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第十七話 タケダ王国の陰謀 3

「あれは殿下……殿下がなぜこのような場所に……?」


 オオクボ城からの帰り道、ヤシチは街道の茶店(ちゃみせ)で楽しげに会話するカップルの男の方を見て(いぶか)しんだ。短めにカットした黒髪に大柄な体躯(たいく)、それに類い稀なる眉目秀麗(びもくしゅうれい)さはタケダの第三王子イチノジョウのそれだったからである。


 しかしふと彼はそこに違和感を覚えた。瞳と肌の色が違うのだ。イチノジョウはどこまでも青く澄んだ瞳に雪のように白い肌であるのに対し、茶店の男はどちらかというと肌は黄色く瞳は黒か褐色に見える。それでもあの外見はそうそういるものではない。これまで第三王子であるが故にほとんど衆目(しゅうもく)にその姿を晒してこなかったイチノジョウが、それをいいことに密かにこのオオクボ王国に潜入したのかも知れないのだ。加えて共にいる女は普段彼を取り巻いている見目麗(みめうるわ)しい者たちとは比べるにも値しない醜女(しこめ)である。あからさまに帯刀しているし、恐らくは護衛の者ではないかと思われる。


「殿下、殿下! このようなところで一体何をされておいでなのです?」


 ヤシチは男の背後から近づいて周囲に気取(けど)られないように小声で話しかけた。むろん隣の女には聞こえる程度ではあったが、男はふとこちらを見ただけで女との他愛のない会話を止める素振りは見せない。まるで声をかけられたのは自分ではないとでも言いたげな態度である。


「殿下、私です。ヤシチです」

「えっと、デンカって誰です?」


 男は仕方ないという感じでヤシチの方に振り向いた。その表情は迷惑だという意思を隠そうともしていない。


「お忍びなのは承知しております。ですが殿下がこのような場所におられるのは……」

「お忍び? 何ですそれ。人違いしてませんか?」

「ヒコザ先輩、相手にしない方がいいですよ。変な人かも知れませんから」


 隣の女がヒコザと呼ぶ男の袖をちょいちょいと引っ張り、ヤシチの方を見ずにそんなことを言っている。耳打ちしているように見せてはいるが、その声は丸聞こえであった。


「女! 変な人とは失敬だぞ」

「いきなり後ろから声をかけてくるのは失敬とは言わないのですか?」

「まあまあユキさん、きっとこの人は私と誰かを人違いしてるだけだと思うよ」

「ま、真に殿下ではないのですか?」

「私はヒコザ、コムロ・ヒコザという者です。そのデンカという人とは違いますよ」

「そうであったか。いや、失礼した。それにしてもよく似て……」


 ヤシチは言いかけた言葉を呑んで一つ咳払いする。


「人違いなら今のことは忘れてくれるとありがたい。代わりにここの勘定は私が持とう」

「それには及びません。どうぞお達者で」


 ユキと呼ばれた女はそう言うと、すでに視線はヤシチの方に向いていなかった。ヤシチは釈然としないながらも、何度も二人を振り返りながら国元に向いた歩みを進めるより他になかった。




「変なおじさんでしたね」

「ユキさん……知らない人だからってあまりぞんざいにしない方がいいと思うよ」


 俺は腕を絡めて肩に頭を乗せてくるユキさんの、ほのかに香る甘い香りに心地よさを感じながらも苦笑いせざるを得なかった。


「でもあの人、ちょっと危険な感じがしました」

「と言うと?」

「デンカって言ってましたよね」

「うん」

「デンカって、名前ではなくて本当は殿下という敬称なのではないかと……」

「敬称? 姫殿下とかの殿下?」

「はい。それにあの身のこなしと雰囲気……きっとこの国の人ではないんじゃないかと思います」

「ええ?」


 言われてみるとそんな気がしないでもなかった。だいたいデンカが名前だとすると随分妙な響きで違和感しか感じない。日本人でもごく稀にそういう名前を付ける親がいるかも知れないが、やはり敬称として認識される方が自然である。


「なんか気味悪いね」

「ヒコザ先輩がどこかの王子様に似ているのだとすると、ちょっと気をつけた方がいいかも知れません」

「え? な、なんで? どうして俺が気をつけなきゃいけないの?」

「ふふっ! 女の子がたーくさん寄ってくるからですよ」


 おちゃらけた口調でユキさんはそんなことを言っているが、俺には彼女の目が笑っているようには見えなかった。もしかして何かとんでもないことに巻き込まれるのだろうか。俺はこの時、心から何も起きないことを願って止まなかった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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ストックはすでに五話ほどあります。

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