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第十八話 タケダ王国の陰謀 4

 モモチ・タンバは忍者の中でも特に諜報(ちょうほう)に関して右に出る者がいないと言われるほどの使い手であった。他人の知覚からその気配の(ことごと)くを消し去る卓越した魔法と高い戦闘力は、これまで(あるじ)の求める数多(あまた)の情報を盗みとってきた実績を積み重ねていることでも容易に想像が出来る。


 しかしそのタンバをして、現在のタケダ王国王城に忍び込むことは困難を極めていた。暗殺を主な任務とするタケダの魔法使いが、幾重にもトラップを仕掛けていたのである。人の目であればいくらでも誤魔化すことが出来るが、魔法によるトラップは存在や空間に対して発動するものだから誤魔化しようがないのだ。しかも抜け穴らしい抜け穴が一つも見当たらないときている。これでは通常の出入りですら難儀(なんぎ)するはずだ。戦争中でもない限り考えられない警戒レベルであり、タンバはこのことだけでタケダ王国内部に起こっている出来事を容易に想像したのであった。


「そういうことでございましたので、恐らく陛下のお見立てに間違いはないものかと」


 オオクボ国王の密命を受けて旅立ってからきっちり三日後、タンバは再び玉座の後ろに控えて諜報の結果を報告していた。


「オダ(がた)の動きはどうであった?」

「はっ! 二人ほど始末して参りました」

「やはり潜り込んでおったか」

「国境の警備など忍びにとってはないも同然。しかし城にかけられたあの魔法による罠は如何(いかん)ともし難いことでしょう」

「そちがそこまで申すのであれば城の護りは鉄壁ということなのだろうな」

「して、いかがなさいますか?」

「そうよな、イチノジョウとやらの戴冠式(たいかんしき)に出てみるのも一興(いっきょう)だと思うがどうだ?」

「それではタケダの体面を汚すことになるかと存じますが……」


 ニヤリと口元に笑みを浮かべた国王の表情は、背後のタンバには見ることができない。しかしその声色から王が何を考えているのかくらい、想像するのは容易(たやす)いことであった。


「ところで第二王子のトラノスケはどうなった?」

「現在はイチノジョウ殿下の軍によって居城を取り囲まれております。事実上の幽閉といったところでしょうか」

「こちらへの体裁は一応整えているということか」


 さてどうしたものか、とオオクボ国王は考えた。オダの侵出を阻止するためにはタケダと一枚岩になって立ちはだかるより他に手はないと思われる。おそらくはタケダも同じ考えなのだろう。だからこそ先日ヤシチという使者を送ってまで双方の関係の確認にきたということだ。


 しかしそのタケダの国内情勢は今、大きく揺れ動いている。判断を誤れば共倒れになりかねないところまで来ていると言っても過言ではないのだ。だからと言ってオダに擦り寄るわけにもいかない。そんなことをすれば周辺国はもとより、国民の信望も失うことになるだろう。


「やはり今はまだタケダと手を切るわけにはいかぬな」

「陛下が手を引けばオダは即座にタケダに攻め込むものと思われます」

「イチノジョウの戴冠式は十日後だったな」

「はい」

「モモチ、お前はそれまでタケダに潜り込んでくるオダの間者を始末し続けるのだ」

「心得ました」


 ふと、それまであったモモチの気配は霧が晴れるが如くに跡形もなく消えていた。イチノジョウがどれほどの人物かによって、今後の動静は大きく変わることとなる。もしその才覚がハルノブに遠く及ばないようであれば、遠からずタケダは滅ぶこととなるだろう。しかし、未だその素顔を周辺諸国に知られていないというのは一種の強みでもある。だからこそオダも間者を送って探ってきているということなのだ。取るに足らない蟻だと油断して仕掛けたら、実は毒蟻の大群が控えていたという事態はオダとしても避けたいはずである。つまりオダの間者を始末し続けることは、オダを足止めする有効な策に他ならないということだ。


「ノリヒデ、ノリヒデはいるか!」

「お呼びでございますか、陛下」


 扉の向こうで控えていたガモウ・ノリヒデは、国王の呼び声に一息とつかず玉座の間に入ってきて一礼した。


「例の物はいつ完成する?」

「はっ! 間もなく試作品が出来上がる頃合いかと」

「よし、急げ」

「御意」


 その時オオクボ・タダスケは毒蟻はタケダに(あら)ず、と心の中でほくそ笑んでいた。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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