5話 交渉
「違うってあんた……その奇妙な服装に目にかかるほど長い黒髪、どう見たって情報通りじゃないか」
そう言ってこちらを訝しげな目で見下ろす女の人。
俺はその視線にあてられ、表情を強張らせつつ少し後ずさる。
奇妙な服装で悪かったな……、こっちだって好きでこんなことしてるんじゃないんだけど。
「あ、あなたが何を言っているかよくわかりませんが、僕はただの一般人ですよ?」
「いやいや、さすがにそれはないだろう。ならここにいる現状をどう説明するんだい?」
「それは……」
女の人は鋭い視線でこちらを射抜く。
萎縮してかしこまった口調になってしまったが、こちを逃がすつもりはなく誤魔化すのも無理らしい。
なら、正直に話して信じてもらうしかないか。
俺は少し間を開けたあと、口ごもりながらも事情を説明することにした。
「ええと、あの、信じてもらえるかわかりませんが、気づいたら森にいたんです」
「へえ、それは本当かい?」
「は、はい、だから何もわからなくて……」
こちらを品定めするような冷ややかな瞳。
不安と恐怖で冷や汗が流れ、俺は下を向きそうになってしまうのをなんとか堪える。
「…………嘘は言ってないみたいだけど。なら、その力は?」
「それもその、いつのまにか使えるようになってて」
「ふーん、何も知らないことといい……なるほど、そういうことなら納得だ」
そう言って、木の上から降りこちらに歩いてくる女の人。
なんか勝手に納得してくれたみたいだから助かった。
気になるところもあるけど、蒸し返す勇気もないためとりあえず置いておく。
「それなら好都合。あんた、困ってるんだろう? ならあたしと手を組まないかい?」
「……へ?」
再び身構えていると予想だにしない提案を突きつけられ、思わず呆けてしまう。
「なに、簡単なことさ。あんたはあたしの情報がほしい、あたしはあんたの力がほしい。お互い出せるものを出すだけのギブアンドテイクだよ」
それは俺にとって思案するまでもなく、願ってもない条件だった。
もともと右も左もわからず困り果てていた現状としては、事情を知って助けになってくれる人はありがたい。
我ながら単純なことで、先ほどまで怖いと感じていた女の人が俺にはまるで救世主のように見えていた。
「そ、そういうことなら。ぜひ、よろしくお願いします!」
「お、なら交渉成立だね。あたしの名前はリヴェラ、よろしく頼むよ」
「は、はい。こちらこそ……」
そう言って微笑んで手を差し出してくるリヴェラ。
俺は出された手にたじろぎながら、勢いで了承してしまったことに少し後悔する。
後ろ髪を引かれつつ震える手で応じようとしたところ、ギリギリで思い留まった。
あれ、これどうしよう……。