第十二話 ヒコザ様もご一緒ですわよ
「お帰りなさいませ、ご主人さま」
王城から戻った俺とユキさんを出迎えてくれたのはアカネさんとサトさん、それに幽霊姫だった。あれ、カシワバラさんがいないぞ。彼女はお城のメイドさんだから先に帰ったのかな。でもそれならアカネさんとサトさんが残っているのは不自然だ。ちなみにここ、俺の家である。
「皆まだいたの? カシワバラさんは?」
「コムロ様、そのお言葉はあんまりです!」
両腕をガッツポーズみたいにしてサトさんが抗議してくる。どうでもいいけど君がそのポーズをすると、お胸が物凄く強調されるから心臓に悪いんだよ。カシワバラさんの所在はスルーされてしまったから、手洗いか何かってことかな。
「いや、てっきり皆もう帰っちゃったと思ってたから」
「ご主人さま、陛下への言上はちゃんと出来ましたか?」
「うん、まあね。多分今頃はもうイシダの男爵閣下が王城に呼ばれてるんじゃないかな」
「対処が早いですね」
「ところでもしかして今日は帰らないつもりなの?」
うちはそこそこ大きくて部屋もあるから、彼女たちが泊まることになっても困りはしない。それに父ちゃんも母ちゃんもいるので、いつものアカネさんの悪ノリにユキさんが引きずり込まれて大騒ぎになる、なんてこともないだろう。
「はい、ご主人さまとお嬢様がお城へ行ってらっしゃる間にお母様がお見えになって、皆でお泊まりさせて頂けることになりました」
「そうなんだ」
「お泊まりってアカネさん、私たちの着替えなどはどうするつもりなんですか?」
「それをスズネちゃんが取りに行ってくれてるんです。もうそろそろ戻ってきてもいい頃だとは思うんですが」
サトさんの応えでようやくカシワバラさんがいない理由が分かった。でも彼女一人で四人分の荷物なんか持ってこられるのかな。
「そうそうご主人さま、お母様からの言伝があるのでした」
「うん?」
「寝るときはきちんと戸締まりしなさい、だそうです」
「分かった……って、母ちゃんは?」
「はい、お父様とご一緒に山小屋に行くっておっしゃってました」
ちょっと待て。てことは今夜は俺と女の子たちだけってことになるじゃん。さすがに俺の部屋には鍵なんて付いてないぞ。それに鍵があったとしても幽霊のウイちゃんには効き目が全くないし。
「あ、あのさ、それで皆が寝る部屋って……?」
「もちろん、ご主人さまの部屋に決まってるじゃないですか」
「待った待った、俺の部屋に四人……五人は無理だし、他に部屋だってあるんだからさ」
人数を言い直したのは幽霊姫を追加でカウントしたからである。そんなやり取りをしている中で、大きな荷物を抱えたカシワバラさんが戻ってきた。
「何のお話ですか?」
「今ね、皆がどこに寝るかって話してるところ。スズネちゃんもコムロ様の部屋がいいよね?」
「も、もちろんです!」
カシワバラさん、そんなに力強く応えなくてもいいから。
「でもご主人さまは何かご不満のようなんです」
「いや、不満というか……」
「ならご主人さまは他の部屋でお休みになられますか? それでしたら私たちは遠慮なく家探しさせて頂きますけど」
「こらこら」
やましい物なんて何もないはずだけど、この子たちに部屋中探し回られるのはかなり小っ恥ずかしい。
「そうですヒコザ先輩、それに先輩を一人にしたら姫君が抜け駆けするかも知れませんし」
「まあ酷い。でも何で分かってしまいましたの?」
それはウイちゃんの普段の行動を見てれば容易に想像出来るからだよ。てかそもそも本当に抜け駆けするつもりだったんかい。
「あのさ、さすがに皆が一緒だと俺が眠れないんだけど」
「どうしてですか?」
ユキさん、そんなに不思議そうな顔しないでよ。仕方ない、ここは一つ穏便に引き下がってもらうことにしよう。
「決まってるじゃん。こんなに可愛い女の子たちが隣に寝てたらさ、その、何と言うか……」
「かわ……」
よし、姫君まで含めた五人全員が真っ赤になってクネクネしだしたぞ。こういう時は不意打ちのように褒め言葉を発すれば、思い通りに誘導することが出来るというものだ。
「せ、先輩が寝られないというのはかわ、可哀想ですよね?」
「そうですね、寝られないのはかわ、お可哀想です」
ユキさんもアカネさんも、どうして同じところで噛むかな。
「私も今夜は大人しくしていようと思いますわ」
「それでしたら私たちはお母様からご案内頂いたお部屋で休むことにしましょうか」
サトさんの言葉にアカネさんとカシワバラさんが慌てているのが分かった。なるほど、母ちゃんはちゃんと彼女たちに泊まるべき部屋を伝えていたというわけか。しかし何にしてもこれで海の続きにはならなくて済みそうである。ちょっと惜しい気もするけど仕方ないよね。
「よかった、それなら俺もゆっくり眠れると思うよ。皆ありがとう」
俺は女の子たちに笑顔を向けた。その時ウイちゃんがクスッと笑ったのが気になったが、ここは気づかなかったことにしておこう。そう思った矢先のことである。当の幽霊姫がまたとんでもないことを口走った。
「では皆さんでお風呂を頂くことに致しましょう。もちろんヒコザ様もご一緒ですわよ」
「なっ!」
ペロッと舌を出してウインクしてきたアザイの姫君に、俺は不覚にもときめいてしまっていた。




