第十三話 もう二度と死のうとなんてしないで下さいね
「サンジと言ったな」
俺たちは再びシンサクの家に戻り、何やらおマサに詰め寄っていたサンジに声をかけた。
「ああ、あんた貴族様なんだってな。しかし関係ねえはずの貴族様が何だって言うんだ?」
「金はいつまでに用意すればいいのだ?」
「え? 貴族様が用立てるってのかい? こいつは驚いたぜ」
「貴族様!」
おマサが嬉しそうに声をあげる。
「私、どれだけかかっても必ずお借りしたお金はお返し致します!」
「い、いけませんぜ貴族の旦那。俺のためにおマサにそんな大きな借金をさせるわけには……」
「大金貨八枚は俺にとっても大金だ。用立てるかどうかはこれから考える。だからいつまでに用意すればいいのかと聞いているのだ」
考えると言った俺の言葉に、サンジは一瞬ホッとしたような表情を浮かべた。彼にしてみれば借金を回収出来てしまうと、自分の実入りがなくなるのだから気が気ではなかったに違いない。
「そ、そうか。期限は七日後だ。一応親分には十日後くらいまでなら待つように伝えるが……」
「いや、七日で構わない。七日で無理なら十日でも無理だからな」
「分かった」
「七日後におマサの働いている城門の前で落ち合おう。それと大金を支払うとしたら若いお前だけでは心許ない。だから親分というのも連れてこい」
「そうだな、一緒にきて頂くことにしよう」
「話は終わりだ」
サンジたち三人が帰っていったのを見届けてから、今度はシンサクとおマサに向かって語りかける。
「おマサ、お前の稼ぎでは大金貨八枚を返しきるまでに最低でも十年はかかるぞ。それに生活も切り詰めなくてはならないだろう」
「はい。覚悟は出来てます」
「そうまでしてシンサクを救いたいのだな?」
「はい!」
「おマサ、お前……」
「さてシンサク、お前は歯を食いしばれ」
「へ?」
「いいから言う通りにしろ」
そして俺は目を閉じて歯を食いしばった彼の頬に拳をめり込ませていた。殴った俺も痛いがこれは仕方がない。
「いってぇ!」
「貴族様、シンサク様に何を……?」
「聞けシンサク、その痛みはおマサの痛みだと知るがいい。そしてお前が死んだらおマサがどれだけ悲しむかも、よく考えることだ」
「旦那……」
その後、ウイちゃんがこの村の住人たちを呼び集め、シンサクの両親を埋めるのを手伝ってもらった。村人の話によると二人がおマサに辛く当たったのは、目が見えない彼女が農家に嫁いでもいずれ村から厄介者扱いされることが分かっていたからだったらしい。
シンサクの家は生産費が大金貨十枚もかかる広大な農地の持ち主である。そこに入る嫁が働けないとなれば、本人も居たたまれなくなるだろうとの配慮だったようだ。
それを聞いたおマサは無論だが、シンサクも驚いていた。そしてそんな彼の両親が死ななければならなかったことを、二人は心の底から悲しんでいた。
「大きな畑を持っていても作物を売った金で借りた生産費を払ったら、手元に残るのは大して多くはねえんだよ」
広大な農地の作業はとてもシンサクの家族だけでは無理なので人も雇わなければならない。そうした経費も含めた生産費は馬鹿にならないということなのだろう。
「皆ご苦労だったな。俺たちは帰るが、今夜はこれでシンサクの両親を弔ってやってくれ」
そう言って俺は村長と紹介された初老の男に小金貨二枚を手渡した。集まった村人は十人そこそこだから、散々飲んで食ってもこれだけあれば十分にお釣りがくるはずだ。
「おマサ、ありがとうな」
シンサクがおマサの手を握りながら言った。
「お前が来てくれなかったら今ごろ俺は……」
「もう二度と死のうとなんてしないで下さいね」
「貴族の旦那、おマサは……?」
「置いていってやりたいのは山々だが、おマサには仕事がある。落ち着いたら会いに来てやれ」
おマサも残りたそうではあったが、彼女には大金を借りるということがどういうことかを知ってもらわなければならない。死にもの狂いで働く、それがこの先彼女が生きていくためにも必要なことなのだ。
ただし、俺はおマサに大金貨八枚もの借金をさせるつもりなど毛頭なかった。この金は本来払わなくてもいいばかりか、シンサクは逆に農地をダメにされた分の弁済を受ける立場なのだ。加えて彼は両親まで失った。この代償はのしを付けてサンジに払わせてやる、俺はそう考えていたのである。
「アニキ、どう思います?」
「あの貴族のことか? いくら何でも大金貨八枚なんておいそれと立て替えられるモンでもないだろうよ。心配ねえって」
シンサクの家からの帰り道、サンジと手下二人の三人は、七日後に控えた返済について話していた。
「でももし金を返されたら……」
「そん時は仕方ねえ。親分に受け取ってもらうしかねえだろうよ。小遣いはなくなるが薮蛇になったら元も子もねえからな」
「そうですね」
「どっちに転んでも俺らが損することはねえんだ。気楽にしてりゃいいのさ」
三人はケタケタと笑いながら、肩を怒らせて帰っていった。




