第十一話 は、恥ずかしい!
「お嫁さんに?」
「はいっ!」
爛々と瞳を輝かせている彼女たちを前に、俺は正直戸惑っていた。幽霊姫と姫殿下を除いた四人は、すでに俺の未来の嫁となることがほぼ決定しているからだ。つまり改めてこの場で言わなければならないことでもないはずなのだが。
「えっと、それは姫殿下とウイちゃんも一緒にってこと?」
「それもそうなんですけど、私たちが言いたいのは今この場でお嫁さんにしてほしい、ということです」
「え? 今この場で?」
「そうです!」
俺はユキさんの言っている意味がすぐには理解出来なかった。だが、そこに集まった女の子たちの期待に満ちた表情を見て、ようやく何が言いたいのか分かったよ。
「つまり今この時から皆は俺の嫁になる。だから子作りしても俺の気持ちに反することもないと、こういうことかな?」
そういうことだったらしい。俺の言葉を聞いた彼女たちは殊更明るい笑顔が浮かべ、何度も頷いている。
「確かにそれは一理あるけど、手続きとかはどうするつもりなの?」
「ヒコザ先輩、大切なのは先輩と私たちの気持ちではありませんか? 形式張った手続きなど、今は問題ではないと思います」
「そ、それもそうだね」
ユキさんの言う通りかも知れない。もともとユキさんたち四人は遅かれ早かれ俺の嫁になってもらう予定だった。それが少し早まるだけのことである。姫殿下と幽霊姫が加わったのは想定外だが、場の雰囲気的に二人はダメというわけにはいかないだろう。
「一応確認なんですけど姫殿下」
「なんじゃ?」
「後で陛下にバッサリ、ということはありませんよね?」
「安心せい。父上はあれで妾の言うことは大抵お許しになるからの」
大抵ってところがちょっと不安だけど、これ以上ツッコんでも野暮なだけだよね。
「あとウイちゃん」
「私ですか? 何でしょう」
「俺は、というか普通の人は幽霊を嫁にしたことなんてないと思うんだけど、まさか挨拶はあの世のお父上に、なんてことはないよね?」
「うふふ、どうでしょう」
「ど、どうでしょうって……」
「ご心配なさらなくても大丈夫ですわよ。それに私と縁を結ぶということはアザイ家と縁を結ぶということ。アザイ一族がヒコザ様の後ろ盾になるということなのです」
これはまたとんでもないことになってきたぞ。もしかして俺は無敵になってしまうのではないだろうか。
「それはありません」
ウイちゃん、今俺の心読んだよね。まあ、残念だけど無敵になることはないってことか。俺が無敵になればユキさんやアカネさん、それにカシワバラさんを始めとする護衛の人たちに負担をかけることもなくなるんじゃないかと思ったんだけど。
「皆の気持ちはよく分かったよ。俺も男だ。そうまで言われて望まれてるのに、これ以上何か理由をつけて断り続けるのも情けないよね」
「そ、それでは!」
「うん、ここにいる六人全員を俺の嫁にしたいと思う。ただ……」
「ただ、何ですか?」
「ヒコザ、この期に及んでまだ何か条件を付けようというのか?」
「違いますよ姫殿下、聞いて下さい」
俺は六人を目の前にして、改めて居住まいを正した。
「六人全員を一緒くたにはしたくないんです。だからこれから俺が一人一人に求婚します。それに皆は応えて下さい。ただしこの求婚を受けた時から正式に俺の嫁になるということです。後戻りは出来なくなります。よく考えて、迷ったら断ってもいい。皆、それでどうかな」
「ヒコザ先輩、その提案素晴らしいです!」
「ご主人さまから求婚……考えただけで涙が出そうです」
ユキさんはうっすらと瞳に涙を浮かべ、アカネさんも言葉通りに目をしばたかせて泣くのを堪えているようだ。サトさんもカシワバラさんも同様である。対照的に姫殿下は真っ赤になってワクワクしているような雰囲気だった。
「それじゃ、まずはユキさんからでいいかな」
「え? ここで、ですか?」
「まさか! 俺は一人一人って言ったでしょ。隣の部屋でどうかな?」
ツッチーからはこの大部屋の両隣は空き部屋だと聞いていたのである。ユキさんはそこで一つ、大きく深呼吸した。それから意を決したように、俺の目をしっかりと見つめて言った。
「分かりました」
その言葉を聞いた俺はユキさんの手を取ると、彼女を伴って隣の部屋に足を向ける。何故か手を握った時にユキさんがビクッとした気がしたのだが、これからプロポーズされることを思って緊張しただけなのかも知れない。ところがこのアカネさんとのやり取りで、彼女がビクついた理由が明らかになる。
「どのくらいかかりそうですか?」
「え? そんなにかからないと思うけどどうして?」
「いえ、子作りってどれくらいかかるのかと思いましたので」
「アカネさん違うってば。今はまだ求婚して返事を聞かせてもらうだけだよ」
苦笑いしながらアカネさんに応えたのだが、今度はユキさんが両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
「は、恥ずかしい!」
どうやらユキさんもこれからすぐに子作りすると思っていたようだ。
「ユキさん……」
俺はこの時、自分の責任が想像以上に大きいことを感じていた。




