魔法学校にて7
「うえっ?!ええ?!ええええ?!」
サラは驚きのあまり奇声をあげて顔を真っ赤にしている。
(あれ?なにか間違ったかな・・?親愛のキスは頬じゃなかったかしら・・?)
サラの反応がおかしいので、なにかまた間違えてしまったかと思っていると周囲から『キャアアアアア!!!』と黄色い悲鳴が飛び交った。
ふと周りを見渡すといつの間にか二人を取り囲むように人だかりが出来ていて、登校前の生徒たちがキャアキャア言いながらこちらを見ている。さきほどブリジットと揉めている時から大声でやり取りしていたので皆の注目を集めてしまっていたらしい。
サラもようやく周りの状況に気が付いたらしく、慌てて『ミア!行こう!』と言って腕を引いて走り出した。後ろから再びキャーという声がきこえてサラが『絶対変な噂になる・・』と恥ずかしそうにしていた。
「サ、サラ!待って、私また何か間違った事しちゃった?怒ってる?」
走るサラに声をかけるとようやく立ち止まった。まだ顔は赤いままでいつもの冷静な彼女と全く違う表情をしている。
「ミア・・さっきの・・何?なんでキス?」
「ああ・・私サラに親愛の気持ちを伝えたくて・・フランは、私の幼馴染は、いつもそうするから真似してみたんだけれど、嫌だった?ごめんなさい」
「フラン先輩ね・・そういう事ね・・ミアは少しフラン先輩との関係性を見直したほうがいいと思うけど・・・あんまり余計な事言うと消されそうな気がするからな・・・。
あ、ビックリしただけで嫌なわけじゃないよ。むしろ大好きといってもらえて嬉しかった。ねえ、これからも友達でいてくれる?私もミアの事大好きだから、もっと色々話したり遊んだりしたいよ」
「ありがとう・・私、友達ってフラン以外いなかったから人づきあいが苦手で、また何か間違えちゃうかもしれないけど、その時は叱ってね」
ふふふ、とサラが笑う。ミアも今は少しだけ自分が笑えている気がした。
(フラン、私あなたが居なくてもちゃんと学校に通えているよ。初めて女の子の友達もできたの。いつか報告できたら、頑張ったねって褒めてくれるかしら?)
今フランはどうしているのだろう?時々は私を想いだしてくれているだろうか。
遠くにいるフランを想って切ない気持ちになった。
***
「なんなのよなんなのよもう最悪最悪最悪・・なんで私がサラに殴られなきゃいけないのよ。なんでえサラ・・私がサラの一番だったのに・・なんなのあの女・・サラは絶対騙されてるのに・・」
サラにぶたれたブリジットは寮にも戻らず学校の裏に広がる森の中で座り込んでいた。怒りと混乱で頭をぐちゃぐちゃに掻き毟る。
「みんなに言わなくちゃ・・あの女は人を狂わす魔法を使っているんだって・・先生達もあの女の手先だもの・・言ったって隠ぺいされるに決まってる・・サラぁ・・絶対私が助けてあげるからね・・」
ぶつぶつと焦点の合わない目でブリジットはつぶやく。
「そうだね、早く手を打たないと学校が彼女に乗っ取られてしまうね」
座り込むブリジットの後ろから声がかかる。
「あ・・・・そう、そうなの!ねえどうしたらいい?サラはもう洗脳されてしまってわたしのいう事なんて耳に入らないの!」
ブリジットが叫ぶと声の主は彼女の横に跪き労わるように頭を撫でる。
「可哀想に、君はたった一人であのバケモノに立ち向かっていたんだね。もう君の友人はダメだ、彼女が居る限り洗脳は解けない。あれは強大な魔力を持っているんだ」
「嫌!サラは大事な親友なの!諦めるなんて嫌よ!ねえ、助けて!どうしたらいいの?!私サラを助けるためなら何でもする!」
ブリジットは声の主にすがりつく。
「美しい友情だね・・そうだな・・じゃあ君にひとつアドバイスをあげよう」
ブリジットの耳に口を寄せ何かを囁く。そして彼女からゆっくりと離れると頭を撫でながら優しげにほほ笑む。
「・・・出来るかい?たとえ正義のためだとしても、君は辛い経験をすることになる」
「ええ!サラのためだもの!どんなことだって私はやるわ!」
ブリジットは満面の笑みでほほ笑んだ。笑顔の少女は目をらんらんと輝かせ、その顔はとても正気の人間にはみえなかった。
声の主はそんなブリジットをほほえましげに眺めていた。
***
魔法学校にて、は一旦ここで終了です。ここまで読んでくださってありがとうございます。
次はまた視点が変わって王都でのお話になります。
続きも読んでもらえたら嬉しいです。