第一話 私はこれより全身全霊をもって陛下にお仕え申し上げます
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「タンバ、久しいのう」
謁見の間には警護を兼ねてユキたん、アカネさんの他にアヤカ姫が同席していた。彼女には多くの公務を取り仕切ってもらっており、このように誰かに会うといった時などは極力同席してもらうことになっているのだ。
「アヤカ姫殿下にはご機嫌麗しく」
「これタンバ、妾はもうただの姫ではない。王妃であるぞ」
「はっ! これは大変な失礼を」
「まあよい。陛下、この者はモモチ・タンバと申しましてな、父上秘蔵の忍者にして魔法使いでもありますのじゃ」
「ほほう、して、用向きは?」
「オオクボ・タダスケ陛下より、この城の警護に当たるようにと仰せつかって参りました」
「そうか、ではよろしく頼む」
次いで俺はヤシチさんたちに目を向けた。
「ヤシチ殿、久しぶりだな。サナとリツも、元気そうで何よりだ」
「陛下、初めてお会いした時より、いつかこんな日がくるのではないかと密かに考えておりました」
「そうか。して此度の用向きは何だ?」
「はい、オオクボ陛下よりこの城の料理番を仰せつかって参りました」
「料理番か」
そう言えばヤシチさんたちはオオクボ王国の城下で料理屋をやっていたんだっけ。それにしても、オオクボ陛下はいったい何人の遣いを寄こすつもりなんだろう。それもこれもきっとアヤカ姫を想ってのことなんだろうけど。
「ではよろしく頼むぞ」
「ははっ!」
「時にサナにリツ、食事は存分に摂れているか?」
「はい! ヤシチ様にはいつも食べきれないほどの料理を頂いております」
「そうか。二人とも、少し太ったか?」
「陛下、あんまりです!」
「これ、陛下に対し無礼だぞ」
「よいよい、これからも頼むぞ」
ヤシチさんは二人を窘めていたが、俺もユキたんたちもクスクスと笑っていた。
「あの、アヤカ姫……アヤカ妃殿下様!」
ところがそんな中で、サナが突然アヤカ姫に声をかけた。不敬を咎められてもおかしくない所業ではあるが、悪意を感じなかったので止めようとする者は一人もいなかった。
「なんじゃ? 苦しゅうないぞ」
「あの時はありがとうございました! アヤカ妃殿下様に頂いたパンの味は今でも忘れられません!」
「そんなことか、気にせずともよいわ」
「微かに乳の味はしなかったか?」
アヤカ姫のお胸を一瞬でも膨らませていたパンである。笑いを取るつもりでいたのに、ユキたんを始めとしてその場にいた女の子たちは全員俺をジト目で見ていた。やめて、それは何より痛いから。
「陛下、お言葉がはしたないです」
「ご主人さま陛下、ちょっとドン引きです」
ユキたん、それはないよ。そしてアカネさん、ドン引きってちょっとどころではないってことだよね。てかどこの言葉よ、それ。
「ま、まあ、四人ともよろしくな」
国王としての俺の株が大暴落したひとときだった。
「陛下、この度のウイ殿下の件は申し訳ございませんでした」
執務室でサッちゃんとスズネさんが傍らにいる中で、ツチミカドさんが俺に腰を九十度曲げながら詫びていた。彼は俺に命に代えても取り戻してみせると言った。それがなし得なかったことに深く心を痛めているようだ。しかし活躍こそなかったものの、先行したユキたんたちは無事に戻ってきたのだ。彼が気に病む必要はないだろう。
「このツチミカドの不手際、命をもって償えと仰せならば喜んで……」
「ツッチー、頭を上げよ」
「陛下……」
「ウイのことはそなたのせいではない」
「しかし、あのような大言を口にしておきながら私めは何のお役にも……」
それを言ったら多分、スケサブロウ君の立場がなくなると思うよ。彼はおナミちゃんのことしか頭になかったんだから。スケサブロウ君に比べたらツチミカドさんは俺に国王としての所作をこれでもかってくらいに教えてくれたからね。感謝こそすれ、罰するつもりなんて蟻の涙ほどもないさ。
「それよりツッチーには頼みたいことがある」
「はっ! この私めで足りることであれば何なりとお申し付け下さい」
「この城の中で、敵味方を選り分けてほしいんだ」
「御意」
俺が知りたいのは城内にオダに通じる者がいるかいないかである。もしまだ所在が掴めていないウメ姫の息がかかった者がいるなら、早めに対処しておかないとユキたんやアカネさんたちの負担が増えることになるからだ。これ以上、俺の大切な妻たちを危険に晒すわけにはいかない。
「して、敵と分かれば処分しても構いませんか?」
「いや、一度は改心の機会を与えてやってくれ。それでもダメなら牢獄へ。ツッチーの命に関わらない限り殺すのは避けてほしい」
「陛下に仇なす者であっても、でございますか?」
「余は思う。たとえ余に仇なす者であっても、それだけで殺せばその者に縁を繋ぐ者が遺志を継ぐ。これではいつまで経っても平穏は訪れぬ」
敵対するから殺す、では単なる独裁になってしまう。それは俺が一番避けたいところなのだ。
「陛下、私は陛下に謝らねばなりません」
「うん?」
「正直なところを申し上げますと、オオクボ陛下よりあなた様に仕えよと命じられた時には、体よくお払い箱にされたのだと思っておりました」
何でだよ、酷いよそれ。
「ですが今の陛下のお言葉を聞いて思いました。あなた様は真に国王に相応しいお方。私はこれより全身全霊をもって陛下にお仕え申し上げます」
や、やめてよいきなり。そんなこと言われたら泣きそうになるじゃないか。だがこの時、俺の中でツチミカドさんが、完全にツッチーになったのであった。
何言ってるか分からないとか言わない!




