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第三話 私は騎兵隊に入りたいんです!

 初めての会食会は(なご)やかなことこの上ない雰囲気だった。ひとまず最初ということで俺の両隣にはユキたんとアカネさんが座り、アカネさんの隣に護衛という名目のスケサズロウ君が席に着く。それからユキたんの隣には今回招かれた三人の女性が嬉しそうな顔で並んでいた。


其方(そなた)らが今回選ばれた者であるか」

「陛下のご尊顔を間近に拝する栄誉に浴しましたこと、末代までの(ほまれ)と致したき所存にございます」


 そこまで浴してくれなくてもいいんだけど。ちなみに今日の三人はいずれも城外からの通いの者だが、一番に並ぶために前日から泊まり込んだそうだ。会食への参加は先着順ではなかったが、特にこの三人についてはその努力を讃えて初回に招いたのだとツッチーが教えてくれた。


「陛下、この者たちは皆メイド見習いでございます」


 メイド見習いとはいわゆる雑用係のことで、昇進するとメイドさんになれるという職種らしい。城に住み込めるのはメイド職以上だから、彼女たちが通いというのもこれで合点がいった。


「この席では無礼討ちはないから言葉を選ばずともよい。願いがあれば聞ける範囲で叶えてやろう。無論、()に対する不満を述べても構わんぞ」

「そんな! 陛下に不満などあろうはずがございません」

「そうです。私たちいつも話してるんです。早く見習いからメイドに上がって、陛下のお側でお仕えさせて頂きたいと」


 メイドさんの中でも王族の給仕が出来るのは、メイド長から選任指名を受けた人だけなんだけどね。待遇が段違いによくなるらしいがかなりの経験と実績が必要で、その門戸は相当に狭いと聞いたことがある。まあ、それはこの場では言う必要はないだろう。彼女たちが自分の足で歩んで学べばいいことである。


「そうか、では其方らが余の後ろで給仕に立つ日を楽しみにすることとしよう」


 ところで会食会のメニューはもちろん厨房の(まかな)い料理だが、この日の三人分は新たに多く作らせたのではなく、メイドさん用の物を回すことにしたのだ。これ以上厨房に負担をかけるわけにはいかないし、メイドさんたちも会食に応募出来るのだからそこは納得してもらったというわけである。


「この料理は陛下が特にお気に召した厨房の賄い料理でございます」


 招かれた者たちは明らかにツッチーより身分が低かったが、俺の客ということで言葉遣いも敬語になるらしい。


 ちなみに今日の料理は豚肉の細切りと長ネギ、それにキクラゲのようなコリコリしたキノコを卵に絡め、オイスターソースに似た味付けで炒めたものだった。実は俺はこれが大好きなのである。初めて出された時からその味の虜となったほどなのだが、聞けば賄い料理の中でもかなり人気のメニューだそうだ。


「美味しい!」

「何これ、こんなの食べたことありません!」


 クリヤマは城の大食堂でも出したことはないと言っていたが、出せば間違いなく人気上位に入ることだろう。


「こんなに美味しいものを厨房の方たちは毎日……厨房にお役替えを願い出ようかしら」


 三人の中では一番肝が()わっているように見えるノゾミという子が、料理をじっと見つめながらそう呟く。それを見た俺は、彼女をちょっとからかってやることにした。


「そうか。余が許すぞ。厨房も人手不足らしいから助かることだろう。しっかりと働けよ。賄い料理は好きなだけ食するがよい」

「え……お、お待ち下さい陛下! 今のはほんの出来心で……」


 ノゾミは大慌てで俺に訴えてきたが、その様子に一同がどっと湧き上がる。


(たわむ)れだ。本気に致すな」

「陛下……あんまりです」


 泣き真似する仕草を見せたノゾミのお陰で、それまで緊張していた他の二人も場の空気に慣れてきたようだ。ユキたんもアカネさんも楽しそうに笑いながら食事を続けている。もうこの時点で、初めての会食会は大成功だと言っても過言ではないだろう。


「あの……陛下にお聞きしたいことがあるのですが……」


 そんな折、三人の中でもとりわけ気弱そうな子が、出された食事に手を付ける前にモジモジしながら小さな声を発した。彼女の名はエリコといい、他の二人とは違って貧しい農村の生まれだそうだ。


「遠慮はいらぬ。申してみよ」

「その、あの……へ、陛下の奥方になるにはどのようにしたらよいのでしょう」


 これには俺も含めて、食事を進めていた全員が吹き出しそうになっていた。まさか俺の嫁になりたいとか、そんなことを言われるとは思わなかったよ。他の二人もこの突拍子もない質問に真っ青になっていた。しかしおそらくは緊張のあまり思っていることと口に出したことに齟齬(そご)があるのではないかと思う。この気弱そうな少女がとてもそんな大それたことを言うとは思えないからである。


「はっはっはっ! 其方、エリコと申したか。余の妻になりたいと申すか」

「え? え?」


 やはりだ。エリコはキョトンとした表情で俺に顔を向けていた。


「も、申し訳ございません! ほらエリちゃん、陛下に謝って!」


 ノゾミがエリコを(つつ)いているが、俺はそれを手を振って制する。


「いや、構わぬ。だがすまぬな、余は今のところ新たに妻を迎えるつもりはないのだ」

「あ、あれ、私今なんて……?」


 ようやくここでエリコもこの空気が、自身の言動によって引き起こされたものだと覚ったようだ。本当は俺のような男性を射止めるにはどうしたらいいか、というようなことを聞きたかったらしい。真っ赤になって慌てる姿は、まるで出会った頃のユキたんを見ているようで微笑ましかったよ。


 だが、残る三人目のシノブという子は、真剣な眼差しで俺に願いを伝えたのだった。


「陛下、本心を申し上げます。私は騎兵隊に入りたいんです!」


今回本編中に出てくる料理は、西東京地区に何店舗かある南京亭という24時間営業の中華料理店で出される「玉子とキクラゲの炒め」をモチーフにしました。実際私はこれが大好きでよく食べに行きます。定食でも840円くらいとお手頃なので、機会があったら食べてみて下さい(^o^)

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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ストックはすでに五話ほどあります。

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