フラン2
言うの忘れていましたが、このフラン君視点が本編なんかよりぶっちぎりで長いです。
なのでまだまだまだ続きます。ホントすいません。
しぶしぶといった態度を隠すことなくフランは立ち上がって部屋を出ようとした。そこへミアがノックをすることもなくドアを開けて飛び込んできた。
「・・ごめんなさい。お話が聞こえてしまって・・フラン、いつまで休学するの?私、フランがいないと不安で・・」
動揺した様子のミアをなだめるようにフランがミアの背中を撫でる。
「大丈夫だよ・・ミアちゃんと俺はつながっているんだから、ミアちゃんに何かあれば必ず駆け付けるから・・ね?」
ミアの額に口づけをひとつ落としフランは彼女を抱きしめた。
そしてそのままずっと抱きしめているので、いい加減焦れた父が『フラン、自重しろ・・』と注意し二人を引き離した。フランは荷物をまとめるよう指示され部屋を出て行く。フランの父と二人になったミアは今更ながら淑女の礼で挨拶をした。
「失礼しましたエリックおじ様・・ご無沙汰しております。私の不注意でこのような事になってしまい、お手をわずらわせまして申し訳ありません」
「ミア君久しぶりだね、今回の事は君に非はない。魔力制御もこれまで完璧に出来ていた、君はよくやっている。ただ、人との関わりがこれまで少なすぎたせいか人間関係のトラブルで君は感情が大きく揺れ動いてしまうね。これからの課題が出来たようだ。
フランには私の仕事を手伝ってもらいたくてね、少しの間学校を離れることになるがミア君なら大丈夫だ・・・そんなに心配することはないよ」
エリックはそういってミアを安心させるためハグしようとしたが、二人の間に『パチンッ』と静電気が起きてそれを阻まれた。エリックが苦い顔をして扉の方を向く。そこには先ほど部屋を出て行ったはずのフランがドアを開けてそこに立っていた。
「父さん最近加齢臭がしますよ。その制服ちゃんとクリーニングに出していますか?ミアちゃんに臭いがうつるんで、申し訳ないですけどハグは無理です」
「・・・お前早く荷造りしなさいよ。そして言葉を慎みなさい、いくらなんでも私も傷つく」
「こういうのは家族が指摘して差し上げるべきかと思いまして。失礼しました」
そういってフランは再びドアを閉じていなくなった。
「ミア君・・フランと引き合わせたのは私だが、あれが嫌になったら遠慮なく言ってくれていいんだよ?しばらくフランは学校を離れるから、これを機に君もクラスの子達ともっと親睦を深めてフラン以外の友達をたくさん作るといい。あれとだけ付き合っているのは君にとって良くない」
「嫌になんて・・ですが私がフランに依存しすぎている今の状況も良くないと理解しています。私自身他の人と交流を図る努力を怠ってきたと反省しているので・・そうですね、これを機に独り立ちできるよう頑張ります」
そういってミアは口角をあげて一生懸命微笑もうとしたが、口の端が震えただけであまりうまくいかなかった。知らない人からすれば無表情と変わらないくらいだろうが、幼い頃から彼女を見てきたフランの父は、彼女が笑おうと努力していることに気づき、頭を撫でながら微笑み返した。
幼い頃から泣くな怒るな笑うな魔力を安定させろと厳しい体罰と共に教え込まれた彼女は、その指導方法が変更されてからも表情が戻ることはなかった。
エリックは、ミアの硬い表情をみているといつも苦い後悔が胸に押し寄せる。
今思えば防ぐ手立てはいくつもあったはずだ。息子に嫌味を言われても仕方がないと自覚している。
幼い頃からその成長を見てきたミアの事は、エリックにとってわが子同然だった。彼女にとってどの道が最善なのだろう?フランと二人だけの世界で生涯を終えてしまうのは、一番楽だろうが彼女の無限の可能性を潰してしまうことになる。
そして、彼女は自分の価値を知らぬままここまで来てしまったが、そろそろ自身の置かれている立場を知る必要がある。フランはミアに何も知らないままでいて欲しいようだが、エリックはミアに自分の意志で決めて未来を選び取る力を付けて欲しいと思っている。
ミアの頭を撫でながら物思いにふけっていると、訝しげにミアがエリックの目を覗き込んできた。少しぼんやりしすぎてしまったらしい。
ほどなくフランが小さな鞄を持って戻ってくると、父の手がミアの頭にあるのをみてあからさまに嫌な顔をした。
