9話 ひと休み
時刻はおそらく午後3時ごろ。
時計を持ってないので詳しくはわからないが、頭上の太陽を見ての判断だ。
俺は町を出て、リヴェラに言われた秘密の特訓場所へと向かっていた。
「えーと、この抜け道を出て、たしかこっちの方って言ってたな」
口頭で伝えられた情報を思い出しながら、門にいる人たちにバレないようにしながら森の中にあるという目的地へと向かう。
なんでもリヴェラはリヴェラで他の用事があるらしく案内はしてもらえなかった。
とはいえその場所はそこまで近いというわけではないが道は単純らしいので、道さえわかれば1人でも大丈夫だそうだ。
「ひらけた場所があるって言ってたけど、けっこう歩いたからそろそろか?」
途中からけもの道も途切れてしまったため、草木をかき分けつつひたすら進む。
ローブが破けないように必要以上に道を広げているため通ってきた道がかなり悲惨なことになっているが仕方がないだろう。
俺だってこれも訓練だと思って加減しようとしているが、物を動かすのは想像以上に難しかった。
昼食は潰れても問題ないパンにしてよかったと改めて思う。
「よいしょっと。お……、ここかな?」
さらにしばらく進むとやっとたどり着けたみたいだ。
鬱蒼とした森の中にぽっかりと空いた小さな空間。
一般的な家にある一室ほどの広さだろうか。
この場所だけ陽の光が惜しげなく注がれ、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
「さすがにとっておきって言うだけのことはある、ここなら他の人の目を気にせずに特訓できそうだ。でもその前に……一旦休憩しよ」
そう言って、俺はゆっくりと芝生の上に寝転がる。
この場所は町からかなり離れておりここにくるまでに少し疲れていたというのもあるし、ここに来てから落ち着ける時間が少なかったから伸び伸びと休みたかったのだ。
本当は特訓も明日にしたかったが、口を挟もうとしたところリヴェラに軽く睨まれてしまって反論ができなかった。
まあ実際必要なことではあるし、他にできることもないのでおとなしく従っておく。
「この場所は壊さないようにしないとなあ……」
俺はそんな縁起でもないことを呟きつつ、のんびりと空を眺めるのだった。
「ふぁあ、気持ちいい…………んん?」
いくらか時間が過ぎただろうか。
時折あくびをしつつ、しばらく日向ぼっこを楽しんでいると、俺の身体の周りで何か動いた気がした。
感じたことのない不思議な感覚。
複数の小さな光のようなものが身体の近くを漂い、近づいたり離れたりを繰り返している。
体を起こして謎の光のようなものをより良く見ようと──
「なんだこれ。誰かいるのか?」
「…………見破りますか、やりますね」
「えっ?」
──した瞬間、俺の背後から声をかけられた。
振り返ると、そこは俺が乱暴に切り開らいてきた道がある。
「バレてしまったなら仕方がありません。覚悟してください」
その木の陰からゆっくりと姿を現したのは、腰の長剣に手をかけ、微笑みを浮かべた白髪の少年だった。