8話 今後の予定
周りの喧騒が遠くに聞こえるほど、その手配書のような張り紙に俺は釘付けになっていた。
討伐、という言葉に生唾を飲み込む。
「現状を見せようと思ったんだけどこれは想像以上だねえ。本来はここでクエストを受けたり、冒険者登録ができたりするんだが……」
リヴェラの言葉を聞いて辺りを見回すと再び喧騒が戻ってくる。
たしかに新人に構ってる暇はなさそうだ。
すると、リヴェラは振り返って来た道を戻り出す。
「いいの?」
「ああ、これじゃ仕方ない。登録とかはまた後日にするとして、少し話そうか。ナオキ、腹は空いてるかい?」
「う、うん──っ!」
少し前から忘れかけていた空腹感が戻ってくる。
思わぬ朗報に嬉しくなり進む足にほんの少し力がこもってしまったのか、床とローブが小さな悲鳴をあげた。
恐る恐る確認するもバレてはいない、はず。
逃げるようにその場を後にする。
「うぅ。心臓に悪い」
「全く、先が思いやられるねえ」
「ご、ごめんなさい……」
場所は変わって町の中心部から少し離れた店の中。
数える程しか人のいない店内で俺とリヴェラは向かい合う形で座っていた。
「それじゃ、いただきます!」
「さて、食べながら聞いてくれ。質問があったらその都度してくれていいからね」
俺は念願の食事に興奮しつつ、シャボン玉を掴むような気持ちで慎重に持ち上げたパンを頬張る。
コッペパンのような見た目だが、ほんのり甘くいくらでも食べることができそうだ。
「まず現状の話からだね。今、あんたは恐るべき魔族として討伐対象にされている。本来ならすぐにでもこの町から移動したいところだが、それにはその力が厄介だ」
リヴェラはパスタのようなものを優雅に食べつつ、追加したパンを口にして首を傾げているこちらに指をさした。
「今町から出て行こうとしてるのは、金に余裕があって町の安全よりも保身を優先しているやつが多い。そんな中でもし問題を起こしたら事が大きくなって、下手したら王都の騎士まで出張ってくるかもしれない」
「王都の騎士?」
「王都を守護する騎士団ってのがあってね。数も数十名と多いんだが、1人1人がかなりの腕利きだ。あんたも力は強いみたいだけど、制御もできてない状態で集団で襲われたらひとたまりもないだろうね」
「た、たしかに……」
さらに新しく頼んだパンを持ち上げながら、その光景を少し想像して肝を冷やす。
そもそも戦闘行為自体が不可能に近い俺にとって、何十人もの人に襲われるというのは悪夢のような話だった。
「ってなわけでまだ移動することはできない。ここと次の町はかなり離れてるから馬車以外では行くのは現実的じゃないしね。少なくとももう少し事態が収まってからじゃないと。幸い、まだあんたのことは完全にバレてはいないし、あたしもいるから隠し通すことはそこまで難しいことじゃない」
「うんうん」
「そこで、ほとぼりが冷めるまでにあんたにやってもらうのは力の制御だ。強い力はありがたいけど、操れないんじゃ使い物にならないからね。いい場所はあたしが知ってる。他にも何か聞きたいことがあったら──」
という感じで情報共有を含めた食事会が終わり、やるべきこともわかって希望が見えた気がする。
ただ、会計時の積み上げられた皿とリヴェラの顔が印象的だった。
まさか俺がこんなに大食いになっているとは。
働いて返さないとなあ……。