第二話 王族という自覚をお持ち下さい
「会食、でございますか?」
「うむ。七日に一度程度の割合でな、城内の者たちと気楽に話せる場がほしい」
「陛下はお気楽でも、相手はそうではございませんでしょう」
先日のメイドさんたちの要望からヒントを得た形だが、俺は出来るだけ多くの城内の者たちと直接話せる機会を設けたいと思ったのである。むろん一度に全員ということではなく、毎回数人の者を交えての昼食ということだ。これによって本来ならば俺とは言葉を交わすことさえ許されない立場の者からも、色々と情報を集めることが出来るというわけである。
しかしツッチーの言葉にも一理あると言わざるを得ない。自分で言うのも変だが、招かれる者にとって俺は雲上の人に等しい存在だ。反対意見を述べるなど以ての外だし、無礼があれば首が飛ぶ。これで気楽に、と言うのは無理があるというものだろう。
「酒席というわけではないが、無礼講ということにしてはどうだろう」
「それはよろしいと思いますが、果たして希望者がおりますかどうか」
誰も希望してくれなかったら寂しいよね。
「それと陛下に加えて妃殿下方までお揃いの席では、恐らく希望者がいても萎縮してしまうと思われますな」
「確かに。では会食の折は妻たちには控えてもらうこととしよう」
「護衛はいかがなさいますか?」
マツダイラ閣下に同席してもらうという手もあるが、そこで俺は打って付けの人物に思い当たった。スケサブロウ君である。彼なら俺の素性を知っているから萎縮するということはないだろうし、身分も平民上がりの騎士ということで特別高いわけでもない。しかし腕は確かな上に、マツダイラ閣下にしごかれて更に強くなっていると期待も出来る。
「なるほど、その者でしたら都合がよろしいですな」
こうして希望者が集まるかどうかは別として、七日に一度の会食が催される運びとなった。ただし護衛がスケサブロウ君一人では心配だということで、妻たちからも交代で二人ずつ参席することになったのである。もっともこれはユキたんたちが駄々をこねたというわけではない。国王だけでなく王妃とも話す機会を設けた方がいいという意見があったからだ。
それから数日の後に城内に対してこの会食会の告知がなされたのだが――
「陛下、大変なことになりましたぞ」
ツッチーが何やら慌てた様子で執務室に駆け込んできた。この人がこんな行動を取るのは極めて珍しいことである。
「何事だ?」
「何事じゃ?」
変な言葉遣いの今日の癒し役は、実はアヤカ姫ではなくアカネさんだった。彼女は時々アヤカ姫の口真似をして俺を笑わせてくれるのだ。
「それが会食会の希望者なのですが……」
「やっぱり誰もいなかったのか?」
「その逆にございます。申し込みは長蛇の列で、その多くが女性だとか」
「そう言えばご主人さま陛下、私の侍女も申し込むんだって朝から並びに行ったみたいですよ」
希望者が大勢なのは嬉しいけど、どうしてそんなことになっているのだろう。しかも女性が多いなんて。まあ俺はこっちではかなりのイケメンとして見られてはいるが、理由はそれだけではないような気がする。
「何が起こってるんだ?」
「きっとあれですよ、ご主人さま陛下」
そう言ってアカネさんは思い当たることを教えてくれた。それによると何でもサトさんとウメ姫に下した裁決が噂となり、城中で俺の評価がうなぎ登りなのだそうだ。加えてどこから聞きつけたのかおタエの話も広まり、今や俺は城内の女性の憧れの的となっているということだった。
「私は鼻が高いですよ、ご主人さま陛下」
「しかしそうなりますと、陛下を誘惑しようという不逞の輩が現れてもおかしくありませんな」
それは困る。ただでさえ俺は流されやすい性格なのだ。もちろんこれ以上妻を増やす気は全くないのだが、誘惑に負けて取り返しのつかないことにもなりかねない。
「それでしたら常に私たちの誰かがご主人さま陛下の警護をしなければいけませんね」
「まさか城内の女性に対する警護が必要になるとは思わなかったな」
「呑気なことを仰せの場合ではございませんぞ」
笑いながら茶化した俺に、ツッチーが真剣な面持ちでツッコミを入れた。
「王族という自覚をお持ち下さい。今後は妃殿下方以外の女性と二人きりになるようなことはございませんように」
今までもそんなことはなかったけどね。それに余程のことがない限り、癒し役の誰かが傍に付いてるのだ。いざとなったらウイちゃんもいることだし、それほど心配することでもないだろう。
俺の考えた通りこの心配は杞憂に終わるのだが、それとは別の問題が持ち上がることになるのだった。




