6話 初めての仲間
「……どうかしたかい?」
「え、えーと」
こちらをうかがうような視線を向けてくるリヴェラに、目をそらして言い訳を考える俺。
このまま握手をしてしまったら確実にやってしまう……。
事故とはいえそんなグロい展開はごめんだ。
けど、力を買われているのに、それが制御不能だと知ったらリヴェラはどう思うだろうか。
ああ、どんどんリヴェラの目が細められていく。
これ以上耐えきるなんて俺には無理だ!
「ご、ごめんなさい! あの……とても言いにくいんですけど、あの、たしかに力はあるみたいなんですけど、加減が効かず思い通りに使えなくて……」
「へえ、記憶だけじゃなくて、力もなんて気の毒なやつだねえ」
「はい、なのでリヴェラさんに怪我をさせてしまう可能性が……記憶?」
「そう、あんたみたいな記憶を失ってるやつが昔から各地でいるのさ。そこまで人数は多くないけど、原因と治す方法はまだ見つかってないみたいだね」
リヴェラが俺のことをすぐに信じてくれた理由がわかり、納得とともに安堵する。
俺以外にもそういう人がいたのか。
本当に記憶を失っているたちには申し訳ないけど、ちょうどいいからこのまま記憶喪失を装おう。
「ただ、さっきも言ったけどあんたみたいにほぼ全てを覚えてないやつなんてなかなか珍しいけどねえ」
「あ、あはは……」
目を細めつつ説明を続けるリヴェラに、苦笑いを返す。
ば、バレないようにしないと。
「それで力のことだけど問題ないよ。そこも含めて協力してやる」
「ほ、本当ですか!」
「ああ、正直なやつは好きだしね。それで、あんたの名前は?」
「あ、僕はナオキって言います。よろしくお願いします」
握手ができない代わりに頭を下げて応じる。
すぐ逃げたあいつと違い、ちゃんと話も聞いてくれる上にこんな俺を見捨てないでいてくれるし、なんていい人なんだ。
「よろしくね、あと堅苦しいのは嫌いなんだ。そんなにかしこまらなくていい。協力関係なんだ、対等に行こうじゃないか」
「は、はい……あ、いや、うん。わかったよ」
俺は頭を捻りつつぎこちなく返してしまうが、初対面の恩人にタメ口で話すなんてなかなか難しい。
ただ、ずっと敬語というのも慣れていないのでお言葉に甘えよう。
「さて、まずはあんたの見た目をなんとかしなきゃだな」
「見た目……?」
先ほどからおうむ返しばかりしてしまっている気がするが、実際わからないのだしこれは仕方ないと思いたい。
それにしても見た目か、たしかにこの寝間着姿はどうにかしたいな。
「あたしが言っただろう? 噂通りだって。このまま町に入ったら1発でバレちまうよ」
「ああ、そういえば」
すっかり忘れていたが、俺は絶賛警戒中の恐ろしい魔族にされてしまっているんだった。
「ただ、かなり曖昧情報だからなんとかなるさ……ちょっとこっちにきて後ろ向きな」
「う、うん、わかった」
何をするのかわからないが素直に従ってみる。
すると、背後で何かを取り出すような音が聞こえた後、瞬く間にボサボサだった髪は切りそろえられ、目にかかっていた前髪も短く切られてしまった。
視界が通ってよく見えるようになり、手鏡で見てみるとかなり活発な見た目になっている。
俺はがさつそうな見た目のわりに丁寧で正確なリヴェラの仕事に驚く。
「お、おお……!」
「あとはこれを着な」
そう言って、リヴェラに腰に巻いていた布の塊のようなものを投げ渡される。
受け取り広げようとしたところで、嫌な音が。
俺の手には引き裂かれた布切れが2枚。
「あっ……ご、ごめんなさい」
「……ちょっと待ってな」
リヴェラは手持ちの物を確認したあと、そのまま町の方へ駆けていってしまった。
本当にごめんなさい……。