第四話 道中大儀であった
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「全ての者に、この国への出入りの自由を許可するのじゃよ。例外としては軍隊と武器を持った者だけじゃな」
「出入りを自由に?」
現在、国境を出入りするためには王国の許可と、そこそこの出入国税を納める必要がある。しかも許可を申請してから承認されるまでかなりの日数がかかるのだ。アヤカ姫の提案は、それら面倒なことを全て廃止し、身元を明かす物さえ持っていれば出入国を自由にするというものだった。
「身元を明かす手立てのない者には、わずかな代金で王国から身証し書を出してやればよい」
「しかしそんなことをすれば皆こぞってオダに出て行ってしまいますぞ」
今そうなっていないのは、出国に際し王国が課している出国税が非常に高く、普通の人にはなかなか支払えないからである。
「話は最後まで聞かぬか。自由にするのは出入りだけではない。特に商人には重い負担となっている商人税を撤廃する。また商い税も大幅に減税するのじゃ」
「商人税を廃止して商い税も軽減ですか? それでは王国の収入が大幅に減ってしまうのでは」
商人税とはこの国で商売をするための税、商い税とは商売で得た利益に対する税のことである。これらの税金のため、現状商人が手にすることが出来る利益は粗利の一割にも満たないと言っても過言ではない。
「その他、商いを取り仕切る商い主制度も廃止する。つまり、誰もが自由に商売を始められるということなのじゃよ」
「商い主制度まで廃止とは……ではその商いを管理するのは誰が?」
「王国、ということになるな」
商い主制度とは、例えば米屋を始めたいと思ったら、まずは米商い主に出店の許可を願い出る。米商い主は既存の米屋を営む商人の代表たちと協議し、場所や規模が妥当だと判断されれば出店が許可される。表向きはこのような制度なのだが、実はここに大きく利権が絡んでいるのが現状だった。
出店には米商い主や代表商人たちに支払う賄賂などが必要で、出店した後も商品の仕入れ先や販売価格まで米商い主たちの指定に従わなければならない。他にも毎月のいわゆる上納金を支払わねばならず、全てが雁字搦めというわけである。これが新規参入の妨げとなり、城下の活気を失いかねない元凶ともなっていた。当然だが商い主や代表商人が賄賂を受け取って便宜を図ることは違法である。
「しかしそれでは現在いる商い主たちが騒ぎ立てるのではないかと」
「其奴ら、叩けばいくらでも埃がでてくるのではないか?」
「確かに殿下のおっしゃる通りだとは思いますが……」
「賄に税はかからぬ、そう思ってかなり貯め込んでいる者もおるじゃろう。その不埒者たちを一網打尽にする機会でもあるぞ」
「賄の受け取りは王国に対する反逆と同じ。家名断絶の重罪でございましたな」
「それが嫌だというなら貯め込んだものを全て差し出させて、一から商売を始めさせればよい。もっともどうせ悪徳商売しかしておらんだろうから、すぐに立ち行かなくなるじゃろうがな」
アヤカ姫、それってかなり鬼畜っぽいけど、一部の人だけがいい思いをして、多くの領民が泣いているとしたら正さなければならないと思う。
「そうなると商い主や代表商人たちが逃げ出さないようにせねばならんな」
貪った暴利を吐き出させる前に国外に出て行かれてしまっては、身も蓋もない結果となる。
「左様、陛下の申された通りじゃ。よってまず行うは制度の廃止と其奴らの取り締まりじゃな」
「では早速に人員の選定を」
「いや、それには及ばぬ。余は適任者を知っておる」
そういう仕事ならヤシチさんに任せるのが一番だ。料理番はサナとリツに任せておけばいいだろう。彼の話だと二人ともかなり料理の腕も上達しているということだったし。
その後、細かいことは改めて詰めることとなり、会議はいったんお開きとなった。ヤシチさんには俺から事情を説明し、すぐに悪徳商い主と代表商人の洗い出しに着手してもらうことにした。この時料理番を任されたサナとリツは青くなっていたが、アヤカ姫の頼みだと言うと気合いが入ったようだ。なかなかに頼もしいと思う。
それからしばらくして午後も夕方近くになった頃、オオクボ王国からの使者であるガモウ・ノリヒデ伯爵閣下がこの王城に到着した。供は芸羅快翔部隊の指揮官に大抜擢されたという、アソウ・モンドと名乗る男である。彼は俺と同じくらいの大きな体躯で全体的に筋肉質、加えて左の額から右の頬まで大きな傷痕を刻んだ、見るからに屈強そうな風体だった。
「陛下にはお初にお目にかかります。アソウ・モンドと申します」
「うむ。道中大儀であった」
どうでもいいけど俺、めちゃくちゃ偉そうだよね。ガモウ閣下、俺のことを知ってるからって笑いを堪えないで下さいよ。
「早速ではございますが陛下、こちらに我が主よりの書簡を持参致しました。お目をお通し頂き、かねてより話があった同盟が成った暁には、すぐにこのアソウ率いる芸羅快翔部隊をオダとの国境に配備いたします」
「そうか」
俺が目配せすると、ツッチーがガモウ閣下から書簡を受け取ってくれた。この同盟の調印が済めば、晴れてタケダ王国とオオクボ王国の関係は強化される。つまりオダにとっては目の前のタケダに攻め込むと、その背後のオオクボ王国まで相手にしなければならなくなるということだ。しかも国境には芸羅快翔部隊が配備される。得体の知れない未知の部隊の存在には、さすがのオダ軍も二の足を踏まざるを得ないだろう。
「アソウ、部隊の配備にかかる日数は?」
「はい。調印が成されればすぐさま早馬を送り、翌日には国境を越えられるかと存じます。我が部隊は疾風の如くを旨としております故、その日のうちには陛下にお目見え。オダとの国境までに一日として到着するのは調印の二日後、遅くとも三日後には配備可能かと存じます」
俺たちが国境を越えてからここに到着するまで三日くらいかかったと考えれば、芸羅快翔部隊の動きはまさに疾風だよね。俺にお目見えするってことは、宴でも開いた方がいいのかな。
そんなことを考えているうちに、調印の儀は明日執り行われることが決まった。




