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4話 町

 別に漫画のヒーローとヒロインのような展開を望んでいたわけじゃない。

 ただ、助けたかっただけなのに。


「泣きながら走って逃げるなんて……そりゃないだろぉ?」


 あんまりな結果に俺は膝を抱えて座りこんでしまっていた。

 いくら最強の力といっても精神面まではカバーできないようで、助けたのに逃げられた、という事実は俺のガラスのハートにかなりの衝撃を与えたようだ。


「うぅ、俺の勇気と喜びを返してくれ」


 動き回ったせいで余計にボサボサになった黒髪を抱えて膝に顔をうめる。

 悲しいやら恥ずかしいやら。

 穴があったら入りたいとはこういうことなのだろうか。

 むしろ家に帰りたい。もう何度目の思考かわからないが。


 愚痴を聞いてくれる相手もおらず、気を紛らわすものもないまま、俺はしばらくそこから動くことができなかった。











「はあ、そろそろ行かなきゃ……」


 しばらくしてようやく気を取り直し、渋々重い腰を上げる。

 いい加減この様々なものが混ざり合ったなんとも言えない匂いはこりごりなので、早いとこ移動してしまおう。


 ざっと周囲を見渡した後、先程の女の子が逃げていった方向に目を向ける。

 よくよく見てみるとかすかだが、森の向こうに建物が見える……気がする。


「うーん、行くあてもないしな。ともかく……ん?」


 そうして足を踏み出そうとしたとき、ふと足元に煌めく何かが落ちていることに気がつく。

 屈んで慎重に拾い上げると、薄緑に輝く小さな楕円形の宝石のようなものだとわかる。


「もしかして、さっきの子の落し物か? 高そうだし、なくしたら大変──あっ」


 下から覗き込もうとしたその時、力がこもってしまい宝石に小さな亀裂が走った。

 思わず宝石を離し地面に放り出してしまい、またもや額から嫌な汗が流れる。


「ま、またやっちゃった……。い、いや、まだ割れてないしセーフだよな? 俺が見つけなきゃなくしてた可能性もあるわけだし──」


 などと、誰に対してかわからない苦し紛れの弁明を述べつつ、今度は拾い上げたそのままにズボンのポケットへ突っ込む。


「よし、行こ!」


 汗を拭い、今度こそ歩きだす。

 大丈夫、俺は良いことをしたはずだ。











 俺は気を取り直して森の中を慎重に進む。

 目が覚めてから体も軽く、あまり疲れることないのはありがたい。

 また、かなり集中する必要はあるが、歩くだけならなにも破壊せずにできるようになってきた。

 少し大股で歩いたり、早歩きにしてみたりと挑戦する余裕もある。

 まだ早歩きだと地面に少しひびが入ってしまうが。


 そうして時折早歩きを混ぜていたためか、ほどなくして森が拓けて建物がいくつも見えてきた。


「おお! 町だ、やった!」


 俺はやっとたどり着くことができた町に歓喜する。

 さっきは失敗してしまったが、力に気をつけさえすれば人がそこそこいそうなこの町なら話し相手ぐらいできるはずだ。

 それに、町にさえ着いてしまえば当面の生活は大丈夫じゃないだろうか。


「早速、町を見て回りたいところだけど……なんだあれ?」


 まだ森からは出ず、木に隠れながら町の様子をうかがっているとなにやら町へ入るとこであろう門のあたりで人混みが出来ているようだ。

 かなりの人数がいる上に、鎧を纏った騎士や筋骨隆々の偉丈夫などごつい人が多い気がする。


「何してんだろ? 頑張れば聞こえるかな」


 耳を凝らしてみると断片的だった声がより鮮明に聞こえてくる。

 なになに……?


「何っ、魔族が現れただって!?」

「ああ、先ほど逃げてきた新米の女冒険者を保護したところだ」

「なぜ今になって突然……、この町を襲うつもりなのか?」

「わからない、だが警戒しなければならないだろう。何人か選抜して先遣隊を──」


 その他にも危険、侵略、破壊、討伐などといった物騒な単語がいくつも発されている。


「こ、これって……」


 もしかしなくても俺のことじゃね?

 耳を疑いもう一度聞いてみるもそれらの発言は撤回されることなどなく、どんどん具体的な対策が立てられていく様に血の気が引いていき、俺は頭を抱えてしまう。


 こんなんじゃ町に入れないどころの話じゃない、見つかることすら……。

 まさかあの女の子、あいつ町で俺のことチクって危険人物に仕立て上げたな!?

 っていうか魔族ってなんだよ!

 たしかにやりすぎたのは認めるけど、こんなことなら逃げられた時すぐに追えば──


「おい、そこのあんた」

「ひっ!?」


 俺が思考に集中していたところに背後から突然声をかけられた。

 驚いて小さく体を跳ねさせてしまった余波で木々がざわめく。


「だ、誰だ!?」


 振り返ると、木の上に登り風に飛ばされないように木にしがみついている女が目に入る。

 薄く赤い長髪に吊り上がった紅の瞳が特徴的で動きやすそうな軽装に身を包んでいる。

 彼女は、ざわめく木々や俺が振り向いたことで発生した風圧を見て興味深そうにこちらを見下ろした。


「うわわっ、すごい力だねえ……。言っとくけどあたしは敵じゃないからさ、そう身構るなって。それで、あんたが噂の魔族かい?」

「ち、違いますけど!?」


 やばい、見つかった!?

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