元に駆け付け、他の魔術師もそれを追ってミアの暴走した魔力を収めようとしたが、一度暴走を始めた力はとどまる事を知らず森一帯を焼き払う勢いで広がり続けた。


もはや人の姿をしていないミアを言葉で説得することは不可能で、無傷で抑えることは難しいと誰もが思い、攻撃魔法に切り替えようとし始めたその時、フランがミアの前にひょいと現れた。


「ミアちゃん落ち着いてーあの悪ガキどもは俺がぶっ飛ばしといたからもう大丈夫だよー」


いつもの穏やかな口調でフランが話しかけると、完全に我を忘れていたミアが動きを止め彼の声に反応した。


そしてそこに佇んで優しい笑みを浮かべているフランをみると、ミアを異形に変化させていた魔力がはじけ飛び、暴走していた力はミアのなかにしゅるしゅると小さくなって収まっていった。


「フ、フラン~ごめんなしゃい~」


「よしよし、ミアちゃんは悪くないよ。悪いのはあの悪ガキを連れてきたそこのおっさんだ」


フランが悪ガキを連れてきた魔術師を睨みながらミアを抱き上げ背中を撫でる。ミアは泣いてはいたが、魔力はすっかり落ち着いていた。


フランは何か特別な魔法を使ったわけではない。にもかかわらず、フランはミアの暴走と止めることが出来た。二人の間に、いつの間にか特別な信頼関係ができあがっていたのだろう。国を代表するような魔術師でもミアの実の親にも出来なかった事をフランはいとも簡単にやってのけた。



このことがきっかけでフランはミアの制御役としてそばに仕える事となる。

フランの父はまだ幼い子どもに全責任を負わすような役目を押し付けるわけにいかないと反対したが、フラン自身がミアのそばに居る事を望んだ。アシュフォード家の三男坊でおまけの存在であったフランは、自分にしかできないという役目があることが嬉しかった。

そしてなにより、可愛いミアの事を自分の力で守りたいと純粋に思ったからだった。



こうして現在にいたるまで、フランは彼女を守るナイトとして常に傍に寄り添ってきた。




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