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夜の寂しい風が、彼の薄くなった頭髪を冷たくなぞる。バスの中には有象無象の男達の群。
それぞれが、巨大な工場のどこどこに所属しており、誰が誰だか知る術もないし、知りたくもない。共通しているのは、皆、なんらかのエモを抱えていて、それが日に日に育っていくこと。
万有引力のような見えない力が、皆をそっとダウナーにしていく。夏場はガッツリ働いて、冬は辞めて趣味のウインタースポーツに興じるとか、そんなんじゃない。
久保さんは淫行の過去を持つとか、むしろ、そっちに近い。
誰も笑っていなかった。笑っているのは僕らだけ。あの時点では、労働が辛いというだけで、エモの当事者意識はなかった。
それが自分のものとなるには、やはりあと10年必要だったのかもしれない。今ならわかる、おじさんのトラジティ。