魔法学校にて3
「ブリジット、何が言いたいの?感じ悪いよ。そんなに何か不満があるなら私と一緒に居なければいい」
サラが女生徒に窘めるように言うと、ブリジットと呼ばれたその子は泣きそうに顔を歪め、口を開いて何かを言いたそうにしたが、サラの厳しい顔を見て、結局何も言わずに乱暴に席を立って離れて行った。
ミアは、なにがどうしてそうなったのか分からないが、どうやらサラとブリジットという子が揉めてしまったらしいと理解した。ミアの近くに座る事が彼女は不満だったようなので、ひょっとするとそのせいで機嫌が悪かったのだろうか。
「彼女大丈夫かしら?サラさんお友達と昼食だったのよね、なのに話し込んでしまってごめんなさい」
「違うよ。彼女はただ私にくっついてきただけだよ。ミアさんが謝ることじゃない」
サラはそういうと困ったように肩をすくめた。
「それにしてもミアさんはちゃんと話してみると全然印象が違うね。今まで色眼鏡でみていて悪かったなと思って・・・クラスの人と関わりたくないわけじゃないんでしょ?だったら私とも友達になってくれないかな?」
お目付け役も居ないようだし、と言ってサラは小首を傾げてミアの返答を待っている。
「え、サラさんがよければ・・私は・・でもいいの?私、あまりいい印象をみんなに持たれていないと思うの」
「あはは、そういうところ。話すと印象違いすぎるよ。もっと女王様なキャラかと思ってたのに、実は自信なさげとかギャップがすごいよミアさん」
「???女王様な、キャラ・・・?」
王妃様のようだと言うのなら褒め言葉なのではないだろうか?思っていたのと違うというのはガッカリしたということになるのだが、サラはニコニコ笑っている。ならばいい事なのだろう。そう理解することにしたミアなのだった。
***
それからというもの、ミアはサラと一緒に昼食を摂るのが日常となった。
サラとはそれほど多くを話すわけではないが、その日の授業の内容を話し合ったり、時にはお互いの好きなものの話をするようになった。
サラはよく自分の家族の話をするので、一度サラがミアに『ご両親はどんな方?』と尋ねたことがあった。ミアは楽しく語れる家族のエピソードが無いので言いよどんでいると、さりげなく話題を変え、それ以降は家族について聞いてくることはなかった。
サラは相手の気持ちを汲むのが上手い。彼女と過ごすのは居心地がよかった。
相手が不快にならないよう斟酌して会話を選んでいるように感じる。
そんな気遣いが出来る彼女はクラスでも好かれて信頼されていた。落ち着いていて大人びた印象の彼女は男女問わず頼られることも多く、ミアが傍に居ない時は誰かしらが彼女の周りにいて、嬉しそうにサラと話をしている。
だからこそ何故サラがあえてミアと友達になろうと言ったのか不思議だったが、そうサラに告げても『ミアさん面白いから』と言うだけでやっぱりよくわからないままだった。
***
「そのサラさんという人と友達になったんですね。良かったですねえ」
「でもまだ一人だけでしょ?クラスでもミアさん浮いたままだし、そんなミアさんと付き合うサラさんがどうかしてるって言う人もいるし、彼女の評判が下がるって言っている人もいるからね~どうなるかまだ分からないよ」
「お、おおおお弁当内容おかしいですかね?見た目がダメなんですかね?」
ニコニコ顔のランス。
不敵な笑みを浮かべるアッシュ。
困り顔で汗をかいているハミングがそれぞれミアに言った。
魔術師達とはその日の報告を兼ね毎日ミーティングをしている。
魔術師達は交代で護衛を兼ねて学校までミアに付き添っていて、校内でのミアや級友の様子を窺っている。それらの情報を共有するためにこうして時間を設けていた。
「私もそれを聞いてサラさんまで悪く言われてしまうのは不本意だから、一緒に居ない方がいいかもと彼女に言ったのだけど『そういう気遣いは好きじゃない』って言われてしまって。難しいわ・・・。そういえばランチボックスは毎日サラさんがチェックして笑っているのよ。豆が主食っておかしいって」
「おおおおおかしいか・・・そ、そうかあ・・で、でもあの豆は精神を落ち着かせる作用があるから・・豆減らして穀物と混ぜるか・・可愛くデコレーションすればあるいは・・」
「ハミングさん、私はいつも美味しくいただいています。味付けも工夫してあって、毎日今日はどんなお弁当だろうって楽しみにしているんです」
「ミ、ミミミミミアさん・・そんなに豆が好きなんですか・・」
「弁当の話はもういいでしょ。サラさんは何か裏があるんじゃないかと思っていたけど、本当にただ友達になりたかっただけみたいだね。それよりも彼女の友人が少し気になるな。あれからサラさんと何度かもめているのを見た。周りの人にも君の事を悪く吹聴しているよ。
ミアさんも何か言われるかもしれないから注意してね」
アッシュが話をまとめるようにミアに言った。
「ブリジットさんという方のことですよね・・?わかりました。サラさんにも彼女のことを聞いてみます」
ミアの言葉で今日のミーティングは終わった。
魔術師の彼らと、日常生活の話も含め毎日意見を交わす時間を設けろというのがエリックの指示だった。ミアは必要がなければ自分から喋ることがないので、人と話すことの練習でもあるといわれこうしてなんでもないような話もしている。
ランスはいつも笑って聞き役。アッシュは皮肉屋な物言いをするが、ミアにいつも的確なアドバイスをしてくれる。ハミングは話すことが苦手なようで緊張するとどもってしまうが、ミアと話すことは嫌ではないらしく食に関する知識をたくさん教えてくれる。
話して見なければ分からない。いくら話しても分からないことは沢山あるけれど、分からなかった事が分かるだけでも先に進んでいるんじゃないかな、とエリックはミアに言った。だから話せと。
実際義務として強制的に始まったこのミーティングだが、毎日会話をすることで彼らの話し方の特徴が見えてくる。たとえばハミングは返事を急かされると言葉に詰まってしまうので、ゆっくり返答を待つようになった。そういう傾向も彼女と話さなければ気づけないことだった。それに気が付いてからは彼女とスムーズに会話できるようになった。
魔術師の三人とはうまくコミュニケーションが取れているように思える。学校でも特に問題を起こしていない。
フランが居ない状態で上手く日常を送れるのか不安だったが、ちゃんと普通の人と同じに出来ているのではないかと少し自信がついたミアなのだった。