第三話 コムロさんもあの下着のような感じのものがお好みなんですか?
午前中に小規模の水着取扱店を見て回った俺たちだったが、海水浴のシーズンとあってどの店も色とりどりの水着が陳列されていた。小さいからと言って正直侮っていたのだが、すでに女の子たちはお悩みモードである。当然各自がめぼしい水着を見つける度に呼ばれる俺はヘトヘトだった。
「ヒコザ先輩、これはちょっと大胆過ぎますでしょうか」
そう言ってユキさんが手に取ったのは、黒のビキニにフリルスカートが付いたものだ。パレオも可愛いとは思うが、これは下着に見えなくもないかなり攻撃的なデザインである。
「ユキさん、悪くはないと思うけど刺激的過ぎるかも。ユキさんにはもう少し可愛い感じのを着てほしいな」
じゃないと俺の水着がワンポールテントを張りっぱなしになってしまう。
「可愛い感じですね。分かりました」
「ご主人さま、これはどうですか?」
今度はアカネさんに手招きで呼ばれる。彼女が自分の体に当てて見せてきたのは、ネイティブ柄のバンドゥビキニだった。
アカネさんの胸も決して小さくはないが、他の三人が大きいので何となく気にしている節がある。その点バンドゥビキニは特に胸をきれいに見せられるということで今年の流行らしい。というのも、他の買い物客の女の子がそんなことを話しているのを小耳に挟んだのだ。つまりアカネさんの選択は間違っていない。ただ柄が少々派手すぎて、彼女には似合わないように思う。
「アカネさんはきれいなライトブラウンの長い髪なんだし、柄が派手だと浮くような気がするんだよね」
「きれい……分かりました! 派手過ぎないのを探してみます!」
髪を褒めただけだったが、彼女が照れて赤くなるのを見るのも嫌いじゃないし、むしろ可愛いからよしとしておこう。
「あの、コムロ様、私のこれはいかがでしょうか?」
「どわっ!」
サトさんが小走りに駆け寄ってきて俺に見せたのは、赤一色のビキニだった。しかもボトムがTバックになっているものだ。巨大な二つの胸に加えて、これではお尻と合わせて爆弾が四つになってしまう。
「さ、サトさん、それはちょっと目のやり場に困るし、それで岩場の陰にでも誘われたら……」
俺のテントのポールは間違いなく突き抜けてしまう、とはさすがに言えない。
「は、はい?」
「いや、だからね、もう少し布の面積増やそうか」
「そうですか? 男性はこういうのがお好きだって聞いたのですが」
誰から聞いたんだか。間違ってはいないと思うけど。
「嫌いではないけど、もう少し防御力ありそうなのを選んでほしいかな。他の人の目もあるんだし、サトさんのそんな姿を他の男には見せたくないから」
「え? そ、そそ、そうですか……コムロ様がそうおっしゃるなら……」
我ながらよく言ったものだと感心するよ。でもそうでも言わないとサトさんが納得してくれそうになかったからね。もちろん、半分は本心だから彼女を謀ったというわけではないよ。
「私はこんな感じにしようと思うのですけど」
最後はカシワバラさんだ。彼女が持ってきたのはオーソドックスな紺色の競泳用水着だった。それは学校指定の水着と大差ないようなデザインで、何と競い合おうとしているのか問いたくなる選択である。
「カシワバラさん、それは本気で泳ぐための水着なんだよ。もちろん海で泳ぐのはいいんだけど、もっとお洒落で可愛い水着を選んだらどうかな」
「で、でも、恥ずかしいですし……」
「他の皆を見てごらん。可愛いのばっかり選ぼうとしてない?」
武闘派の忍者として生涯を鍛錬に明け暮れてきた彼女にとって、くノ一の術を教わったとはいえこのような華やかな場所は苦手なのではないだろうか。しかし今はもう普通の生活を送っているのだ。彼女には一人の女の子として、俺は当たり前の楽しみを味わってほしいと願っている。
「コムロさんもあの下着のような感じのものがお好みなんですか?」
「う、うん? ま、まあ……可愛いからね」
あからさまに下着のようなと言われると答えに困ってしまう。白ビキニなんて男の目からすれば下着とほとんど変わらないし。
「分かりました。コムロさんに可愛がって頂けるのでしたらがんばって選んでみます!」
カシワバラさんにスイッチが入ったようだ。胸のところでガッツポーズすると、ビキニコーナーの方へ足早に去っていった。あれ、彼女ってそんなキャラだっけ。てか、可愛がって頂けるならってどういう意味?
ともあれ、午前中はこんなやり取りが続いたお陰でヘトヘトになったというわけである。だが昼食を摂った後、本番ともいえる大きなお店での水着選びが待っているのだ。でもまあ、疲れるけど彼女たちの楽しそうな姿は悪くない。
何たって四人とも、未来の俺の妻なんだから。