第四話 久しぶりにうちに泊まっていきませんか?
一人の持ち時間が半刻、その後に最終決定のために半刻、そういう時間配分だったはずだ。しかし結局四人の水着が決まったのは、市場が閉まる一時間前の宵五ツ、だいたい午後八時頃だった。
「ようやく皆の水着が決まったね」
「ヒコザ先輩、こんなに遅くなってしまってごめんなさい」
「いいよいいよ、納得出来るものが買えたんでしょ? 後で後悔するよりずっといい」
ユキさんが選んだ水着は白地に大きくてカラフルな花柄のビキニ。少し派手なような気もするが、花柄は可愛いし何よりユキさんによく似合っている。それにレモンイエローのパレオがセットになっており、俺の好みとしても申し分なかった。
アカネさんは水色地に白いドット柄のやはりビキニで、こちらも水色からライトグリーンへのグラデーションカラーのパレオが付いている。可愛さの中にも落ち着いた雰囲気のあるいいデザインだと思う。
サトさんの水着は黒地に小花柄があしらわれたフリル付きのビキニで、同じデザインのタンクトップと短パンがセットになったものだ。彼女の大きな胸を目立ちすぎないようにするために薦めたのだが、試着してもらったら物凄く似合ってて可愛かった。
カシワバラさんも他の三人に触発されて、最終的にビキニを選んでいた。ネイビーに白のペイント柄で、少し大人っぽい感じがする彼女にピッタリのデザインだ。こちらは同じデザインのタンクトップとミニスカートがセットになっていた。
「それにしてもコムロさん、試着の時は大変でしたね」
言いながらカシワバラさんは学校にいる時と同じようにクスクスと笑っている。俺は彼女たちが試着する間どこかに逃げていようと思ったのに、代わる代わる試着室の前でがっちりと両腕を掴まれていたのだ。その光景を勘違いした店員さんが、俺を痴漢と間違えて通報しようとしたのである。あの時は恥ずかしいやらみっともないやらで大変だった。
「全くだよ」
「でもヒコザ先輩のアドバイスで選んでよかったです。可愛いし皆にも似合ってるし」
「あはは、そう言ってもらえると俺も嬉しいかな」
それに選んだ水着はどれも俺の好みに合ってるしね。というかむしろ彼女たちが俺の好みを理解して選んだという感じだ。今から海に行くのが楽しみで仕方ない。
「ではこんな時間になってしまいましたけど、ご主人さまの水着を選びましょう」
アカネさんの言葉で、俺たち五人は男性用水着売り場に向かうことにした。とは言っても同じ店舗内を移動するだけである。
「ご主人さま、これはいかがですか?」
「まあ!」
「きゃあ!」
「……」
アカネさんが見つけたのは、あろうことかV字Tバック、要するに肩から股間にかけてV字型になるアレである。ちなみに反応はユキさん、サトさん、カシワバラさんの順だ。いくら何でもさすがにそれは着られないよ。
「いやいやアカネさん、真面目に選んでよ」
「で、でも先輩、試着だけなら……」
「ユキさんまで……」
俺は苦笑いしながら二人の頭をコツンとやる。ユキさんはペロッと舌を出したが、アカネさんは本当に残念そうな顔をしていた。アカネさん、もしかして本気でアレを薦めようとしてたのか。
それから俺は色々見て、オレンジに椰子の木の模様が描かれたサーフパンツタイプを選んだ。V字がダメだと分かるとアカネさんはしきりにブーメランとかビキニを薦めてきたが全て却下した。そんなの誰の得にもならないしね。
「ヒコザ先輩、今日は遅くなりましたし、久しぶりにうちに泊まっていきませんか? 旅行の打ち合わせとかもしたいですし」
「でも突然お邪魔して迷惑じゃない?」
「迷惑だなんてそんなことあるわけないじゃありませんか。ねえ?」
ユキさんが三人に同意を求めると、皆揃って何度も大きく肯いた。
「ご主人さま、こんなこともあろうかと、ご主人さまの分まで夕餉の支度もしてあるんですよ」
「そうなの?」
遅くなったし腹も減ったけど、市場は間もなく閉店なので食事は無理だろう。家に帰っても大した物はないだろうし、男爵閣下のお城にお呼ばれした方が確実に美味いものが食えるはずだ。
「じゃ、お言葉に甘えようかな」
「ではご自宅の方へはまた遣いを出しますね」
「うん、毎度申し訳ない。今度その遣いをしてくれる人にも何かお礼しなくちゃね」
「先輩お優しい。でも大丈夫ですよ。彼らはそれがお仕事なんですから」
そんな会話を交わしながら、俺たちはタノクラ城へと向かって帰路についた。




