1話 最強の力
夢を見ていた。子どもの頃の夢を。
テレビのヒーローに憧れて、本気でヒーローを目指していた無邪気な自分。
『──た。そこのあなた』
そんな中、沈んでいた意識の片隅に遠くから声が聞こえてきた。
ぼんやりとしていた声がだんだんとはっきりと。
『──あなたが望むものはなんですか?』
聞いたことのない透き通るような神秘的な声。
不思議とすんなりと俺の中に入ってくる言葉に、疑問を覚えることなく1つの願いを思い浮かべた。
正義のヒーローのような──誰にも負けない最強の力がほしい、と。
『──望みはあなたの手に。あなたの行く先に幸多からんことを』
その言葉とともに声は消えさり、意識が浮上していく。
俺が目を覚ますとそこは自室のベッドの上──ではあったが自室ではなく、鬱蒼と木々の生い茂る場所だった。
「ん……、はあ?」
頭上に広がる無数の枝葉に自分の目を疑いつつ、思わずガバッと起き上がる。
すると次の瞬間、凄まじい音とともに眼前に木々が半ばから粉々にへし折れ、毛布はビリビリに破けながら彼方へと飛んで行った。
「うおおっ!? い、いったい何が──」
そういって、驚きながらも素早く自身の周囲を見回す俺。
そのたびに悲鳴をあげて倒れる木々、砕け散るベッド。
「どわっ!? べ、ベッドまで……なんで? なんでだ?」
地面に投げ出された俺は尻もちをつくが、地面が柔らかかったのか、はたまた運が良かったのか、特に痛むこともない。
ラッキーに思いつつひとまず立ち上がると、足元から鈍い音。
恐る恐る目線を下へ向けてみると、地面が割れていた。
それも俺の足を中心として放射線状に広がるように。
「ま、まさか……?」
嫌な予感が脳裏をよぎり、錆びついた機械のようにゆっくりと顔を上げる。
そして改めて自身の周囲を見渡すと、ある1つの結論にたどり着く。
──まるでこの大破壊のあとは自身を中心にしているようだ、と。
「いやいや、まさかそんなわけが……」
とっさに否定しつつも脳は問題を解決しようと働き続け、さらに思い至ってしまったのは先ほどの声。
夢かと思っていたもの、全く気にもとめていなかったもの。
しかし、そんな中で俺が求めてしまったのは純粋な子どものころに描いた淡い夢の続き。
その願いとは──
「最強の、力……?」