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第十七話 したのは口づけだけです!

 神様ゲームはその後も終わることなく続けられた。もちろん今度こそきわどい命令ななくなったけどね。


 嵐はその日の午後から弱まりを見せ始め、翌日以降はきれいに晴れて波も穏やかになっていた。そこでようやく俺たちは海水浴を楽しむことが叶ったのである。そして……


「とうとう明日は帰る日になってしまいましたね」

「色々あって最初はどうなることかと思ったけどね……」


 俺とユキさんは浜辺を二人で散歩している。他の三人と姫君は最後の夜の楽しみ、バーベキューを楽しんでいる真っ最中だ。


「それにしてもどういう風の吹き回しなのかな。あのアカネさんまで俺たち二人で散歩に行ってきていいなんて」

「ヒコザ先輩は分からないんですか?」

「え? ユキさん何か知ってるの?」

「さあ、どうでしょう」


 ユキさんはいたずらっぽく笑うと、俺の横から軽い駆け足で正面に回ってこちらに振り返る。麦わら帽子を手で押さえながら、白いワンピースのスカートを風になびくままに任せ、俺をじっと見つめる彼女の瞳にドキッとしてしまったよ。


「でも不思議ですよね」

「何が?」

「ヒコザ先輩って本当に素敵なのに、どうして私なんかを好きって言って下さるのか」

「私なんかって……」

「学校一の美人と言われるほどのケイ先輩には見向きもしないですし、タケダのくノ一(くのいち)に襲われた時だって私のぱん……私しか見てなかったみたいですし」


 ユキさんの縞々(しましま)を見たのはあの市場でのやり取りが最初だったと思う。よくミニスカートを履いているけど、中を拝ませてもらう機会は少ないんだよね。


「あはは、だって俺はユキさんに一目惚れしたようなもんだし」

「一目ぼ……そ、そんなことをさらっと言わないで下さい!」


 そうやって真っ赤になって恥じらうユキさんが可愛くて仕方ないんだよ。


「でも本当のことだし」

「こんなにブサイクなのに?」

「俺には最高の美少女に見えるんだけどな」

「もう! ヒコザ先輩、私をからかって楽しんでませんか?」

「信じられない?」


 岩場にきたところで、俺たちの姿はバーベキューをやっている皆から死角に入った。それを見計らってユキさんを半ば強引に抱きしめる。


「ひ……ヒコザせんぱ……ん!」


 ユキさんはいきなりのことに驚いて目を見開いていたが、構わず唇を重ねると途端(とたん)にクタッとなって全身を俺に預けてきた。それからしばらく、俺たちは互いの感触を(むさぼ)るように求め合った。


「先輩、もう戻らないと……」

「うん……あのさ、ユキさん」

「はい?」

「いつか二人でどこか行きたいな」


 もちろん他の三人のことを(ないがし)ろにするつもりはない。だが、どう考えても不器用な俺には四人を同時に愛するのは不可能に思えてならないのだ。だとすれば後は一人ずつ、じっくりと時間をかけて相対(あいたい)するより他はないと思う。


「ヒコザ先輩……私も同じ想いです」

「その時はアカネさんやサトさん、カシワバラさんが寂しがらないようにしないとね」

「そして私もいずれ、我慢しないといけない時がくるんですよね」

「ユキさん……」

「大丈夫ですよ。私だって貴族の娘ですから。今は無理でも頭では理解してます」


 今は無理と言った彼女は少し悲しげな瞳だった。


「きっとそれは皆も同じなんだよね」

「そうですね。でも先輩の優しさもちゃんと伝わってると思います。さ、戻りましょ」


 そう言うと何かを吹っ切るように、ユキさんは俺の腕を取って歩き出す。そんな彼女に引っ張られて、複雑な想いを胸に俺は皆の待つ浜辺に戻ったのである。


「二人でお散歩、いかがでしたか?」


 俺とユキさんの姿を見つけて、鉄板に肉やら野菜やらを並べながらアカネさんが尋ねてきた。ほんの(わず)かな時間ではあったが、アカネさんたちが二人だけにしてくれた理由は定かではない。ユキさんは分かっているような口ぶりだったが、聞いても教えてくれることはなかった。ところが、ここでまたしても姫君がとんでもないことを言い出したのだ。


「まあユキ殿、ご懐妊(かいにん)なさってませんか?」

「なっ!」

「そ、そんなわけありません! したのは口づけだけです!」

「ユキさん……」

「あ……」


 この後しばらく、俺は肉を食べさせてもらえなかった。

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本作の第二部は以下となります。

暴れん坊国王 〜平凡だった俺が(以下略)〜【第二部】

こちらも引き続きよろしくお願い致します。

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ストックはすでに五話ほどあります。

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