そして『準備できました。行きましょう父さん』といって彼女の頭に乗せている手を取る。さりげなく、流れるような動作で浄化魔法をミアの髪にかけるのも忘れない。
それからもう一度ミアの髪に鼻をうずめながらハグする息子を見てエリックは微妙な気持ちになった。
(父を汚いもの扱いしないで欲しいな・・本当にどうしてこんな子になったかなあ・・)
フランもまた、ミアに会って己の使命に目覚めたのだろう。似たもの親子ではあるが、父の扱いがいくらなんでも酷すぎやしないかと思うエリックなのだった。
***
休学届を出してフランは父と共に王都へ向かう。
馬車の中で、父と二人きりの空間に多少プレッシャーを感じる。成長するにつれ意見が衝突するようになった父とは正直向き合うのが苦痛だった。
だが父が自分と同様にミアを大切に思ってより良い処遇になるよう取り計らっているのも事実で、所詮学生の自分には出来ないことをやっている父に嫉妬と羨望を覚えた。
父曰く、これからフランは宮廷魔術師の見習いという扱いで父の手伝いをすることになる。そこには歳の離れた長兄も在籍しているのでどちらからもしごかれるという事だ。
ミアと引き離されて不本意な事この上ないが、父のこの手際の良さをみるかぎり今回の事件がなくとも近々計画されていた事なのだろう。
フランとしては、学校を卒業したらミアとともに彼女の家の領地に戻り、いずれ自分が婿入りして田舎でのんびり暮らして行けたらいいと思っているが、王がミアを諦めないかぎりそれは不可能だ。
魔力制御に不安が残るミアが学校に入学することができたのも、王が反対派の意見を無視しゴリ押しする形で進めたからだ。
反対派との摩擦が大きくなる中、フランの父エリックがミア専用の寮を用意し術式を何重にも施し、魔術師を派遣し、有事の際の対処法などを検討して、安全マニュアルを用意することでようやく反対派をなだめ入学が実現したのだった。
そうまでしてミアを近くに呼び寄せたいという王の執念に恐ろしいものを感じる。ミアの魔力制御が自身で可能になれば、きっと反対派の意見を力ずくで黙らせてでも王家に彼女を迎え入れるだろう。
そして、王の指示でもあるがミアには集団のなかで学び育ち自分で未来を切り開く力を付けて欲しいというエリックの願いもある。
制御に苦戦しているが、ミアの膨大な魔力は魔術として使いこなせるようになればこの国で最も優れた魔術師になるはずだとして、彼女に将来仕事に就くことを勧めている。
それゆえ王家の花嫁にという話にエリックは賛成も反対も表明していない。ミアに選択する権利を与えて欲しいと進言しているという話を聞いたことがある。
そんな父であるから、フランがミアを囲い込んでいる今の状態が気に入らないらしく度々苦言を呈される。
恐らくフランとミアを引き離すことは前々から計画していたに違いない。
そんな事を思いながら父を睨むとうんざりしたようにため息をつかれた。
「お前ね、恨みがましい目でみるんじゃないよ。これはお前のためでもあるんだ。ミア君を本当に守りたいなら、いずれお前もそれなりの地位と力をつけなくてはいけない。それぐらい分かっているかと思ったがな」
「・・・わかってます。このまま茫洋と学校に通っていても、彼女を利用しようとする輩を退けるだけの力は得られない。いずれ中央に行って政治の動向を知れる立場になるつもりです。ですが彼女と俺を引き離すのは間違っていると思いますよ。ミアちゃんと俺は常に一緒にいるべきです」
「何度も言うが、ミア君の制御をお前だけに任せる今の状況が間違っているんだ。いずれ彼女が成人して職に就こうとするならもうお前と一緒という訳にいかないだろう。ミア君の人権を尊重するならお前は少し離れて遠くから見守るべきだ」
「嫌です。彼女の力が知られれば、その力に魅了されそれを利用しようとする者も出てくるでしょう。逆に脅威と感じてミアちゃんを害そうとする者も同じだけ出てくるはずです。
王家の花嫁にという王の意向を公表すれば、反対派が本気でミアちゃんの命を狙いに来ると父さんも予想しているでしょう?
離れていては彼女を守る事ができません。俺は生涯ミアちゃんを守ると・・あの時誓ったんです。これは俺の天命です」
一歩も引かない様子のフランは強気な瞳で父を見返す。
わかってはいたが、フランをミアから引き離すのは容易なことではないと改めて理解した、父エリックなのだった。