7話 有名人
「よし、これでいいだろう」
「あ、ありがとう。疲れた……」
再びリヴェラにローブを持ってきてもらってから小一時間。
何度も危ない場面があったが、やっと着ることができた。
ほとんど着せてもらう形でかなり恥ずかしい気持ちもあったが、この際置いておこう。
「それじゃ、正門はあんな感じだし横から入ろうか」
「……うーん、動きにくいなぁ」
「あはは、今度は破らないでくれよ?」
リヴェラに促されるままゆっくりと後ろからついていく。
なんとか身につけることのできたフード付きの灰色のローブ。
これで顔と服は隠せたけど、破らないようにできるだけ静かに動かなければ……。
正門から外れて少し歩いていくと、町と森を仕切る塀の合間にある路地から町へと入っていく。
「お、おお……ついに町に入れた!」
「ナオキは大げさだねえ。ほら、いくよ」
リヴェラは肩をすくめるが、ここに来てからいろいろともどかしい思いをしていた俺としてはその嬉しさは抑えることができないほどだった。
感動して周囲をせわしなく見回しながら進む。
町には多くの建物が立ち並び、木造建築の一軒家ばかりで俺にはかなり新鮮に感じる。
町行く人も人間じゃなさそうなのが何人もいるし、武器や防具を身につけているのが珍しく見るものが多くて大変だ。
「でもみんな急いでるというか、なんか騒がしいな」
見ると、どこもかしこも町の中は慌ただしく、荷物をまとめて町から出て行く人も少なくない。
「そりゃ、事実確認がまだとはいえ魔族が来るなんてなったら落ち着いてはいられないだろうね」
「魔族って、そんなすごい存在なのか」
「今となっては数も少なくなっちまって脅威も……っとこの話はまた今度にしようか。着いたよナオキ、ここが冒険者ギルドだ」
気がつけば随分と町の中を進んでいたようで、より人の往来の盛んな広場に出ていた。
様々な店が賑わう中、目の前にこの町で一際大きな建物が。
すでに騒がしい声が入る前から聞こえており、嫌な予感がしてくる。
「リヴェラ、冒険者ギルドって?」
「ああ、そこからだったね。冒険者ギルドってのは各町に存在する施設で、人々から依頼を集めて所属してる冒険者たちに解決させるところさ」
「へえ、なんかゲームみたいだな」
「ゲーム? 何か思い出したかい?」
「あ、ああ、いや何でもないよ」
「ふぅん、まあ詳しくは中で聞けるからとりあえず入ろうか」
慌ただしく人の出入りする冒険者ギルド。
リヴェラにはなんとか誤魔化すことができたようだが、内心では冷や汗が流れる。
力の制御だけじゃなくて会話にも気をつけなければいけないなんて……。
そんな精神的な疲労を感じつつ、2人で中へと入っていく。
新しく入ってきたこちらに目を向ける者も何人かいるが、それどころではないのかすぐに視線を外す。
どうやらローブの効果はてきめんで、俺が騒動の原因だとバレてはいないようだ。
ギルド内は人で溢れかえり、真剣になにかを話し合う者や受付で情報を聞く者、それに対応する受付嬢、青ざめた顔で嘆く者など千差万別。
うるささに顔をしかめつつ進むと奥に受付のカウンターが見え、その手前に掲示板のような板があり様々な張り紙が貼られている。
その中で、新しく張られたであろう張り紙が中央に大きく張り出されていた。
「り、リヴェラ、これって……」
「言った通りだろう、有名人じゃないか。せいぜいバレないように気をつけな」
嘆きの森にて魔族を確認したとの情報あり。腕利きの冒険者は直ちに調査に向かわれたし。
討伐:1,000,000ゴル。